第2話 迷宮とは

 -----(大島視点)-----


 今日1日で色々な情報を入手した。


 迷宮を踏破するとそこは『安定』する。魔物の出現はなくなり、中央の螺旋階段も使用できるようになる。つまり、他の階層への出入りが簡単になる。


 しかし、迷宮の『安定』は街の住民の『安全』に繋がるが『繁栄』からは遠ざかる。

 それはこの世界の、いや、全世界がそうとは知らないが、少なくともこの辺の地下都市は、迷宮による恩恵をかなり受けている。


 迷宮によると言うよりは迷宮に現れる魔物からの恩恵と言うべきか。食材としては勿論の事、爪、牙、毛皮など。そしてスキル石。

 スキル石によるスキル取得の恩恵はかなり大きいと見た。子供は早い段階でスキル石に触れさせるそうだ。スキルを入手してその後に自然な鍛錬によるスキルアップ。


 スキルの自然な鍛錬……、自動翻訳では表面的な理解しか出来なかった。もっと聞いてみたい気がする。が、それは自衛隊に任せるか。


 それから生きた迷宮から採れる鉱物。これは踏破済みになると採取が難しいそうだ。

 鉱物が消えるわけではないようだ。そこある。だが、採るのが難しいらしい。



 迷宮がある。そこからの魔物に怯える日々をおくるか、迷宮を踏破して魔物に怯える日々はなくなる、しかし魔物から得る物もなくなる。

 なるほど、メリットとデメリットが共存する世界か。安定と繁栄が対極にある世界、どこの世界でも安寧に生きるのは難しいのか。



「不安定な世界の方が、伸び代があるんじゃないか?」



 清みんのひと言。思わず納得しそうになったが、それってつまり、どっちがいいって事だ?



「つまり、迷宮の魔物に怯えて暮らす方がいいって事か?」


「違う違う。……んとさ、不安定って言ったのは、安定と繁栄のどっちも選べる良い世界だって思った。完全に安定した世界、魔物も出ない、迷宮も全部踏破した世界。それってもう、終焉に向かってるっぽくない? で、迷宮があって魔物も出るけど、魔物を倒せば色々と貰えるし、危険だけどそれはそれでラッキーって感じ。倒しても何も出ないなら、危険損だけどさ」



 危険損……、なるほど、確かにそうだ。が、『危険損』初めて聞いた言葉だな。



「ほら、この世界の人も地下に住んだりしてるじゃん? それって地下に住めるのも、迷宮踏破のおかげでもあるし。踏破してもしなくても、どっちもメリットあるなら、どちらかに決めなくていいんじゃないかって思う。出来る限り美味しいとこ取り?出来たらいいよねぇ」



 清みん、普段はおとなしく見えるが実は物凄く貪欲なのでは?そういえば、空間スキルを持っていて、回復スキルもあって、スライムまでテイムしている。

 俺、なんで気が付かなかったんだ。清みんは貪欲王だ。俺は清みんについていこう、そう思った。




 翌日も例の踏破済み迷宮へと行く予定になっている。午前中はそこへ。午後は未踏破迷宮へ行くそうだ。

 デスエの周りには『未踏破』迷宮が幾つかあると聞いた。その中のひとつへ向かう。清みんも誘ったが「行かない」と言われた。


 え、昨日のあの立派な発言は? メリットを獲りに行かなくていいのか?


「今は……ちょっと、その、あまり、メリットに感じないかな? ほら、前にちょっとだけ見たじゃん? 今のところアレで気が済んでる」



 ああ、子供と若者で混み合ったあの迷宮か、うん、そうだな。あそことは別の迷宮らしいが、通路に近い階層は似た感じらしいからな。


 自衛隊としては、今後住む事になる場所の近くにある危険は把握しておきたいのだろう。

 昨日と同様に清みんと数人の隊員を残して迷宮をまわった。午後いっぱいかけて、デスエ近辺の迷宮をはしごした。


 移動はダイソナーという2〜3人乗りの地龍に似た動物だ。地球には生きた地龍はいなかったはずだが、ファンタジーのアニメや漫画で見るものと似ていた。

 清みんのスライム同様、この生き物もテイムしているのだろうか?


 3佐も俺と同じ疑問を持っていたらしく、案内をしてくれていたデスエの人に聞いていた。

 しかし自動翻訳で、『テイム』にあたる言葉が上手く伝わらなかったようで、結局謎は解けなかった。


 テイムをしたのか?と聞いていたが、名前を聞かれたのかと思ったようで、ダイソナーの名前をそれぞれ教えてくれた。3佐は一応メモをしていた。


「こいつらの顔の区別がつきません。名前を言われても判別できる自信はない」


「ですよね。俺もです」



 清みんは自分のスライムはちゃんと判別出来ている。テイムしている飼い主のみが判る何かがあるのだろうか。



「うち、あ、地球の実家の話ですが、親が犬を8匹飼っていまして、しかも全部同じ犬種なんですよ」



 同じダイソナーに乗った隊員が後ろから加わる。



「俺には全部同じに見えるんですが、おふくろはちゃんと見分けてるんです」


「あ、それ、動物園とかもそうですよね。客にはわからないけど世話をしている飼育員にはわかるってやつ」



 横から別の隊員も加わる。



「テイムとか関係なしに判る人は判るってやつですかね」



 なるほど、言われてみればそうだな。異世界だとつい考えがちになるが、地球でも普通の事だった。

 人間だって双子の区別は他人にはつかなくても、親兄弟には判る何かがある。


 俺は営業マンとしてつい、『顧客の顔の特徴と名前』を覚えるくせをつけてしまっていたが、自然にわかる、ってのもあるのかもしれない。

 兄弟も居ないしペットも飼った事がない俺には、なかなかに難しいものだろうな。



 そうして、幾つかの生きた迷宮を周り、3佐達は緊迫した危険はない事を確認していた。

 ただ、突発的な『何か』はあるらしい。


 アレだろう。『ダンジョンから魔物の氾濫』。うん、あるあるだな。

 えっ、違う?


 上(地上)から、大型の魔物が天井を踏み抜いて落ちてくる?


 そっちですね。

 3佐達は10階層より下にすべきかと話していた。

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