第32話:沢村賞受賞、夢の実現
劇的な逆転サヨナラホームランで
リーグ優勝を掴み取った夜は、
まるで夢の中にいるようだった。
雄太の歓喜に満ちた顔、
チームメイトとの抱擁、
そして、球場を埋め尽くす大歓声。
その全てが、私の目に焼き付いている。
彼の努力が、ついに報われたのだ。
優勝の興奮冷めやらぬまま、
私たちは、沢村賞の発表を待っていた。
リーグ戦が終わり、
彼の圧倒的な活躍は、
すでにメディアでも連日報じられていた。
「沢村賞は田中雄太で決まりか」
そんな見出しを見るたびに、
私の胸は、期待で高鳴った。
けれど、喜びと同時に、
私は小さな不安も抱えていた。
沢村賞は、投手として最高の栄誉。
彼が、本当にその賞に選ばれるのだろうか。
期待が大きければ大きいほど、
もし、違った場合を考えてしまう。
私の手のひらは、
じんわりと汗ばんでいた。
数日後、自宅で、
雄太が電話を受けている姿を目にした。
彼の顔が、みるみるうちに、
喜びで輝いていく。
その表情を見た瞬間、
私の心臓は、大きく跳ね上がった。
間違いない。
きっと、沢村賞の知らせだ。
電話を置いた雄太が、
私の方へ振り返った。
その瞳は、涙で潤んでいた。
「美咲……!」
彼の声は、歓喜に震えていた。
もう、何も言わなくても分かった。
彼の表情が、その全てを物語っていた。
「沢村賞、もらったよ……!」
彼の言葉を聞いた瞬間、
私の目から、熱いものが、
ぶわっと溢れ出した。
喜びと、安堵と、
そして、これまでの彼の苦労を思うと、
嗚咽が止まらない。
彼が、高校時代に一度諦めた夢。
その夢を、多くの人々の支えと、
彼自身の血の滲むような努力で、
ついに掴み取ったのだ。
「おめでとう、雄太……!
本当によかった…!
本当によかったね…!」
私の声は、涙でぐちゃぐちゃだった。
彼の元へ駆け寄り、
私は彼の胸に飛び込んだ。
雄太の腕が、私を優しく抱きしめる。
彼の体温が、私に伝わってくる。
彼の心臓の音が、私の耳に心地よく響く。
その確かな鼓動が、
私を深く落ち着かせてくれた。
彼の肩に顔を埋めると、
陽に焼けた肌から、
努力の証が伝わってくるようだった。
「美咲、ありがとう。
お前がいてくれたからだ」
雄太が、私の頭を優しく撫でながら、そう言った。
その言葉一つ一つが、
私の心の奥底に深く染み渡る。
これまでの全ての苦労が、
雪のように溶けていくような、
そんな温かい気持ちになった。
彼の隣に、こうして寄り添っていられること。
その尊さが、何よりも私を幸せにした。
私にとって、これ以上の喜びはなかった。
すぐに、沢村賞受賞のニュースは、
全国を駆け巡った。
テレビでは速報が流れ、
インターネットでも、彼の偉業が大きく報じられた。
「二刀流で沢村賞は史上初の快挙」
そんな見出しが、あちこちで踊っている。
彼の活躍が、
多くの人々に勇気を与えている。
その事実が、私には何よりも嬉しかった。
会社の同僚たちも、
社内全体でお祝いムードに包まれていた。
「うちの雄太が、沢村賞だ!」
「本当に、夢みたいだ!」
彼らは、驚きと誇らしさで沸き立っていた。
部署の掲示板には、
雄太の大きな写真と、
「祝!沢村賞受賞!」という
手書きの文字が張り出される。
山下先輩も、遠くから私を見て、
小さく頷いてくれた。
彼の不器用な優しさが、
私には何よりも心強かった。
夜、二人でささやかなお祝いをした。
普段は飲まないお酒を、少しだけ。
グラスをカチンと合わせる音は、
私たちの新しい栄光を祝うかのようだった。
彼の目の輝きが、
いつにも増して眩しい。
沢村賞という最高の栄誉を掴んだことで、
彼の瞳の奥には、
さらなる高みを目指す、
強い光が宿っていた。
彼の夢は、もう彼の夢だけではなかった。
彼の挑戦は、私たち皆の希望に変わっていた。
そして、それは、
私自身の人生を賭けた挑戦でもあったのだ。
この先に何が待っていようと、
私は彼と共に、この道を歩んでいく。
そう、心に誓った。
夜空には、煌々と輝く満月が浮かんでいた。
彼の温かい掌が、私の手をそっと包み込む。
その確かな感触が、私たちの絆の深さを、
何よりも雄弁に物語っていた。
私たちは、固く手を繋ぎ、
次なる高みへと、歩み始めた。
アオハルに還る夢。
その夢は、今、確実に、
私たちの目の前で、眩しく輝き続けていた。
彼の伝説は、ここから、
さらなる高みへと、深く深く刻まれていくのだ。
その輝きは、夜空の星々をも凌駕するほどだった。
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