第2話 美少女とゲームを?
『ねぇ黒崎さ……』
『興味ない。帰れ』
”孤高の黒姫”
黒く美しい姿で、誰であろうと周りに近づかせない。
そんな冷たい姿から付けられた異名だ。
『黒崎さんっていつも一人だよね』
『誰に対しても冷たいし、マジで何考えてんのかわかんない』
『それー、美人だから調子に乗ってるんでしょ』
いつも一人。
先生ですら彼女に近づく者はいない。
そんな黒崎に対して批判的な者はそれなりにいた。
『あの冷たく媚びない姿……いい』
『わかる。見ているだけで幸せっていうか……流石、孤高の黒姫』
『逆にデレデレ甘々してたらキャラ崩壊すぎて無理でござる』
美人だからか妙な人気を持っていたのも確か。
密かにファンクラブが存在し、彼女に妙な幻想を抱く者も一定層存在する。
(趣味ってあんのかな……)
俺はどっちでもない。
楽しめることがないか。そこが少し気になっただけ。
俺と黒崎は赤の他人同士。
住む世界が違う。
関わる事はないと思っていたが……
「は? 新筐体とはいえ曲少なすぎ。100円の重みを理解してないな」
そんな黒崎と俺はゲーセンで遊んでいる。
学校ではおなじみの毒舌を筐体に向けて吐く姿。
予想外の一面に俺もびっくりだ。
「全七曲ってやべー。せめて二桁は欲しいよ」
「事前情報で分かっていた曲しかない。問題は曲の実装速度に筐体の需要が耐えられるか」
「いやー、別のゲームに再利用されるのがオチだろ。ゲームは面白いかもしれんが」
「やろう。このゲームの世界を体験する為に」
不思議な喋り方、というか視点も独特だ。
世界観にのめり込むタイプか?
ストーリーゲーとか結構好きそう。
(さて、新筐体を楽しむか)
というわけで待ちに待った新作ゲームを楽しむ。
”リズムウォール”
音楽に合わせて電子パネルをタッチするリズムゲー。最大の特徴は左右の壁に設置されたボタンで、これを特定のタイミングで押すらしい。
こういう手持ちのコントローラーでは味わえない操作方法がアーケード筐体の魅力だよな。
(触りは悪くない……壁ボタンをタッチする独自システムも意外と面白い……)
試しに適当な曲を最高難易度でプレイ。
特に理不尽な要素もなく、操作方法もそこまで特殊じゃないからすんなり入っていけた。
オリジナル曲もテンポいいし、結構面白いのでは?
『FULL COMBO!!』
「あれ?」
なんかあっさり終わった。
意外と簡単だったけど……クリアしたら一個上の難易度が解放されるとか?
「え? これが最高難易度?」
しかし筐体は反応しない。
試しにネットで情報を探したけど難易度開放に関する記述はなかった。
これが一番上って……流石に簡単すぎだろ。
ある程度ゲームになれたら物足りなくなるって。
「このゲームはヌルすぎる。中級者以上が満足するには不十分と見た」
「マスターが最高難易度はちょっとなぁ。攻略する楽しみがない」
「ウチでもほぼミスがない。後ニ回くらいやれば……」
黒崎も終わったらしい。
チラっと画面を覗けば……お、ほぼフルコン。
結構上手いんだな。ゲーセンに通うだけあって、やっぱそれなりの実力があるらしい。
「あの短時間でフルコン? 人間か?」
「簡単だったからな。あの難易度なら他の曲も……」
「よし、勝負だ」
「勝負?」
黒崎の目つきが変わった。
すこーし目を細くして俺をにらむ。
ライバル意識を抱いてる?
「ウチも音ゲーには自信がある。フルコンだって初見で余裕」
「お、だったらその腕を見せてくださいよ~」
「任せな」
面白くなってきたじゃん。
ボコボコにする……つもりはないが、こうやってゲームで競い合う事はあんまりないから燃える。
「ウチは負けない」
自信満々の黒崎。
俺も気持ちをリラックスして二曲目に挑む。
果たして結果は……
「クソが。あんな初見殺し対応できるか」
「ぶっ」
台パンする音。
どうやらミスったらしい。
「笑った愚か者。レディーは優しく扱わないと好感度が下がる」
「いやぁ、ゲームにキレてる黒崎が面白くて……」
些細なミスでここまで感情的になれるか?
クールで冷たい学校生活とのギャップで思わず笑ってしまう。
「だけど他人とのゲーム。これはこれで新鮮な世界だ」
黒崎もかなり楽しめた様子。
こうして残りのクレジットを消費し、新筐体に別れを告げた。
「このゲームの世界はもういい。アプデに期待しよう」
「だな」
最初は面白いと思ったけど、俺からすればヌルすぎる。滅茶苦茶難しくしろってワケではないが、もう少し歯ごたえのある難易度にしてほしい。
まあアプデで曲と難易度の追加があれば改善されるだろうが。初日で見切りをつけられたし、別の筐体に再利用されるのがオチだろう。
グッバイ、サ終が決まったらまた来るよ。
「アケゲーが好きなのか?」
「というよりゲーム全般が好き。アーケードは独特な筐体で遊べるから面白い」
「わかる。音ゲーはアーケードの方がおもしれーわ」
「いい拘り。天谷の持つ世界がなんとなく見えてきた」
お、このこだわりがわかるか。
話してみると結構気が合うなぁ。
ゲーム好きってのも意外だけど、細かい拘りまで理解してくれるなんて。
「他のゲームでもして……あ、もうこんな時間か」
「帰る?」
「だな。奢ってくれてありがと」
だけど楽しい時間は終わり。
色々とやらないといけない事があるんだ。
まぁ、一通り終わったら寝るまでゲームするけど。
「ふむ」
「?」
黒崎の足が止まる。
何やら考えているみたいだが……
「ウチはまだ物足りない。家に来い」
「はい?」
孤高の黒姫による思い付き。
感想としては……距離感バグってませんか?
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