第22話:秘めたる挑戦、二刀流への道

一軍に昇格し、野手としての日々を送る雄太。

しかし、彼の心の中には、

再び投手としての情熱が燃え上がっていた。

あの日のブルペンでの投球。

監督の「お前、まだ投げられるのか?」という一言。

それが、彼の眠っていた才能を、

再び呼び覚ましたのだ。


私は、彼の隣で、

その心の変化を間近で感じていた。

練習中、ふと彼の視線がマウンドに向かう。

試合中、リリーフピッチャーがブルペンに向かう姿を

目で追う。

彼の野球への情熱が、

投手と野手、その両方にあることを、

私は改めて確信した。


雄太は、監督の理解を得るため、

佐々木コーチを通じて、

自身の「二刀流」への思いを伝えた。

最初は、驚きと、

「体の負担が大きすぎる」という

慎重な声が上がったと、

雄太から聞いた。

私も、彼の体が心配で、

「無理はしないでほしい」と

何度も彼に伝えた。


けれど、彼の目は、

揺るぎない決意に満ちていた。

「俺は、二刀流として、プロのマウンドに立つ。

それが、俺の夢だ」

彼の言葉に、私は頷いた。

彼の夢を、私が阻むわけにはいかない。

彼の隣にいると決めたあの日から、

私は彼の全てを受け入れると、

心に誓っていたから。


監督は、雄太の熱意と、

佐々木コーチの説得を受け入れ、

野手と並行して投手としての練習を

密かに再開することを許可してくれた。

ただし、体の負担を考慮し、

無理のない範囲で、という条件付きで。

その知らせを聞いた時、

私は心から安堵した。

彼の夢が、また一歩、

現実へと近づいたのだ。


佐々木コーチは、

雄太の全面的なバックアップを約束してくれた。

彼の指導は、雄太の体に負担をかけずに、

最大のパフォーマンスを引き出す、

効率的で科学的なものだった。

特に、過去の肩の怪我を考慮した、

無理のない新しい投球フォームの習得に、

重点が置かれた。

「無理はしないからな。

佐々木さんが、俺の体を

完璧に管理してくれるって」

雄太が、そう言って私の手を握った。

彼の言葉に、私は頷きながらも、

内心では、やはり不安が拭えなかった。

けれど、彼の目の輝きを見るたびに、

私はその不安を振り払う。


夜、雄太が練習から帰ってくると、

彼のユニフォームからは、

土と汗の匂いに加えて、

どこか、新しいボールの匂いがした。

彼は、密かに投手としての練習も再開している。

その事実が、私には何よりも嬉しかった。

彼の夢が、再び動き出したのだ。

けれど、同時に、

彼の体にかかる負担を思うと、

胸が締め付けられるようだった。


食事は、これまで以上に、

栄養バランスと疲労回復を意識した。

高タンパクで、ビタミン豊富な野菜をたっぷり。

彼が、少しでも疲労を和らげられるように。

マッサージも、これまで以上に丁寧にした。

彼の筋肉の張り具合を、

指先で一つ一つ確かめる。

彼の体温が、私の手のひらに伝わるたびに、

彼の頑張りが、私に語りかけてくるようだった。


「ねぇ、雄太。今日は、

温かいお風呂にゆっくり浸かろうね」

私が言うと、彼は「ああ、そうだな」と頷き、

疲れた顔に、優しい笑顔を浮かべた。

彼の笑顔が、私にとっての、

何よりも大切な報酬だった。


雄太は、着実に球威とキレを取り戻していった。

夜の公園で、密かに投球練習をする雄太の姿を、

私は遠くから見守ることがあった。

彼の投げるボールは、

夜の闇を切り裂くように、

唸りを上げてミットに吸い込まれていく。

その音は、まるで雷鳴のようだった。

高校時代よりも、さらに洗練された、

新しい投球フォーム。

無理なく、しなやかに。

彼の努力が、新しい彼の「二刀流」を

作り上げているのだ。


会社の同僚たちは、

雄太が一軍に帯同しているだけでも大騒ぎだ。

彼の活躍をSNSで共有し、

「田中くん、すごい!」

「うちの星だ!」

そんなメッセージが、私にもたくさん届く。

彼らが、雄太が投手練習を再開していることを知ったら、

どんなに驚くだろう。

けれど、今は、まだ秘密。

彼の、秘めたる挑戦。

私だけが知っている、彼のもう一つの夢。

その秘密を共有していることが、

私には何よりも嬉しかった。


彼の夢は、もう彼の夢だけじゃない。

私と、そして彼の周りの大切な人たちの夢になっていた。

彼の挑戦は、私にとっても、

人生を賭けた挑戦だった。

この先に何が待っていようと、

私は彼と共に、この道を歩んでいく。

そう、心に誓った。

夜空には、満月が煌々と輝いていた。

彼の温かい手のひらが、私の手を握る。

その温かさが、私たちの絆を、

何よりも強く、私に感じさせた。

私たちは、固く手を繋ぎ、

新たな未来へ向かって歩き出した。

アオハルに還る夢。

その夢は、今、確実に、

私たちの目の前で、輝き始めていた。

そして、その夢の続きを、

私は誰よりも近くで、

見守り続けるだろう。

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