社内イベントSの実行まで〜総務の青山さん2〜
大谷智和
1 但野の決断したこと
その日の職場も何事もなく平坦な日常が続いていた。但野もいつものようにPCでのデータ入力を行っていた。すると上司である田中が彼に声をかけてきた。
「但野、この後ちょっと話があるから時間空けといて」
「あ、はい、わかりました」
但野は本能的に嫌な予感を察知した。別に以前このようなことを言われて田中に叱られたとかそういったことはない。彼自身特に業務でやらかしたということはない。だがどうも胸騒ぎがする。そんなことを思っていると田中が彼を呼んでミーティングルームへ連れて行った。
「いや、急にごめんね。まあ座って」
「・・・はい」
部屋の中には誰もいなかった。但野が椅子に座ると田中は一枚の紙を渡した。そこには「第35回 労働組合員イベント草案」と書かれていた。
「えっと、但野は組合のイベントのこと知ってる?」
「イベント?」
「ああそうか、コロナとかいろいろあったからやったことないんだ。じゃあ一から説明するね」
田中の話し方からそこまで悪い話ではない様子だ。だが労働組合のイベントとはどういうものなのかいまいちピンと来ない。それ以前に但野自身労働組合がそこまで機能しているのか実感が湧いていなかった。
「まあ固いこと書いてるけど、要は社員同士でスポーツ大会とかバーベキューとかするイベントだから」
「え、そういう系ですか?」
「あれ、意外だった?まあ言っちゃうと社員と社員の家族同士の親睦会みたいな感じ」
田中にそう言われて但野は昔父に連れられて参加した会社のスポーツ大会のことを思い出した。彼自身記憶が朧気であり、徒競走をしたことくらいしか覚えていなかったがそれに近いことをするということなのだろうと但野は思った。
「まあ主催が労働組合だからこういう名前になってるだけで、実際は管理職の人達も結構来るイベントだからそんなに名前に引っ張られることは無いよ」
「そうですか・・・それで、自分はなんでここに?」
「実は今年は昔よりもっと違うことをやろうってことになって・・・それで本社の若い社員に企画とか運営に関わってもらいたいんだって」
その言葉を聞いて但野が先程感じた悪い予感が的中したように感じた。
「えっと、つまり自分に運営とかをやってほしいってことですか?」
「もちろん本格的な部分は組合の役員達が決めるけど、企画立案とかは但野達にやってほしいなってところかな」
「・・・ちなみに、他に誰が参加するんですか?」
「えっと・・・総務部は青山さん、中古車部は一応和田も呼ぼうかなって思ってる。あと経理部の須賀さんと保険部の村上ちゃんかな」
名前を聞く限り確かに若手が多い。それなら自分もすんなり入れそうだと但野は感じた。だがそれと同時に懸念点も生まれた。
「ちなみに、会議とかは週何回やる予定なんですか?」
「まあ1回程度かな。時間もその人達が集まれるタイミングでやる予定だから」
「・・・分かりました。ちょっとやってみようと思います」
「そっかありがとう。それじゃあLINEグループ作ってあるから入って」
但野はスマホを取り出してLINEを操作した。既に数名グループに招待されている。
「じゃあ予定では明後日のこの時間に会議するから頭に入れておいて」
「はい」
「よし、じゃあ業務再開!」
そう言うと田中は先に部屋から出て行った。
但野自身実のところこういった行事に乗り気ではなかった。むしろ古巣の人間と鉢合わせる可能性を考えるとこういったイベントは彼自身できるだけ避けたいと思っていた。だが仮にあの場で田中からの誘いを断っていればおそらくこの話は開發に行っていたであろう。そうなれば確実に彼の業務の一部を但野自身が受け持つことになる。ただでさえメールの返信業務に苦戦している中でさらに業務が増えれば間違いなくキャパオーバーになるだろう。そうなるくらいならこの誘いは乗った方が良い。但野はそう思ってこの誘いを快諾した次第である。
「とはいえ、何すりゃいいんだろ俺。こんなの高校の学祭以来だ」
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