第28話 戦場の奇跡と無双の支援

緊急の国家救済作戦が発動された、翌日のことだった。

王都の広場には、負傷した兵士や、

飢えと疫病に苦しむ市民たちが、

ごった返していた。

彼らの顔には、絶望の色が深く刻まれている。

(皆……どうか、希望を捨てないで!)

私は、侯爵令嬢としての完璧な笑顔を貼り付け、

広場の中央に立つ。

私の隣には、騎士団長の甲冑を身につけたリオンがいる。

彼の顔は、緊張で引き締まっていた。

その背中には、国家の命運が重くのしかかっている。

彼の手には、作戦の指揮を執るための、

分厚い命令書が握られていた。


「皆の者! 恐れることはない!」

リオンの声が、広場に響き渡る。

彼の声は、疲弊した兵士たちや市民の心に、

わずかな希望の光を灯した。

「我が王国の最精鋭が、今、立ち上がる!

そして、ここに、奇跡の魔法がある!」

リオンは、そう言って、私に視線を向けた。

彼の瞳は、私への揺るぎない信頼に満ちていた。

その視線を受け、私は一歩前に出た。

(大丈夫よ、リオン。

私の魔法なら、きっとこの国を救えるわ!)

私は、最大限の魔力を練り上げた。

王族や有力貴族、そして宮廷魔導師団の面々が、

広場の端で、私を固唾を飲んで見守っている。

宮廷魔導師団長の目に、私への強い警戒の色が見えた。

だが、もう、そんなことを気にしている場合ではない。


「【ディメンション・ゲート!】」

私の詠唱が、広場に響き渡る。

詠唱を終えると同時に、

私の体から、膨大な魔力が放出された。

広場の中央に、空間がぐにゃりと歪み、

巨大な光の扉が出現する。

その扉は、あまりにも大きく、

あまりにも荘厳で、

その場にいる誰もが、息を呑んだ。

光の扉の向こうには、

国境の最前線で戦う兵士たちの姿が、

はっきりと見えた。


「国王陛下のご命令により、

これより、負傷兵を王都へ、

食料と医薬品を前線へと転送いたします!」

私の声が、広場に響き渡る。

兵士たちが、指示に従って、

光の扉の中へと足を踏み入れていく。

最初は戸惑っていた市民たちも、

兵士たちの姿を見て、安堵の表情を浮かべた。

広場に運び込まれていた、

大量の食料や医薬品が、

次々と光の扉へと吸い込まれていく。

その光景は、まさに奇跡だった。


王族や貴族たちは、その規模に戦慄していた。

「こ、これが、大量転送魔法……!」

宮廷魔導師団長の声が、震えている。

彼は、信じられない、という顔で、

私の魔法を見つめていた。

国王陛下も、その光景に、

目を見開いている。

物資不足に苦しんでいた兵士たちは、

瞬時に届く食料と医薬品に歓喜し、

絶望の淵にあった戦況は、劇的に好転していった。

王都の市民たちも、

負傷した家族が王都へと転送され、

治療を受けられることに、涙を流して感謝した。

王国の各地で、私の魔法が、

これまでの常識を覆す奇跡を起こしていく。

私の魔力は、限界に近い。

だが、人々の希望に満ちた顔を見るたび、

胸が熱くなり、力が湧いてきた。

(リオン……この魔法が、

あなたの力になれているといいんだけど!)

私は、疲労に耐えながら、

魔法の制御を続けた。


数時間後、王都の混乱は、

奇跡的に収束へと向かっていた。

広場には、もはや病に倒れる者も、

飢えに苦しむ者もいない。

最前線の兵士たちからも、

戦況好転の報告が続々と届いている。

私の魔法が、この国を救ったのだ。

国王陛下は、私の前に進み出た。

その顔には、深い感動と、

そして、何かを決意したような光が宿っていた。

「アリシア・フォン・グランツベルク侯爵令嬢よ」

国王陛下の声が、厳かに響き渡る。

「汝の才覚、そして、この国を救った功績は、

もはや、筆舌に尽くしがたい。

この国に、汝のような宝があることを、

誇りに思う」

国王陛下の言葉に、私の胸は高鳴った。

だが、その後に続く言葉に、

私は、思わず息を呑んだ。


「つきましては、その奇跡の魔法を、

どうか、この国家に、我が王家に捧げよ」

国王陛下の言葉は、

私への、ほとんどプロポーズのような響きだった。

国家に魔法を捧げる。

それは、私の魔法が、

完全に王家の管理下に置かれることを意味する。

つまり、私の自由は、完全に奪われる。

(そんなこと、ありえない!)

私の脳内は、瞬時に大パニックに陥った。

せっかく手に入れた自由を、

ここで手放すわけにはいかない。


その時、隣に立つリオンの体が、

微かに震えているのが分かった。

彼は、王の言葉を聞き、

その瞳に、強い不安と、

そして、嫉妬の色を浮かべていた。

(リオン……!)

私は、彼の視線を感じた。

彼が、私が国家に、王家に取り込まれてしまうことを、

恐れているのだ。

私の魔法が、彼の隣から奪われるかもしれない。

そんな彼の不安が、私には痛いほど伝わってきた。


私は、国王陛下の言葉を遮り、

リオンの方へと顔を向けた。

そして、彼の手を、強く握りしめた。

「私の魔法は、この国のために使います」

私の声が、広場に響き渡る。

「ですが、私のこの命、私のこの力は、

誰かの管理下に置かれるものではございません」

私の言葉に、国王陛下も、

貴族たちも、宮廷魔導師団も、

全員が、驚きに目を見開いた。

(ふふん、驚きなさい!

私のチート魔法は、誰のものでもないのよ!)

そして、私は、リオンの瞳を真っ直ぐに見つめ、

微笑んだ。

その笑顔には、彼への揺るぎない愛と、

そして、自由への強い意志が込められていた。


リオンの瞳に、安堵の光が宿った。

彼の顔が、みるみるうちに赤くなる。

彼は、私の手を、強く握り返した。

(バカね、リオン。

私の魔法も、私の心も、

全部、あなたのものなんだから!)

私の愛は、公衆の面前で、

明確に、彼へと捧げられたのだ。

国王陛下は、私の言葉に、

苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、

私の魔法が、確かに国を救ったという事実の前では、

もはや、何も言えなかった。

この国の運命をかけた大規模な救済作戦は、

成功を収めた。

そして、私の愛の行方も、

この日、はっきりと示されたのだった。

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