誰にでも冷たい『孤高の黒姫』をゲーセンで助けたら、一緒にゲームをする関係が始まった
早乙女らいか
第1話 黒姫が現れた
(人が多い……)
稼働当日のゲームは特別。その一瞬を台無しにするヤツは何がなんでも許さん。
と、やや過激な思想を持つ俺、
(学校をサボればもう少し早く……けど成績を落とすわけには……)
忙しい親に余計な心配をかけたくない。
ゲームがやりたくても学校にはちゃんと行くし、テストだってそこそこの点数を取るために頑張る。
でもしんどいなー。
新作や新筐体が出た日は休みたい。
休日稼働ならまだしも、平日は学校が終わるまで超憂鬱なんだよ。
あー……スマホいじるのも飽きてきた。
早く俺の番にならないかなぁ。
「ん?」
ふと顔をあげた時。
正面に並ぶ男が怪しい行動をしていた。
スマホを裏返している?
画面は見えないしなんの意味もないだろ。
しかも妙にかがんでいるのが……
「おい」
「っ!?」
何をしたいか分かった。
瞬間、俺は男の手を思いっきり掴んだ。
「な、何すんだ!? 手ぇどけろ!!」
「誤魔化すな。盗撮してたろてめー」
スマホを取り上げると、そこには撮影モードになっていたカメラアプリが。
この野郎。前に並ぶ女性のスカートの中を撮ろうとしていたな。
若い学生の短いスカートに興奮したか?
「大人を舐めやがっ……いだだだだだだだ!?」
「並んだ癖にゲームの邪魔すんな!! 店員に突き出してやる」
「ご、ごめんなさい~!! 勘弁してくれ~!!」
ただでさえ長い列なのに。
盗撮された女性も可哀想だが、それと同じくらいゲームの邪魔をする盗撮犯の存在は許せなかった。
その怒りも込めて、俺は盗撮犯の手を思いっきり握り潰す。
(あーあ、全部台無しだ)
カッとなって男を連行したが、俺は列から抜けてしまう。
つまり新作ゲームはお預けって事。
明日まで待つしかないかぁ……はぁ。
「……」
「ん?」
後ろの方から視線。
振り返ると、そこにいたのは黒髪の女子生徒。
確か盗撮されていた子だっけ……
って見た事ある。
制服を改造してるからわかりづらいけど、ウチの生徒じゃん。
(……やっぱ美人だなぁ)
彼女を一言で表すならとにかく”黒い”。
顔の下半分を覆うマスクも、
首元から覗かせるインナーも
ショールも手袋もストッキングも靴も、
何もかも黒で統一されたシンプルな美しさ。
だけど艶のある長い黒髪が覆う顔は雪のように白く、目元はルビーのように赤く輝いていた。
芸能人を前にしたらこんな感覚なのかな?
なんてくだらない事を考えたり。
「せ、せめて最後にパンツを……」
「黙れ。店員さーん、すみませーん……」
とりあえず盗撮犯を店員に差し出す。
軽く話して、
事情を説明して、
動画のデータも引き渡した。
後は適当にやってくれるだろ。
(さて……後はこいつか)
これだけ目立つヤツが学校で有名じゃないワケがない。話したことはないけど、友達が少ない俺ですら知っている。
っと、何か声をかけた方がいいか。
「盗撮されて気分悪かったろ。とりあえずデータは確保してるから……」
「嘘つき。ウチの心配よりゲームをやりたがっている」
「うぐっ」
なんでわかるんだよ!!
建前で話しているのが完全にバレてる。
はぁ、素直に話すか。
「そーだよ。楽しみにしてた新筐体なのに列の邪魔しやがって……まーじで許せねぇ」
「お、俺だってあれを……」
「うるせぇ!! ゲームと可愛い子のパンツ、どっちが好きか言ってみろ!!」
「ひぃい……」
くだらねぇ事を言いやがって。こっちはゲームの邪魔されてイラついてんのに。
「ふーん……おもしろ」
「え?」
何故、笑っている?
「貴方は違うね。自分に素直で正直だ」
「ゲーム好きで何が悪い」
「悪いとは思わない。むしろ」
彼女は俺に近づく。
赤い目で俺をじいっと見ながら。
「ウチに媚びない態度。それが何より評価できる」
まるで悪魔に
低い声と怪しい笑い方が、俺の全身をゾクッとさせた。
「変態を突き出したら一緒に遊ぼ」
「はぁ? なに勝手に決めて……」
「誰かさんのプレイ料金を払いたい、かも」
「お前めっちゃいい奴だな。やろやろ」
こいつエスパーか?
俺の欲求にピンポイントで答えてくれるとは。
今、無意識に好感度あがったぞ。
「素直すぎ。ほんと面白い」
俺から顔を背けて身体を震わせる彼女。
多分、笑ってる。
「後、勘違いはしないで。別に惚れたわけでもないし恋愛的フラグも一切経ってない」
「期待もしてないし、フラグが経つにはイベントなさすぎだろ」
「けど、明日からイベント山盛りかも」
「なんで?」
何があるんですか一体。
俺はゲームがやりたいだけなんです。
厄介な爆弾イベントは勘弁してくれ。
「楽しみだね……名前なんだっけ」
「天谷奏多だ。お前は確か……んぐっ」
彼女の手が口を塞ぐ。
「”
アニメの登場人物のようにかっこつけて名乗る。その姿は心の中に厨二を飼っている者には深く刺さる……と思う。
「かっけー」
「今のアホみたいで可愛い」
「アホってなんだおい」
若干不満を抱えながら俺はアーケード筐体が多くある場所へと向かう。
勿論、黒崎も一緒に。
警察が来たらまた色々話すかもしれないが、それまでは楽しもう。
って新筐体の周りに人がいねぇ。
もしかしてクソゲーだったか?
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