第24話 「ひっでぇや」

「うわ、すごい人混み……」


 夏の夜の空気。

 様々な飾りで彩られた街と、賑やかな喧騒。


 そして――


 俺の隣には、浴衣姿の奈央がいた。



「……やっぱ、目立つな」



 そう、思わず呟いてしまうほどに、いまの奈央の姿は綺麗だった。


 周囲の視線が、否応なく奈央に集まっている。

 男も女も、関係なく。

 特に男たちの視線が露骨だった。


 

「うわ、やべー、めっちゃ可愛くね?」


「え、なにあれ、浴衣似合いすぎだろ……」


「胸でっか。でも……あれ、彼氏持ちっぽいよな」


「てか、隣のやつ……なに? あのお面。オタクか?」



 俺は反射的に、奈央の手を引いて少し自分の方に寄せる。完全に無意識の行動だった。独占欲? いや、まだそんな資格は無い。でも──



「……えっ?」


 奈央が驚いた顔でこっちを見る。


 でも俺は何も言えず、そのまま歩き続けた。

 俺だってわかってる。

 奈央が可愛いのは、今に始まったことじゃない。

 それでも、他の男に見られると、なんか……モヤモヤする。



「……ん」



 七瀬は驚いた顔から、ふっと小さく笑って、

 今度は自分から俺の腕にそっと寄り添ってきた。



「ん……って、なにが」


「なんでも」


「いや、なんか言えよ」


「ううん、今のでわかった。ヤキモチくん」


「っ……べ、別に……」



 顔が熱くなる。



「可愛い」


「やめろ。そういうの、やめろ」



 ――恥ずかしい。


 けど、なんか嬉しい。


 奈央は俺の隣で楽しそうに微笑んで、その笑顔が夜の屋台の灯りに照らされて、どこか幻想的だった。



「あ、クラスの子」


 色々見ながら歩いてると、奈央が前方を見ながら言った。その視線を追いかけると、確かにクラスの男子が三人。以前、俺が風邪ひいた時に奈央に看病してもらったのをからかってきたヤツらだ。


 そいつらがこっちを見る。俺に気付いたのかと思ったけど、どうやら隣の奈央を見てるようだ。


 俺はお面をしっかりと被り直し、奈央と手を繋いだまま、すれ違う。



「うーわっ、めっちゃ可愛い!」


「うちのクラスにもあんな可愛い子いたらなー」


「やめろお前。誰かに聞かれたら明日学校行った瞬間に囲まれるぞ。柊を筆頭に強い女子達に」


「うへぇ」


 

 そんな声が聞こえ、やがて遠ざかっていく。


「案外気付かれないもんだな」


「これがお面パワー。……ところで」


「なんだ?」


「口元ニヤけてるの、隙間から見える。んー? 優越感?」


「……気のせいだろ」


「ん、そういうことにしといてあげる」



 ……顔に出てたか。

 けどしょうがない。知ってるやつでさえ気付かない程に、綺麗になった奈央。

 そんな彼女と今、手を繋いで歩いてるのが俺だという事実に、何も感じないわけが無い。



「あ、金魚すくい……」


 歩いていると、子供が集まっている屋台を見て奈央が呟く。


「やるのか?」


「やらない。昔から苦手。すぐ破れちゃう」


「せっかく来たんだからやってみれば?」


「そう? ならやってみる」 


 そう言いながら奈央はお金を払い、ポイを受け取って構える。真剣な目で金魚を追いかけるも、やっぱり即破れる。



「むーん……まただ……」


「俺もやってみるか」



 ――そう言ったはいいが、全然取れない。だけど今は失敗しても二匹は貰えるようで、現在、奈央の手には、袋に入れられた二匹の金魚。


「……可愛い」


「エサとか買わないとだな」


「一緒に買いに行こ」


「おっけ」

 


 次は焼きそば、次はわたあめ、そしてラムネ、りんご飴、めっちゃ長いフライドポテト。


「ね、次なに食べたい?」


「たこ焼き……いや、ちょっと食いすぎか」


「ううん。今日だけ許す」


 

 そう言って、奈央は飲みかけのラムネを俺に差し出す。



「飲む?」


「え、いいのか?」


「いいよ。間接キスしたいから」


「お前なぁ……」


 また顔が熱くなる。


 それを見た奈央は隣で笑ってて、俺も、自然と笑ってしまっていた。


 

 ◇◇◇



 やがて、祭りも終わりの時間が近づく。

 空にはぽつぽつと星が瞬き、夜風が心地よい。


 人混みを抜けて、少し暗い公園のベンチに腰掛けた俺たち。


 奈央が隣でぽつりと言った。



「つかれたぁ〜」


「いつも部屋にいてあんま外出ないもんな」


「んね。結斗、今日、楽しかった?」


「あぁ。でも、誘った時は行かないって言ってたのに、どうしてなんだ?」


「その時は祭り行く気無かったけど、【結斗と行く祭り】なら行きたいと思った。だからサプライズ。大成功だね」


「そっか……。うん、大成功だよ、ホント」


「感謝して」



 そう言って奈央は俺の肩に、少しだけ頭を預ける。



「来年も一緒に行くか?」


「ん、考えとく」


「ひっでぇや」


「あはっ」



 笑いながら、繋いだ手の温度を確かめる。


 この夏の夜の記憶は、たぶんずっと――忘れられない。





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