第8話 隷属の鎖と鉱山の気配

 リズとの戦いから数日、バスタは大陸の西部、岩だらけの荒野を歩いていた。


 左目のモノクルが脈打ち、フルカスの老執事のような声が響く。


「若様、少々急ぎすぎではございませんか? リズとの戦いで傷ついた体、休息が必要かと」バスタは剣を握り、赤毛を風になびかせる。


「うるさいな、フルカス。リズに勝つには、もっと力が要る。次のレガリアはどこだ?」


「ふむ、若様の情熱はご立派。ですが、力だけでなく知識も必要。わたくしからソロモン72柱のレガリアについてご説明いたしましょう。説明会でございますな」


 バスタは岩に腰を下ろす。


「説明会? まぁ、いいぜ。話してみろ」フルカスが落ち着いて始める。


「若様、ソロモン72柱のレガリアには吸収と隷属のルールがございます。レガリアを吸収した者は、敗れた悪魔を隷属化。隷属化したレガリアは主が破棄するか、知人や従者に引き継ぎ、組織を作って500年に一度の悪魔の王の戦いを有利に進めるのです。

 ただし、重要な点がございます。吸収・隷属化されたレガリアは、通常のレガリア保有者が能力を使う場合に比べ、能力が6割程度に制限されます」バスタは眉をひそめる。


「6割? なんでだよ?」フルカスが穏やかに続ける。


「さよう、隷属化されたレガリアは主の意志に縛られ、完全な力を発揮できぬのです。そのため、強いレガリアは保有者から直接奪い、仲間に譲渡することが推奨されます。リズ殿がガープの万年筆を従者に渡す可能性も、その戦略に基づくもの。

 しかし、奪われるリスクを恐れ、吸収や隷属化を選ぶ者が多いのです。結局、力の均衡と戦略の駆け引きが、悪魔の王の戦いの鍵でございますな」


(組織化…リズもガープの万年筆を誰かに渡すってことか? でも、奪われるリスクか…)バスタが尋ねる。


「じゃあ、ガープの万年筆はリズの従者に渡される可能性があるってこと?」


「さよう。ただし、隷属化したレガリアは2度目の吸収はできず、破壊するのみ可能。ガープの万年筆はブエルに隷属し、リズの意志に従うか、破棄されるか、従者に渡されるか…いずれにせよ、ガープの自由は失われたのです」


 バスタは拳を握る。


(破壊のみ…なら、俺はレガリアを吸収して組織を作る側にならなきゃな!)


「過去の王のレガリアってどんなの? リズが言ってた、アスタロトとかバアルとか。アスタロトってのは俺が居た村も隠れ里だけど、アスタロト帝国の一部だった気がするぞ」


「ご興味が? よろしい。アスタロトは隕鉄でできた大剣。星の力を宿し、敵を一撃で砕いたと伝わります。バアルはクリスタル製の十字架。光を操り、敵の心を惑わす力。これらは当時のレガリヤ使いの勝利とともに、大国や宗教の名に刻まれたのです」


 バスタは立ち上がり、剣を握る。


「隕鉄の大剣、クリスタルの十字架…俺もそんなレガリア集めて、俺は王になる!」


「ほほ、若様の野心、嫌いではございません。さて、次のレガリアの気配、西方の鉱山に感じます。荒れ果てた場所ですが、妙な力が漂っておりますな」


 バスタは荒野の先に目をやる、黒い岩山がそびえる。


(鉱山…どんな敵が待ってる?)


「フルカス、行くぞ。どんなレガリアだろうと、ぶっ壊して先に進む!」


「承知いたしました、若様。ですが、ご注意を。鉱山の気配…存在はしっかり感じますが溢れ出る魔力は少なく感じますな。隷属化したレガリアを持つ従者の可能性も」


「どっちでもいいぜ、普通か多少だが弱くなってるって事だろう。倒しやすくていいじゃねーか!」



 鉱山の崩れた坑道入口。


 モノクルのレンズ越しに赤い光が揺らめく。


 バスタは剣を構え坑道に踏み込む、暗闇の中で足並みにあわせて革靴のカツカツという音だけが響く。


 フルカスが言う。


「若様、敵です。気配は一人…ただ者ではございませんな」


 坑道の奥から、30代半ばの男が現れる。


 ぼろぼろの革鎧、手に鎖に繋がれた鉄球を引きずり、こちらに一歩また一歩と近づくなか男の目が赤く輝き、笑みを浮かべる。


「へへ…ガキか。フルカスのモノクル…いい獲物だな」


 バスタは剣を構え、叫ぶ。


「お前、誰だ! その鉄球、レガリアだろ!?」


 返答せず男が鉄球を素振りもなく振る。鎖が唸り、坑道の壁を砕く。


「俺はただの従者。主に拾われた、隷属したレガリアの使い手だ。この鉄球…第42番目、ヴェパルの力。海の嵐を呼び、敵を粉砕する!」


 フルカスが冷静に言う。


「若様、ヴェパルは隷属化したレガリア。吸収はできず、破壊のみ可能。鉄球の力は強力ですが、隷属ゆえに6割程度の能力しか発揮できませぬ。距離を取って戦い、鎖の動きを封じなさい!」


 バスタはニヤリと笑う。


「隷属だろうが関係ねえ! 6割だろうが10割だろうと俺がその鉄球、ぶっ壊してやる!」


 ヴェパルの従者が鉄球を振り、坑道に嵐のような風が吹き荒れる。


 バスタは跳び飛来する鉄球を避け、剣で鎖を狙う。


 戦いが始まる。


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