第7話 一人社長の全権総会

会社の名は「シングル・イニシアチブ株式会社」。

株主総会が開かれる朝、会場に現れたのは、社長――ただひとり。

彼が手にする株券の束、それは全発行株式100%。

議長、社長、株主、全役職を兼ねる、“ワンマン”の名にふさわしい男だった。


窓の外では春の陽が差し、

広すぎる会議室には、椅子がぽつんと一脚。

彼はそこに腰かけて、慎重にスーツの裾を正す。


「それでは、第3期定時株主総会を開会します」

言いながら、自分で自分に会釈をする。

「議長、まずは業績報告をお願いします」

「はい、承知しました」

自分に向かって堂々と発表する姿は、もはやコントのようだ。


「今期は赤字でしたが、次期は必ずV字回復を目指します」

「本当にできるのかね?」

「やってみせます」

時折、自分で鋭いツッコミを入れ、

うっかり笑ってしまう。


「それでは、議案第1号、取締役選任の件を審議します」

「反対意見は?」

「……特にありません」

「賛成の方はご起立ください」

社長は自分で立ち上がり、拍手までしてみせた。


議事録も自分で記入。質問も自問自答。

「株主からのご質問はありますか?」

「そもそも、なぜ独りで会社をやっているのかと――」

「それはですね、夢をカタチにしたかったんです」

「寂しくないんですか?」

「ときどき、ちょっとだけ」


部屋の静けさに、時計の音だけが響く。

それでも彼は、最後まで誇り高く議事を進めていく。


「以上をもちまして、本総会は閉会といたします。ご清聴、ありがとうございました」


誰もいない拍手が、虚空にこだまする。


でも、その瞳は少し誇らしげだった。

“自分だけの会社”を守るということ。

それは、孤独だけど――誰にも負けない自由だった。


外に出れば、春の風。

彼は深呼吸し、今日もまた、ひとりで会社の未来を切り開いていく。

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