第2話「買った薬草、もしゃもしゃするか、ぬりぬりするか?」

冒険者たちの集会所、酒場≪ハラペコ亭≫は今夜も満員御礼です。

カウンターには香ばしく焼けたパンのバスケット。奥の厨房からは煮込まれたスープの香り。

テーブルの上で今日の冒険の戦果を並べる音が、今にもほら、どこからか聞こえきます。

木製の椅子と机が並ぶ広いホールでは、クエスト帰りの冒険者たちが、思い思いの雑談を楽しんでいる姿が。


ここは冒険者の王国に数多存在する、冒険者酒場の一つ。

そんな酒場の一角に、広いテーブルをいつものようにと陣取っている、四人の冒険者たち。


剣を腰に携えた少女、剣士のソド子。

盾と鎧とで身を包む少女、盾騎士のタテ子。

幅広のとんがり黒帽子をかぶった少女、魔術師のマジョ子

白金の僧服に両手でアミュレットを握る少女、僧侶のクスリバ子。


4人の女冒険者たちの集まりです。

彼女たちのテーブルには、サクサクの細切りポテトと泡立ちジュースのセット。

そして大きなお皿に山盛り盛られたパスタ。

思い思いに料理を口にして、今日も女子冒険者会が始まります。


「つれーわー! かーっ! つれーわー! また冒険者協会にピンハネされたわー、つれーわー!」


ひときわ声を張り上げるソド子。

背筋を丸めてテーブルに突っ伏してますね。何か嫌なことでもあったのでしょうか。


「声がデカイ! やめなさいよ、みっともない!」

「私たちが貧乏続きなのはきっと陰謀に違いありませんね。どう思いますかね皆さんや」


ソド子はもはや誰に話しているのかも定かではありません。

周囲で各々食事や会話を楽しんでいた他の冒険者たちが、さっと顔を逸らします。

何も聞いていないフリを続けるんでしょうね。

つまりそういうことです。

組織に逆らってはいけません。

怖いですね。


「かーっ! これだからこれだから! いんぼーだよいんぼー!」


紫色の顔色をして、ぶつくさと毒を吐きつづけるソド子。

毒状態特有の顔色です。

紫色のソド子―――毒ソド子ですね。


「びんぼーいんぼーまたしんぼー。ポーテム」


マジョ子は中サイズのポテトをつつきながら、どことなく寂しそうな顔。

大サイズが欲しかったのでしょう。

ポテトで小さな祭壇を作っています。

ポーテム……この世の全てよ芋に満ちよ。


「淫棒だなんて、うふうふふ、グフフフ」


全員がスルー。

女冒険者たちには仲間の痴態を見て見ぬふりをする情けがありました。

クスリバ子が上機嫌に薄ら笑いを浮かべています。

泡立ちジュースが入ると、途端にアンタッチャブルになるクスリバ子でした。


「だーから毒消し草を買っとけとあれだけ言っとろーがもー! さっさと草食え! おらっ!」

「むがーっ!」


タテ子に毒消し草サラダを口いっぱいに頬張らされ、がつんと頭を叩かれるソド子です。

ごっくん。

まあ、大きな音。


「ワタシハ、ショウキニ、モドッタ!」

「まだこわれてる」


つやつやの顔色に戻ったソド子です。

誰に見せているのか、かわいこぶったポーズをとっていますね。

人差し指を頬においてぺろりと舌を出しています。かわいいですね。

毒ソド子になっていたことに誰もノーコメントなあたり、冒険者の殺伐さが感じられます。


「それにしてもさあ」


ソド子が毒消し草をまりまりと食べながら言います。


「毒消し草って、結局どうやって使うのが正解なの? サラダにもなってるくらいだし、こうやって食べるのが正解だよね?」

「食用部分は繊維質ばっかりで、解毒作用はそんなないんじゃない? 私は煮出して飲む派。抽出ってやつ」

「あー、調合ポーション」

「いい加減、調合の練習しなさいな」


タテ子がテーブルに残る自家製ポーション瓶がささった革ベルトを指差します。

調合は冒険者の基本技能です。

どうやらソド子は苦手なようですね。


「薬草屋の調合品が一番飲みやすいんでしょうけど、費用がね」

「わたしはね~わたしは回復まほ~! ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~」

「肝機能ブーストに神の加護を使うなっつーの」


クスリバ子がゆらゆらしながら樽のジョッキを持ち上げます。

今夜も赤ら顔と白いオヒゲ。

絶好調ですね。


「お芋とぐつぐつ煮て、毒消し芋にする」


ポーテム……芋の芽は毒となるが、芋は毒を消す。


「それポーションにした方がよくない?」

「お芋は万能薬。でんぷんはエリクサーの原材料」

「でも毒消し草って基本、口から入れるもので一致してるのよね」

「幼子がお熱を出した時に、お胸にぬってすーっとさせて呼吸を楽~にする治療法はありますね~。でも塗って効いているのは解毒成分じゃありませんので~、おそらく気休めだけでしょうね~」

「毒の中和に必要な成分は揮発性が高いから、小瓶に入れるか直接食べるかして体内に取り込むのが正解なのよ」

「ねね、じゃあ逆に、薬草はみんなどうやって使ってるの?」


具のないパスタを大きく巻きつけながらソド子が質問をします。

素パスタですね。

素パスタは安いので大盛りでも懐に優しい。冒険者の食事の代名詞です。

大盛りパスタがまるで観光名所魔王城の虚無の大穴に吸い込まれていくかのように、ソド子の手によって消えていきます。


「逆にって何よ。毒消し草の反対が薬草って」

「や、アイテムとか道具ってさ、みんなどうやって使ってるんだろうなって。そういやあんまりお互い気にしてなかったよね」

「まあ、ウチのパーティはアイテム使用はそれぞれのタイミングで行うようにって決めてあるから」

「薬草も食べるよね?」


ソド子の質問に、皆の手が止まります。


「いやいやいや、えっ、薬草ってちょっと青っぽい味してるから、いつも食べるのつらいなって思ってたんだけど。みんなどうしてるのかなって疑問だったんだけど。えっ、まさか塗ってる、とか!?」

「いや当たり前でしょ」

「えええええ、なんでなんでなんで!?」

「経口摂取で傷に効くわけないでしょ」

「いやほら、ちょうど今毒で体力減ってるし! じゃーん、薬草!」

「薬草は買ってたのをほめるべきか」


ポーチから薬草の葉を取り出したソド子は、それを口に頬張ります。

うわっ、という嫌そうな声がタテ子から聞こえました。

まりまりまり、ごっくん。

やっぱり大きな音ですね。

ソド子が急に立ち上がって、ばっ、と両腕を掲げたポーズをとります。


「回復したー!」

「んなわけあるかーい! 体力が一瞬で戻るわけないでしょ!」

「いやほんとに治ってるって! 見て見て、今日できた傷! もう治ったし、動いても痛くないし!」

「いやいやいや、おかしいでしょそんなん」


ソド子はその場で足踏みしたり、腕をぐるぐる回したりし始めます。

マジョ子がポテトをつまんだままぼそりと口を開きました。


「ぷらしーぼ」

「え、何それ? 呪文?」

「違う。思い込み。治ってると思ってるだけ」

「いやでも実際、治ってるじゃん!」

「何それこわ……どうなってんのよあんたの体。え、今までずっとそうしてきたってこと?」

「うん!」

「メンバーの自主性に任せてきた私がバカだった」

「ソド子ちゃんはすごいわね~えらいえらい」

「でゅひひひひ褒められて伸びます。あ~伸びますねこれは」

「いやおかしいでしょそれ。スキルとかそういうのでしょ。自動回復みたいな」

「えーっ、じゃあさ、皆はどんな使い方してるのさ! 塗るってどんななのさ!」


ソド子がテーブルの上にどんと身を乗り出します。


「揉み解すか何かしてペーストにしたやつを患部に塗るわよ。普通に」

「普通にって言うのやめてください~。お嬢様の普通は普通じゃありませーん!」

「こいつっ」

「ん~私は回復魔法があるから、薬草はあんまり縁がないから、わかんないかも~」


小樽ジョッキを傾けながら、白ひげになったクスリバ子が話します。

僧侶が所属する教会では薬草や毒消し草などの販売はしていません。

クスリは道具屋。医薬品は医療協会へ。

既得権益がしっかりと分けられているんですね。


「でも使うとなったら~、ぬりぬりする派かしら~? 傷口に直接塗りこめば殺菌効果もあるし~」

「ぬりぬり」

「薬草のペーストをいーっぱいネリネリすると~、いい感じのぬるぬるに~、ふふ、うふふふふ、ぐふふふふ!」

「えええ、食べる派は私だけぇ!? 薬草を、塗るゥ!? みんながうちの村の婆ちゃんたちみたいなこと言ってる! マジョ子は!?」

「回復ポテト」

「聞くだけ無駄だった!」

「あんたの村って、確かあれでしょ? 薬草のリーフが特産のとこだっけ」

「そうそれ! うちの村だと薬草の茎を乾燥させて、縄みたいにして首に巻く病避けのおまじないがあって。えっ、あれおまじないでしょ? 食べないと効果ないじゃーんって子供のころから私思ってたんだけど! あれってみ、み、み」

「民間療法」

「そうそれ! それでしょ!? 薬草首に巻いて風邪ひかなくなるとか肩こり治るとか、おっかしーじゃん!」

「なんでそれが解るのにいつもこんななのかしら」

「ふふふ……でも薬草とお花の編み込みを首に巻くの、ちょっとオシャレかもしれないわね~」

「村長の家にしか伝わってない一子相伝の薬草縄のしばりかたとかもあるって聞いたけど」

「縄……縛る……ぐふ、ぐふふふふ!」

「はいはい、またなんか変なスイッチ入ってる」


マジョ子がポテトをつつきながら手を上げます。

いつの間にかポテトの神殿がなくなっていました。

マジョ子のおなかの中に移転したのでしょう。

ポーテム……この世の全ては儚いお芋。


「おへそに、貼る」

「へそ?」

「昔、そうしてた。こどものころ」

「それも民間療法じゃないの!?」

「体の代謝を上げて、回復力を高めるのが目的」

「なんか用法間違ってない?」

「患部に直接塗布するのも~、経口で摂取するのも~、みんなみんな同じよね~。結局は自分の回復力をあげて、自分の力で傷を治してるのよ~」

「じゃあ食べるのもいいんだ?」

「ギルドの中で、粉にして、鼻から吸ってる人がいるのを見たことがある」

「絵面わるっ! 冒険者ギルド出禁になるでしょそんなん!」

「おしりにつめるという方法があるというのも、聞いたことがある」

「理にかなってるでしょうけど、やめなさいよ、食事中でしょ!」

「あらあらあら! あらあらあらあらあらあら~!」

「ほらも~まただよ!」

「なるほどな~、なるほどなるほど、なるほどな~」


ソド子がうんうんと頷きます。

両腕を組んで、訳知り顔をしていますね。


「みんなちがって、みんなイイ! 色々試してみて、自分に合った使い方を探るのが大事ってことだよね!」

「いい話風にまとめようとしだしたぞこいつ」

「正解は一つじゃない」

「そう! もしゃもしゃするか、ぬりぬりするか。どちらでもいい。決めつけようとするのが、それが問題だ!」

「いや、でも薬草を食べるって……」

「タテ子ちゃん? めっ!」

「ええ、なにこの流れ」


もういいや、とタテ子もピザをつまみます。

今夜のピザは小ぶりで具なしの、チーズだけのピザ。

何もかも金欠が悪いんや。

冒険者協会め~と悪態をつく毒タテ子でした。


「さ、みんな乾杯しましょうね~! もしゃもしゃ組とぬりぬり組の友情にー?」

「かんぱーい!」

「ポーテム」

「もういいわよ!」


その日、≪ハラペコ亭≫には薬草と毒消し草の香りが充満したという。

明日の冒険のために、飲んで、食べて、英気を養う。

女冒険者たちの冒険は、帰ってからが本番です。

それゆけ女冒険者!

いざゆけ女冒険者!

彼女たちの「お話」は、今日のところは、これでおしまい。


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