第27話 国家救済作戦とリオンの決断

王都は、絶望の淵に沈んでいた。

飢饉と疫病は、日を追うごとにその猛威を振るい、

市民の悲痛な叫びが、街のあちこちで響き渡る。

国境からは、魔物災害の報告が後を絶たない。

(このままでは、本当にこの国は滅んでしまう……!)

私は、侯爵邸の窓から、

荒れ果てた王都の光景を眺めていた。

私の手の中には、

この危機を救う、唯一の希望がある。

「大量転送」魔法。

この魔法を、今こそ使うべきだ。


私は、すぐに侯爵(お父様)に謁見を求めた。

お父様は、連日の対応で、

すっかりやつれ果てていた。

その顔には、深い疲労と、

国家の危機への絶望が刻まれている。

「お父様、私に、この国を救う方法がございます」

私の言葉に、お父様は、

力なく首を横に振った。

「アリシア、無理をするな。

お前の気持ちは嬉しいが、

もはや、何をしても手遅れだ」

だが、私は諦めなかった。

私は、転移魔法の概念と、

その可能性について、

お父様に必死に訴えた。

もちろん、私が魔法を使えることや、

その力がチート級であることは伏せた。

ただ、「古文書に記された秘儀」として、

その存在を提示した。


お父様は、半信半疑の様子だったが、

私の真剣な目に、何かを感じ取ったのだろう。

彼は、国王への謁見を取り付けてくれた。

王宮の会議室では、

国王陛下を始め、有力貴族や騎士団長、

そして宮廷魔導師団長が、

重苦しい空気の中で議論を交わしていた。

彼らの顔には、絶望の色が濃く浮かんでいる。

「もはや、打つ手は残されていないのか……」

国王陛下が、力なく呟いた。


その時、私は一歩前に出た。

「国王陛下、私に、この危機を救う策がございます」

私の言葉に、会議室の全員が、

驚いたように私を見た。

彼らの視線が、私に集中する。

宮廷魔導師団長の目に、

私への強い警戒の色が浮かんでいるのが見えた。

(ふふん、私を誰だと思ってるのよ!)

私は内心で笑いつつ、

「大量転送」魔法の概念を説明した。

もちろん、私が使えるとは言わない。

「古文書に記された、幻の魔法でございます」と。


最初、貴族たちは私の言葉を嘲笑した。

「戯言を! そんな魔法があるものか!」

「侯爵令嬢が、何を血迷ったか!」

彼らは、私の言葉を一蹴しようとした。

だが、宮廷魔導師団長が、

その場で、私の言葉に反応した。

「……幻の魔法、だと?

もしそれが真実ならば、

国家の運命を左右するほどの力となる……」

彼の声には、深い警戒と、

そして、かすかな期待が混じっていた。

彼らは、すでに私の能力の痕跡を掴んでいる。

だからこそ、私の言葉に、

無視できない何かを感じ取ったのだろう。


国王陛下は、魔導師団長の言葉を聞き、

私の提案に、わずかな希望を見出したようだ。

「よかろう。アリシア・フォン・グランツベルク。

その策、試してみる価値はある」

国王陛下の言葉に、貴族たちは騒然となる。

そして、緊急の国家救済作戦が発動された。


作戦の指揮官には、リオンが任命された。

彼は、最前線で兵士たちを率いる、騎士団長として。

王都のギルドにリオンを訪ねた時、

彼はすでに騎士団長の甲冑を身につけ、

凛々しい顔で指示を出していた。

その姿は、まさしく、

この国の命運をかけた英雄だ。

(リオン……!)

私は、彼の元へと駆け寄った。


「アリシア! なぜここに!?」

リオンが、驚いたように私を見る。

私は、彼に、私の計画の全てを打ち明けた。

「私の転移魔法が、国家の危機を救う唯一の手段よ。

だから、私をこの作戦に入れてほしい」

私の告白に、リオンの瞳が、驚きに見開かれた。

私の魔法の真の力が、彼に伝わったのだろう。

彼は、私の両肩を強く掴んだ。

「……お前、本気なのか?」

彼の声には、驚愕と、

そして、私を危険に晒すことへの葛藤が滲んでいた。

(大丈夫よ、リオン。

あなたのためなら、私は何でもするんだから!)

私は、彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。

「ええ、本気よ。

私を信じなさい」

私の言葉に、リオンの瞳が揺れる。

彼は、深く息を吐き出した。

そして、私の体を、強く抱きしめた。


「……分かった。お前の覚悟と力を信じる」

彼の声が、私の耳元で響く。

その声には、私の安全への不安と、

そして、深い愛情、揺るぎない信頼が込められていた。

(リオン……!)

彼の温かい腕の中で、私は、

この上ない安心感に包まれた。

この瞬間、私たち二人の絆は、

国家の命運をかけた、

新たな次元へと昇華した。

リオンは、騎士団長として、

この国の命運を一身に背負っていた。

そして私は、その彼の隣で、

私のチート魔法を駆使し、

この国を救う救世主となる。

二人の揺るぎない信頼が、

未来への道を切り開く。

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