第24話:真の二刀流、リーグの星へ

あの緊急登板から、雄太の運命は大きく変わった。

彼の投手としての才能が、

改めて球団内で認められたのだ。

そして、ついに、

先発ローテーションの一角を担うことが決まった。

その知らせを聞いた時、

私の心臓は、歓喜で大きく跳ね上がった。

夢にまで見た、二刀流としての活躍。

彼が、その舞台に立つ日が来たのだ。


私は、彼の隣で、

彼の野球人生が、

再び大きく動き出したことを感じていた。

投手としての練習も、

野手としての練習も、

どちらも手を抜くことなく、

ひたむきに打ち込む雄太の姿は、

見る者を圧倒するほどだった。


一軍のローテーション投手として、

雄太はマウンドに立ち続けた。

彼の投げる球は、

唸りを上げ、打者のバットを空を切らせる。

鋭い変化球は、打者の読みを外し、

次々と三振の山を築いていった。

投手として、彼は確実に結果を出していた。

そして、打者としても、

好機で値千金のヒットを放ち、

時には、ホームランを打ち込む。

彼のバットから放たれる快音は、

スタジアム全体を震わせた。


真の「二刀流」として、

雄太はプロの舞台で輝き始めた。

彼の登場は、リーグ全体に衝撃を与えた。

メディアも、彼の活躍を連日報じ、

「野球界の常識を覆す男」

「二刀流の怪物、ここに復活」

そんな見出しが、新聞やテレビを賑わせた。

彼の名前は、あっという間に、

リーグを代表する二刀流選手として、

知れ渡っていった。


私は、雄太の活躍を、

スタンドから、あるいはテレビ越しに、

毎日見守っていた。

彼がマウンドで力投する姿を見るたびに、

胸がいっぱいになる。

彼が打席で快音を響かせるたびに、

歓声を上げる。

彼のユニフォームに滲む汗。

その全てが、彼の努力の結晶なのだと、

私には分かった。

私の目から、自然と涙が溢れ出すこともあった。

それは、彼が報われた喜びの涙だった。


雄太の瞳は、

さらなる高みを見つめていた。

沢村賞。

投手として最高の栄誉であるその賞が、

彼の次の目標になっていた。

周囲からは、二刀流を続ける限り、

沢村賞は難しいという声も聞こえてきたけれど、

雄太は揺るがなかった。

彼の決意は、誰よりも固い。

その揺るぎない眼差しを見るたびに、

私は、彼ならきっと、

あそこまで行ける、と確信した。


鈴木さんも、雄太の活躍に驚きと、

そして、尊敬の念を抱いているようだった。

テレビのニュースで、雄太の特集が組まれると、

鈴木さんのコメントが紹介されることもあった。

「田中は、本当に底知れない才能を持っている。

あいつの活躍は、俺にとっても刺激になる」

彼の言葉は、以前のような挑発的な響きはなく、

純粋な評価と、敬意が込められているのが分かった。

彼の過去の劣等感は薄れ、

雄太の才能と努力を心から認めている。

そう、私には感じられた。

彼もまた、雄太の復活によって、

新しい自分を見つけたのだ。


会社の同僚たちも、

雄太の活躍に熱狂していた。

「うちの雄太が、まさかこんなことに!」

「本当に、夢みたいだ!」

彼らは、驚きと誇らしさで沸き立っていた。

社内には、雄太の活躍を報じる新聞記事が

何枚も張り出され、

まるで、彼がチームを優勝させたかのような騒ぎだった。

山下先輩も、遠くから私を見て、

小さく頷いてくれる。

彼の不器用な優しさが、

私には何よりも心強かった。


夜、雄太が家に帰ってくると、

彼の顔は、疲労の色が濃いけれど、

その瞳は、達成感と充実感で輝いていた。

彼のユニフォームからは、

土と汗、そして、マウンドの匂いがする。

それが、私には何よりも愛おしかった。


私は彼の元へ駆け寄り、

彼の胸に飛び込んだ。

彼の腕が、私を優しく抱きしめる。

彼の体温が、私に伝わってくる。

彼の心臓の音が、私の耳に心地よく響く。

「雄太、本当にすごいよ……!

沢村賞、きっと行けるよ!」

私の声は、歓喜で震えていた。

彼の肩に顔を埋めると、

彼の力強い鼓動が、

私の耳に直接響いてくる。


「美咲、ありがとう。

お前がいてくれたからだ」

雄太が、私の頭を優しく撫でながら、そう言った。

その言葉一つ一つが、

私の心の奥底に染み渡る。

これまでの全ての苦労が、

報われたような気がした。

彼が野球を諦めかけた時も、

彼の隣にいた。

彼が泥にまみれても、

彼の隣にいた。

そして今、彼がプロの舞台で輝く瞬間も、

彼の隣にいることができた。

私にとって、これ以上の幸せはなかった。


彼の夢は、もう彼の夢だけじゃない。

私と、そして彼の周りの大切な人たちの夢になっていた。

彼の挑戦は、私にとっても、

人生を賭けた挑戦だった。

この先に何が待っていようと、

私は彼と共に、この道を歩んでいく。

そう、心に誓った。

夜空には、満月が煌々と輝いていた。

彼の温かい手のひらが、私の手を握る。

その温かさが、私たちの絆を、

何よりも強く、私に感じさせた。

私たちは、固く手を繋ぎ、

新たな未来へ向かって歩き出した。

アオハルに還る夢。

その夢は、今、確実に、

私たちの目の前で、輝き続けていた。

真の二刀流として、

彼の伝説は、ここから始まるのだ。

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