Side津垣彩菜

 よしよし……いったん、いっっったん落ち着こう。さぁー状況を整理しろ津垣彩菜。もしかしたら全然大丈夫だったりするかもしれない。


 今日、私は彼氏である京ちゃんこと早瀬京介とデートの約束をしていた。カレンダーを確認……うむ、日付に間違いはなさそう。そして、待ち合わせの時刻は11時。言わずもがな、AM11時。……おや。何度見ても、私愛用のあいふぉーんには12:02という数字が浮かんでいる。私が寝ている間に何か、この世の理が大きく変わるような出来事が起こっていない限り、私は

 「大寝坊だ」

 きちんと自分の置かれた状況を理解した私は、京ちゃんから来たラインの通知を見て再度、現状の自分の最悪さを認識した。私は彼氏を一時間以上も連絡なしで待たせているのだ。


 ☆


 どんなに急いでいても今から行くのがデートである以上、最低限は化粧をしていかなければならない。朝ごはんは諦める。京ちゃんと合流次第、軽食を食べよう。

 遅刻に関しては、謝ったら許してくれた。

 『しゃーないしゃーない』

 『切り替えていこ』

 なんだか点を取られたゴールキーパーに掛けた言葉の使い回しみたいな返信をもらった。まぁ多分、許しを得たと解釈していいだろう。

 さぁ、化粧が終わった。後は全力で急ぐのみ。家から駅までは走って6分。そこから電車で一本、15分。ひー、ふー、みー、えーと……彼への報告は少し余裕をもって

 「30分程でつ、く、か、ら……と」

 『おっけ、適当に時間つぶしてる』

 『焦らず気を付けて来てね』

 あぁ、なんていい男なんだろう。


 ☆


 都内の駅で休日とはいえ、お昼時は流石に人が少ない。自販機で買った紅茶を飲みながら、2分後にやってくる急行を白線の内側ギリギリで待つ。

 ここに来る途中大きなレジ袋を二つ抱えたおばあさんを見かけた。健全な若者としてはここで、彼氏との約束があるけど見て見ぬふりは出来ない、なんて言って助けに行くのがお約束の展開なのだろうが、ごめんなさい。そこまでの正義感を、私は持ち合わせていない。こういうのも約束を破ると表現するのだろうか。……別に悪いことをしたわけではないので、まぁ大丈夫だとは思うが、今日は全く徳を積めていないことが少し気になった。別に信心深い訳では無いが一応、天罰的なのが来ないように祈っておきたくなった。


 どうかこのまま何事もなく、彼の元まで行けますように。

 なーむー。

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