第16話 「まだ……ね」

 2日ぶりの登校。体調はまだ万全じゃないけど、動けるくらいには回復した。


 でも、今の俺には――熱より怖いものがある。


「なあ……七瀬」


「ん?」


「……やっぱ、俺、まだちょっとフラつくかも」


「嘘つき。さっき体温測った時、平熱だった」


「いやほら、外の空気に当たったらまた逆戻りするかもだし……」


「つまり、学校行きたくないってこと?」


 鋭い。


「……正直、こえぇ」


「大丈夫。守ってあげるよ?」


「お前が言うと余計怖いんだよなぁ」


 それでも七瀬の笑顔に押されて、俺は覚悟を決めて、

 いつもよりちょっと緊張しながら校舎の門をくぐった。


 


 ◇◇◇


 


 教室の前に立つ。

 扉の向こうは戦場のような気がしてならない。


 七瀬と目を合わせると、彼女はいつものクール顔で「行くよ」と頷いた。


(開け、地獄の門――)


 ガラッ、と引き戸を開けた瞬間。


 

 ざわ……っ!!


 


 クラスの視線、全集中。


 思わずすくみ上がるレベルのガン見である。


「泊まったんだろ!?」「どうなったんだ!?」

 という好奇心の塊のような視線を向けててくるマスコミの群れのようだ。



「結斗、ちょっとこっち!」


「七瀬さん、話あるんだけど!」


 瞬時に男女に別れて分断された俺たち。


 


 男子に囲まれた俺は、壁を背にして取り囲まれる始末。


「で!? どうなんだよ! 七瀬さんと一晩過ごしたってのは!」


「何もなかった、って言っても信じねーぞ!」


「お前、熱で寝込んでたって、それほんと? 逆じゃない?燃え上がってたんじゃないの!?」


「うるせぇよ! そんなんじゃねぇよ!!」


 バッと叫ぶと、男子たちは「マジかよ……」と肩を落とす。


 が、それも一瞬。


「ってことは、まだ可能性あるんじゃねぇか……!」


「くそぉ、夢を見させやがってぇ!」


 勝手に暴走して勝手に失望して、

 また勝手に夢を見始める男たちであった。


 


 そして女子サイドでは──


「え!? 泊まったってほんと!?」


「なになに!? で、付き合ってんの!?」


 七瀬が質問攻めにあっていた?

 その七瀬はというと、例によってクールな表情のまま。


「付き合ってないよ」


「……付き合ってない!? 」


「そう、まだ……ね」


 と、意味深に笑う。


 その一言で、女子陣営は一気に火がついた。


 


「えっ、まだってことは――キャーーーッ!!」」


「え、進行中ってこと!? やばっ、進行中ってことじゃん!」


「告白されてないだけで、もう両思いでしょそれ!」


「いや、七瀬さんが攻めてるって噂あるし!」


「え、七瀬さんが攻め? それ意外すぎて萌える」


 七瀬の一言は、燃料投下として最上級クラスだったらしく、女子たちはその後もキャーキャーと騒ぎ続けていた。


 

 ◇◇◇



 ホームルームが始まる頃には、

 クラス全体がひとつの“トピック”に染まっていた。


 それはもちろん――


【七瀬と神谷、いつになったら付き合うのか問題】


 だ。


(……これ、俺ほんとに明日からも登校できるのか……?)


 俺はうつむきながら、七瀬の方に視線を送る。


 すると彼女は――


 俺と目が合った瞬間、ニッコリと笑って、

 口パクでこう言った。


 


「まだ、ね」


 


 心臓が跳ねた。


 熱は下がったのに、体温がまた急上昇する。


 


(……こいつ、確信犯だろ……)


 でも、不思議と――悪い気はしなかった。

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