第2話 目覚め

(・・・なんだ、ここは?)


俺が目を覚ました時は辺りが真っ暗な空間だった。


(あれ?声が出ない)


俺はいつものように独り言を口にしたつもりだったが言葉が出ないことに気が付く。


(何だ・・・一体何が起きているんだ?)


俺はパニックになりそうな頭を抑え、自分に起きた事を思い出そうとする。


(・・・たしか、大したスキルが貰えなかった事実に絶望して当てもなく歩いていたんだったな・・・)


俺は思考をゆっくりと進める。


(そうだ、良く分からない遺跡に辿り着いて魔法陣?みたいなものに触れて・・・)


俺は愕然とした。


それからの記憶が全くなかったからだ。


(とにかく・・・この場から出ないと・・・)


俺は自分の記憶を振り返ると、それ以上に困った事態に気が付いた。


何故か体が動かせないのだ。


体が自分の体でない感覚、俺はその状態に途方に暮れた。


(・・・まいったな。もしかして、俺は死んだのか?)


魂というものがあるとしたらこういう感覚なのかもしれない。


その事に気づいた俺は、自分が死んだのではと考えた。


(まぁ、いい。どうせ、俺は神に見放されたんだ。上手く生き延びたとしても直ぐに死んでいたに違いない)


俺は何かを考えることを放棄した。


そうすることで、天国・・・は無理としても地獄くらいにはいけると思ったからだ。


(ん・・・なんだ)


今までは気が付かなかったが、無心でいたら違和感に気が付いた。


(声が聞こえる)


聞き覚えのある声が聞こえてきたのだ。


(これは・・・俺の声か?)


聞き覚えのある声なわけだ。


聞こえてきたのは自分の声だった。


(あれ、待てよ。俺はここにいるのに俺の声が聞こえるというのはどういう訳だ?)


俺は当然の疑問が頭をよぎる。


(・・・あっちか)


考えるのは後にして、俺は声が聞こえると思われる方向に向かう。


手足は無いが、そちらに意識を集中することで声の方向に近づけるようだ。


(う・・・なんだ)


段々と近づく声がはっきりとした時、俺は自分の意識がよりはっきりすることに気が付いた。


『はーはっはっはっ!?雑魚ばかりだなぁ!!』


(っ!?)


意識がはっきりすると信じられない光景が見えてきた。


魔物たちを手足を使って倒していたのだ。


しかも、俺の声で好戦的な声を上げながら。


(・・・どういうことだ?これは、俺の体か?)


自分の体かどうか不安に思ったのは、普段見慣れている体よりも大きくなっていたからだ。


『ふん。甘いっ!!』


俺が考えている間にも声の主が体を反転させ魔物を葬る。


(声は俺の声だな・・・ということは、誰かが俺の体を操っているという事か!?)


俺は、聞こえた声からやはり自分の体だということに気が付いた。


そして、当然の結論に至る。


(おいおい、一体何年経ったんだよ・・・)


そう。明らかに自分の体が成長していたのだ。


少なくとも数年は経過しているだろう。


(ちっ・・・一体何だって言うんだ)


体を動かそうとして見たが一向に動かせなかった。


(何者かが俺の体を使って生きているんだ。それも何年間も・・・)


俺は確定した事実に驚く事しか出来なかった。




(なるほど、そう動けばいいのか)


俺は今日も自分を操る何者かの動きを見て体の動かし方を学んでいた。


気が付いた当初は何もする気が起きず、あの世に連れて行ってくれることを望んで待っていたがいつまで経ってもお迎えが来なかった。


それを受けて、正直やることが無くなった俺は自分を操る様子を見て勉強することにした。


初めは呆然と見ていただけだが、それが前向きなものに変わるはすぐであった。


冒険者を目指して体を鍛えていたからすぐに分かった。


体の動かし方、駆け引き、何もかもがハイレベルなものに見えたからだ。


何故かは分からないが、何者かは俺の体を使ってひたすらに魔物や獣との戦いに明け暮れる毎日を送っていたのだ。


そのため、動きを学ぶ機会は沢山あった。


(といっても、真似る体は無いんだが・・・)


体が動かせる訳でもないため、体の動かし方を学ぶ方法はイメージトレーニングだけであった。


それが意味のある事とは思っていなかったが、何しろ他にやることが無いのだ。


俺はただただひたすらにそのような生活をずっと続けていくのみであった。

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