第18話 生命の最適化
季節は幾度となく巡り、生き物たちは自分の“最適解”を模索し始めていた。
俺はひとまず、新たな生物に手を加えるのをやめ、この世界そのものを見て回る事にした。
ノムスと一緒に作った川を辿って、湖へ、谷へ、そして山へ——。
これまで俺たちは、まだまだ狭い範囲でしか活動していなかったせいで、山向こうなんかまだ一度も訪れていない。
そこはまるで“時間が止まっていた”かのように手付かずのまま。
懐かしい姿のまま残された、最初期の植物たちが風に揺れていた。
(生き残ったのか)
あの、凍てつく冬を越えて。
もしかしたら、雨と同じように、この一帯には雪が降らなかったのかも知れない。
地形が変われば、冬の厳しさも違ったのか——そんなことを考えながら、俺は山の斜面を見下ろす。
(ここには何を植えようか)
雲は海からやって来る。だから山の斜面は海側に雨が多くて、反対側は雨が少なく乾燥している。
山頂にあるカルデラ湖(かつての火山口が湖になったもの)みたいに作られた湖から、来た方向とその反対側の谷へ向かって、細い川が流れている。
おかげで繁殖能力のない元の植物も、かろうじて生き残っていたようだった。
(地球だと、山は針葉樹とか苔とかだよな。山の湿原に行った時は、木にとろろ昆布みたいな苔が引っかかってて、面白かったっけ)
食虫植物もあった気がする。小さな飛ぶ虫が多くて、それを栄養にしていたんだろうと思われた。
(もしかして、あれは土に栄養が少ないのか? 広葉樹だと腐葉土が出来るけど、針葉樹は常緑の植物だから、あまり葉が落ちない…?)
だから土に栄養がないせいで、足りない栄養を虫から補う食虫植物が生まれたのか。
(岩山じゃないから大丈夫、だと思いたいけどなぁ…)
そう思いはするけれど、それでもいつか、使われる栄養の方が多くなればそういう進化が行われるのかも知れない。
(あっ、広葉樹だったとしても、その落ち葉を分解する虫もいなければ、さらにそれを分解する微生物もいないじゃん……)
地球の完成された自然循環には遠過ぎて、思わず無い頭を抱える。
(——ん? それってスライムもできるよな?)
取り込んだものを、細かくして、溶かして。
なんなら俺たちスライムの、得意分野だ。
(よし、それならまずは、“木”を作ろう。土壌を整えるには、循環元が必要だ)
最初の木は山の南側に植える事にする。
光合成が多く行われる方が、早く大きな植物が育つだろう。
(草の構造は分かってるけど、木だと何が違うんだろう?)
アフリカのセコイア?バオバブ?の木は、地中から水を上へと運ぶ限界までしか枝を伸ばせない。地中から水を引き上げる力が、どこかで尽きてしまうからだ。
だから成長限界まで行くと、一本足のテーブルみたいに、天辺が平らになっているのが特徴的な植物だった。
(つまり身体のどこかに、水を上へと上げる構造が必要なんだ)
それは細い管を水に浸すと水が持ち上がる、毛細管現象とは違う原理だろうか?
根っこがポンプの役割を果たすって聞いた事はあるけど、根っこが収縮しているのを見た事はないし…。
(あれ? 灯油ポンプは最初の灯油を送り込めば、後は勝手に流れてたよな?)
上から下へ、という違いはあったけれど、流れができて途切れさえしなければ、連続して液体は送られていくはずなんだ。
(じゃあ、上で“何か”が水を吸い上げている? 上にあるものって言ったら、枝、葉っぱ——)
ふと、葉の裏には気口というものがあって、水分や空気を取り込んだり吐き出したりしている——と習ったのを思い出す。
(つまり、気口から水分を蒸発させる事で、遠い地中から水を引っ張り上げているのか……!)
点と点が繋がる。
こういう発見があるから、この世界に来てからは楽しいんだ。
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