第57話 彼女の最推しは?
俺はエアコンの効いた部屋でソファーに深く座りながら、スマホでのんびりと動画鑑賞中。
隣では奈央が誰かとスマホでやり取りをしている。たぶん相手は柊だろう。「ん、柊だ」って言ってたし。
しかしそんな奈央が突然、スマホを置いて両手で頭を抱えた。
「……ヤバい」
「どした?」
奈央は真剣な表情でこちらを見つめながら言った。
「どうしよ。明日、私の部屋で私と柊と、柊の女友達の三人でパジャマパーティっていう儀式をすることになった」
「ん? それの何が困るんだ? たまには女子だけで楽しむのもいいじゃん。あと儀式言うな」
「結斗、よく考えて」
奈央はズイッと顔を寄せてきて、静かに言う。
「私は寝る時以外、ほとんど結斗の部屋にいると言っても過言ではない。つまり──」
そこまで聞き、自分の顔が強ばるのを感じた。
「……まさか、汚部屋なのか?」
奈央は首を振る。
「違う。部屋はちゃんと綺麗にしてる。将来、結斗と結婚した時に良妻賢母になるために、花嫁修業として掃除は欠かさない」
「お、おう……そ、そうか……」
いきなり恥ずかしいこと言うのやめて。
「……じゃあ、何がヤバいんだよ」
奈央は俯き、まるで世界の終わりのような顔で呟く。
「オタク趣味全開の部屋に、陽キャ女子が来ちゃうの……」
その言葉に俺は震えた。そう、それは聖域に入り込む悪魔。もしくはディズ〇ーランドでティック〇ックを撮る者達と同列……いや、そこまでではないか。柊は良い奴だしな。
でも俺は、そこでふと思った。それはものすごく今更で、むしろ何故今頃気付いたのかが不思議な事。
「……そういえば俺、奈央の部屋入ったことないな」
そう、無いのだ。奈央の部屋に行ったことが。彼氏彼女として付き合ってて、部屋が隣なのにもかかわらず。
そして、それを思ったのはどうやら奈央もだったようだ。
「ん、確かに。じゃあ──」
奈央は勢いよく立ち上がり、俺の手を握る。
「今から私の部屋訪問ツアーに行こう! 何を見ても大丈夫なように、気をしっかり持って」
「ちょ、待て! 待って! そんな覚悟が必要な部屋って何なんだよ!!」
そんな俺の抵抗は問答無用に、奈央はずるずると俺の手を引っぱって行く。
◇◇◇
「……心の準備、できた?」
奈央は普段無表情なくせに、今は何故か妙に笑顔で言う。怖い。
「できるわけないだろ……」
「ここは私に任せて先に行って……」
「今言うセリフじゃねぇなぁおい」
「それではご招待」
「待て待て待てーい!」
奈央は俺の制止も無視してドアを開ける。
そして──
「ただいま、ショタ結斗」
玄関に置かれた、小さい頃の俺と奈央が一緒に写った写真。
「こんなの撮った記憶ないぞ?」
「それはそう。これは合成」
「お前マジか」
「それ、ママにも言われた。じゃあ次は部屋ね」
「お、おう……」
サラッと流され、部屋に入る。その瞬間、俺の視界は、壁一面のアニメタペストリーと推しキャラの祭壇に埋め尽くされた。
視線を横にずらすと、壁に置かれた棚の上にはアクスタ、フィギュア、サイン色紙など……。
そしてイラストレーターが自分で作って販売している、とある頭の上に紋章的なのが浮かんでいるソシャゲの、等身大美少女抱き枕が堂々とベッドの上に鎮座。
「お、おおおお……」
俺はそれ以上の言葉を失う。
奈央は、どこか誇らしげに部屋を一望しながら言った。
「ここが私のすべて──私の魂(ソウル)が詰まった、聖域」
「……すげぇ。なんか……逆に清々しいな」
「え?」
「いや、だってここまで突き抜けてると、逆に感心するというか。徹底してて、すごいよ」
奈央は目を丸くし、口元に笑みを浮かべる。
「ありがと。こっそりアクスタ買って隠してる結斗ならそう言ってくれると信じてた。でも、陽キャ女子がこれ見たら絶対ドン引き確定……」
「まぁ確かに……ん? 待て。なぜ俺のコレクションを知っている」
「引き出しの配置が変わってた。まだまだ隠し方が甘い」
「開き直った……」
◇◇◇
そしてどんなグッズがあるのかを、部屋を見回しながら、俺はある一点で足を止めた。止めざるをえなかった。
「なぁ……あの……俺の写真がアクリルスタンドになってんだけど……」
「──最推しだから」
「あ、うん」
真顔でそう言われ、俺は頷くことしか出来なかった。
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