世界中の恋を切り抜いてみた。
@fukuao
第1話 友梨、陸、高校二年生、交際六ヶ月
あいつ、俺(私)のこと好きでしょ。
世の中の大半のカップルは勘違いで始まっている。作り上げられた好き。実際は、当事者は気づくこともないだろうが、付き合えそうだから恋していると錯覚し、恋してると信じるから壊れ始める。友梨、陸、高校二年生、交際六ヶ月。
午後からは雪予報の午前九時、傘を持たず友梨と陸は駅前で立っていた。
「私たち別れよっか。」
友梨は軽く言った。
「そうだよね。薄々感じてたし、俺も思ってた。」
陸は作ったような笑いをわざとした。天気はまだ晴れのまま、電車が来たのか増える人、世界は空気を読んではくれないようだ。もはや喜んでいるのか。
私は二年生になってすぐに陸と出会った。陸とはただ席が近かったのをきっかけに仲良くなった。ずっと二人で話してた。陸はあまり人とは慣れ合おうとはしないから、時折見せる優しさは私だけのものだと思った。告白されたことには不思議とあまり驚かなかった。最初は多分恋だと半信半疑だったけど付き合えば付き合うほど、新たな陸に気づいて恋だと信じるようになった。でも恋と思ってからは自分のどこかにある理想の恋と比較し始めてしまった。いずれこの恋自体が理想になると信じたけど一度恋に違和感を覚えたら終わりだった。この人はとことん気を遣ってくれて優しい、悪く言ってしまえばそれだけだ。ただ優しいだけの男とは付き合うのは考え直した方が良い。友達が言っていた。ここですぐに納得されてしまうあたり、やっぱり優しいだけの男にしかなれないこの人は、私に対しては。少しまだ期待したいと思っていた心が嬉しくはない方の意味で笑った。
俺は友梨の誰とでも気さくに話せるような明るい性格を好きになった、つもりだった。だけど友梨と他の人より長い時間話している自分にはどこか他の人には見せない特別が含まれていると思ってた。付き合ったらなんとなく自分だけのものになると考えた。告白してOKされたことは嬉しさというより安心だった。でもいざ付き合っても普段と変わらない、特別感なんて感じない交際だった。ここで「俺だけのものになれ。」とかくさいセリフ言ったら、自分が好きであろう友梨を否定するよね。恋ってこんな独占欲だけで成り立ってていいのかよ。大体、俺は彼女に対して誰でも抱けるような好きしか持ってない。じゃあ恋における本当の好きって?わかんないよ。それでもこれは恋だと信じたけど、信じようとしていること自体矛盾を感じてきた。友達感覚で付き合えるのが理想とか誰かが言ってた。俺もそうだと思ってた。だけど違った。なら、友達でいいじゃない。別れの言葉はすぐに受け入れた。これが彼女を思っての最大限の優しさだ。
「別れても友達に戻りたいね。」
友梨は言った。
「うん。もちろん、明日からはちゃんと友達だよ。」
陸は笑いながら言った。二人で揃えていたスマホのホーム画面が揺れる手に反応して二つ同時に静かについた。
二人はとりあえずの笑顔で別れると二人とも帰り道で涙がこぼれた。しかしこれは『別れた』という事実に対してではない。何かを失ったからだ。別れた日に結局降らなかった雪はその次の日に降った。その後、二人が友達に戻ることも話すことすらなかった。
お互い触れてはいないが、恋する理由に『相手は自分が好きかもしれない』という仮説があったのだろう。恋とは信じて出来上がるのではない。本来、信じずとも好きの意味に気づいてしまうものでなければならない。
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