第4話 がんばる子
「……で、これ全部作ったの?」
「うん」
テーブルの上に並んだ、手作り感満載のおかずたち。
肉じゃが、ほうれん草のおひたし、出汁巻き卵、味噌汁に炊きたてご飯――。
「クオリティ高すぎじゃない?」
「高校生男子の胃袋、満たしたくて」
「なにその直球の破壊力……!」
日曜日の午後、七瀬はWiFiを借りに来たついでに俺の部屋の冷蔵庫を勝手に漁って、買い出しに行って、そのまま台所を占拠し始めた。
そして気が付けばこの状態である。
「……ていうか、なんでうちの米炊いてるの?」
「お米、買うの忘れてて」
「いや、買いなさいよ!?」
「その代わり食材買ってきた。WinWin」
「それはそうだけど……って、いや、待て、そうなのか?」
「いただきます」
「人の家で堂々とすぎる!!」
でも――箸をつけた瞬間、俺は絶句した。
「う、うま……」
「ふふっ。母親直伝の味だよ。つまりおふくろの味。神谷くんのお母さんではないけど」
「え、てか普通に惚れるレベルなんだが……」
「じゃあ惚れて? 結婚すれば【義理のおふくろの味】になる」
「簡単に言うな!」
「冗談だよ〜」
ふわっと微笑む七瀬。
でも、その笑顔が冗談に見えないのが問題だ。
食後、片付けまで済ませてリビングに戻ると、七瀬は既に定位置化している俺のベッドの上でお腹をさすりながらごろごろしていた。
「はぁ〜、食べた食べた」
「食べすぎでは?」
「神谷くんと食べると、いつもより美味しくて……つい」
「なんでだよ」
「んー、万能調味料?」
「出汁は出ないぞ」
「ちょっとお風呂入ってきて?」
「人を茹でて何する気!?」
そんな感じでダラダラと時間は過ぎて、気が付けば夜の九時。
「そろそろ帰った方が――」
「……」
「おーい?」
返事がない。
七瀬はいつの間にか床に敷いた長座布団の上ですやすや寝息を立てていた。
「まじかよ……」
その寝顔は、あまりに無防備で、
それでいて少し、幸せそうで。
「……起こすの、かわいそうだな」
他に寝る場所もなく、七瀬の体を動かすために触れる勇気もない俺は、申し訳ないと思いつつもベッドで寝ることにした。
なのに──
「……ん、さむ……」
なかなか寝れずに横になりながらスマホを眺めていると、隣から声と共にもぞもぞと動く気配。
次の瞬間――
「……え、うそ、ちょ、えぇ!?」
七瀬が、俺のベッドに潜り込んできた。
「さ、寒いから……ちょっとだけ」
「いやいやいやいや!? ちょっとの問題じゃないからね!? これ完全に密着してるし!!」
「大丈夫……。体と体の間にWiFi飛んでるから密着じゃない……」
「WiFi関係ないだろッ!!」
「……神谷くん、あったかい」
そう言って、腕にぎゅっとしがみついてくる七瀬。やがて寝息が聞こえ始めた。
体温が伝わって、心臓がバグる。
「ほんとに……覚えてなかったんだね」
ん? 寝言か?
「あれから何回も思い出してたんだよ……」
うん、寝言だな。
「ちゃんとまた会えた」
そして――
「今度は、ちゃんと好きになってもらうから」
――え?
「がんばる……よ……」
耳元で囁かれたその声は、
あまりにも真っ直ぐで、甘くて。
心臓が、壊れるかと思った。
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