第三部:夢の継承、そして永遠のアオハルへ
第25話:エースの責任、美咲との絆
真の二刀流として、
雄太はプロの舞台で輝き続けていた。
投手としても打者としても、
彼はチームのエース、そして主砲として、
不可欠な存在となっていた。
彼の登板日には、球場は満員になり、
彼のバットから快音が響けば、
地鳴りのような歓声が沸き起こる。
彼の野球人生は、
まさに、絶頂期を迎えようとしていた。
メディアからも、連日注目を集めていた。
テレビのニュースや、
スポーツ雑誌の表紙を飾る彼の姿を見るたび、
私は、彼が遠い存在になっていくような、
そんな微かな寂しさを感じることがあった。
けれど、家に帰れば、
彼はいつもの、優しい雄太に戻る。
そのことが、私にとって何よりの癒しだった。
「ただいま、美咲」
彼の声を聞くたびに、
私の心は温かさに包まれる。
彼のユニフォームからは、
球場の土と汗の匂いに加えて、
多くの人々の熱気のようなものが感じられた。
その全てを、私が受け止める。
それが、私の役割だった。
彼のスケジュールは、
想像以上に過密を極めていた。
練習、試合、移動、そして取材。
休む間もないほどに忙しい毎日。
疲労で、彼の顔に影が差すこともあった。
彼の肩の古傷が、私には常に心配だった。
二刀流という過酷な挑戦は、
彼の体に、計り知れない負担をかけている。
けれど、佐々木コーチは、
雄太の体を完璧に管理してくれていた。
緻密な登板間隔の調整、
練習メニューの細かな見直し。
彼の体質に合わせた、
オーダーメイドのような管理体制が、
雄太の最高のパフォーマンスを
維持させているのだと、雄太は話していた。
佐々木さんがいてくれるからこそ、
雄太は安心して、二刀流を続けられる。
その事実に、私は心から感謝した。
そして、私自身もまた、
彼の精神的・肉体的なサポートに、
これまで以上に力を入れた。
栄養満点の食事を作ることはもちろん、
彼が心からリラックスできる時間を
作ってあげることを何よりも大切にした。
彼が「疲れた」と漏らすことがあれば、
私は黙って、彼の体をマッサージする。
彼の筋肉の張り一つ一つから、
彼の今日の頑張りが伝わってくる。
その全てを、私の手で癒やす。
それが、私の愛の形だった。
夜、マッサージ中に、雄太がぽつりと呟いた。
「美咲といる時が、一番落ち着くんだ」
彼の言葉に、私の胸は温かくなった。
彼が、どれほど多忙な日々を送っていても、
私との時間が、彼にとっての「帰る場所」で
あり続けている。
その事実が、私にとって何よりの喜びだった。
私たちは、オフの日には、
できる限り二人きりの時間を大切にした。
人混みを避けて、静かな公園を散歩したり、
彼の好きな映画を家でゆっくり観たり。
何気ない時間が、
私たちにとっては、何よりも尊かった。
手を繋いで歩く道。
彼の温かい掌の感触が、
私を安心させる。
その時間が、彼の心身を癒やしているのだと、
私は信じていた。
彼の野球ノートは、
これまで以上にびっしりと書き込まれていた。
投手としての課題、打者としての課題。
その両方を、高いレベルでクリアしていくために、
彼は常に探求し続けていた。
私は、そのノートを読むたびに、
彼の野球への情熱が、
決して尽きることがないことを感じた。
彼の努力の跡が、そこに刻まれている。
それは、彼がどれだけ真剣に夢を追いかけているかを示す、
何よりも雄弁な証拠だった。
鈴木さんもまた、雄太の活躍に、
特別な感情を抱いているようだった。
彼のコメントは、もはやライバルとしての嫉妬ではなく、
純粋な敬意と、ある種の共鳴に満ちていた。
彼は、雄太の活躍を自身の刺激とし、
一軍のエースとして、さらなる高みを目指している。
二人の間には、私には立ち入れない、
けれど、互いを深く理解し合う絆がある。
そう感じた。
彼の夢は、もう彼の夢だけじゃない。
私と、そして彼の周りの大切な人たちの夢になっていた。
彼の挑戦は、私にとっても、
人生を賭けた挑戦だった。
この先に何が待っていようと、
私は彼と共に、この道を歩んでいく。
そう、心に誓った。
夜空には、満月が煌々と輝いていた。
彼の温かい手のひらが、私の手を握る。
その温かさが、私たちの絆を、
何よりも強く、私に感じさせた。
私たちは、固く手を繋ぎ、
次の目標へと歩み始めた。
アオハルに還る夢。
その夢は、今、確実に、
私たちの目の前で、輝き続けていた。
彼の伝説は、ここから、
さらに深く刻まれていくのだ。
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