第22話 わたしの出番よ

  ――――時は少し戻り。

 アレインとシンデリカは路地裏で黒騎士たちに襲われていた。



 

「――――滅びるロンドを眺めながら、数に圧されて死ね、人間が!」


 黒騎士たちが、俺とシンデリカに殺到する。その数、20体。


 俺は最初に迫ってきた黒騎士の腹に拳を叩き込み、その鎧を粉砕する。


「ぐあああっ!?」 

 黒騎士は仲間たちを巻き込みながら、吹っ飛んでいった。

 ドミノ倒しのように黒騎士たちが倒れていく。



「じゃまだ、どけっ!!」

「いや、お前がどけ! この『惜別』のセステムに任せておけ!」

「囲め!囲め! 数の利を生かすのだ!」

「そんなにこの道広くないだろ! なんで本体はこんなところで呼んだんだ!?」

「知るか!! ええい! うるさい! 耳元で騒ぐな!」



 ………なんか、勝手に喧嘩し始めやがった。

 こいつら、あんまり仲良くないな。

 

「悪いけど、貴方たちに構っている暇はないの! エレクリック・ロアー!!」


 シンデリカが口喧嘩をしている黒騎士たちに容赦なく、魔法を放った。


「があああ!?」


 何体かの黒騎士がチリと化した。

 ……こいつら気配の割に脆いな。軍団長クラスだと思うんだが。


 いや、違うか。

 個体によって、強度や強さにムラがあるのか。


「さっさと片づけるぞ、シンデリカ! 」

「ええ、早く本体を見付けないと!」


 こうしている間にもロンドの被害は広がっている。


「エレクトリックサークル!」


 シンデリカを中心に雷があたり一面に広がる。器用なことに雷は俺のいるところだけを避けていた。


 シンデリカの魔法による範囲攻撃で弱めの黒騎士が消えていく。

 残った黒騎士の頭を俺が粉砕する。



 20体の黒騎士を手早く処理した俺たちは本体を見付けようと、ロンドの町を駆けまわる。


「きゃあああああ!!? だれか助け―――」

「くくくくく!!! 私は『慢心』のマルス!」

 

 中年の女性が黒騎士に襲われていたので、その頭に拳を叩き込んでやった。

「死ね!」


 道中、何体かの黒騎士を処理するが―――。


「くそ、本体はどこだ!?」


 全く分からん。

 分身に全部任せて、こそこそ隠れやがって。焦りだけが俺の中で膨らんでいく。


「流石に俺でもこのロンド中を回って全部の黒騎士を潰すのはきついぞ…」


 可能か不可能かで言えば、可能だ。


 ただ、どれほどの時間がかかるか分からない。俺が召喚されたすべての黒騎士を倒している間に、数えきれない人々が死ぬことになるだろう。


 それに黒騎士は確か魔法の効果範囲はおおよそ30キロと言っていた。


 つまり、奴はやろうと思えば、このロンドの外から町中に黒騎士を召喚することができる。今はまだ、このロンドの中にいるだろうが、ぐずぐずしていると逃げ去ってしまう可能性もある。


「……アレイン、私が黒騎士の本体を見付ける」


 シンデリカが俺を見て言った。

 

「どうやって?」

「使い魔を使うわ。使い魔は私の知覚と繋がってる。本体に近づけば、必ずそれとわかる」


 俺はシンデリカが大森林で自身の魔力を使って、蝶の形の使い魔を生み出していたことを思い出す。


「それに使い魔に私の魔力を上乗せすることで、他人の傷を癒すこともできるのよ。今、ロンドでは数え切れない人が傷ついている」


 それは凄い。

 凄い、が。


「だけどロンドを隈なく探して、皆の傷も癒せるほど魔力はあるのか? お前が凄い魔法使いなのは知って―――」


 言いながら、俺は彼女が何をしようとしているのか気付いた。


「まさか」


 いや、だが。


「本当なら無理よ。だからこれを使う。エルフの特性ポーション」


 彼女は鞄から小瓶を取り出した。

 聖樹の樹液を精製した、魔力を回復させるポーションだ。


「………アレイン。お願いがあるわ。私が黒騎士の本体、ハルベスタを見付けるまで、何があってもこのポーションを飲ませ続けて」

「……それ、確か3本目以降は危険なんじゃなかったか?」


 シンデリカは笑った。


「ええ。だから今、言ったでしょ。私に何があってもこのポーションを飲ませ続けて、と」

「お前……それは」

「迷っている時間はないわ。急がないと、ハルベスタはこのロンドから逃げてしまうかもしれない。それにどんどん被害は広がってしまう」


 彼女の言っていることは正しい。

 たった今の、何処かで轟音が鳴った。黒騎士たちが暴れているのだろう。遠くで誰かの悲鳴が聞こえた。


「最強の貴方の手は1キロくらい先まで届くんだっけ? だけど、貴方の手が届かないときは―――」

「お前の出番、だったな?」


 俺も笑った。

 別に楽しくもなければ、嬉しくもない。


 それでも笑った。そうすることが、シンデリカへの信頼の証を示すことになると思ったから。


「そういうことっ!!」

「頼むぞ、……相棒」

「任せなさい! さあ、顕現しなさい! フェアリイ・バタフライ!!」

 

 シンデリカは魔法の発動に集中する為か目を閉じた。


 やがて彼女の身体から紫の光を放つ蝶が生まれる。魔力の限界まで使い魔を生み出しているのだろう。瞬く間に数十匹の蝶が生み出され、暗がりの石畳を照らす。蝶はその羽を羽ばたかせ、方々へと飛んでいく。


「まず一本目いくわよ!! ……まっず!!」


 魔力が空になったシンデリカが、ポーションを一気に飲み干す。そして端正な顔を歪める。


 同じように、使い魔を次々と生み出していく。2本目のポーションを飲むまではシンデリカはまだまだ余裕だった。


 しかし、それも3本目から様子が変わってくる。

 見るからに顔色が青白くなってきた。

 

「……大丈夫か」

「ちょっと気持ち悪くなってきた。どちらかという味の問題かし―――」


 言いながら、シンデリカは道にへたりこんだ。それでも蝶は彼女の身体から、どんどんと生み出され続ける。


「なんか眩暈がしてきた……。4本目、飲ませてくれない? 大丈夫、使い魔は出し続けるし……ちゃんと探知もしてる」

「……わかった」


 俺はポーションの瓶のふちを彼女の唇につけた。

 瓶を傾け、中の液体を飲ませる。


「う、ぐ、うっ」

 

 4本目を飲ませ、5本目に突入する。彼女は魔法を使い続けている。際限なく生み出される使い魔の蝶たちは今ロンドの端から端までを羽ばたいているのだろう。黒騎士のハルベストを探し、そして町の人々の傷を癒している。


 今の俺はそれを見守ることしかできない。応援することしか、できない。

 

「がんばれ、シンデリカ。がんばれ…!」

「まかせなさいっ……!」


 背後から人の気配がした。数は2人。


 一瞬、黒騎士かと身構えるが、気配と声で町の住人だと判断する。若いカップルだった。


 道に蹲るシンデリカを見かけて、心配してくれたのだろう。


「だ、だいじょうぶかい君たち!」

「お連れの方、顔色が悪いみたいですけど…」


「ああ、大丈夫だ」

「でも……」


「放っておいてくれ!! 見て分からないのか! 今忙しいんだっっ!!」


 俺は叫びながら、シンデリカに6本目のポーションを飲ませ続ける。


「ん、ぐっ…!」

 

 彼女は息も絶え絶えにそれを飲み干していく。

 彼女は今皆のために頑張っているんだ…!


 カップルは俺の剣幕に面食らい、立ち去っていった。


「高度なプレイすぎるだろ……」

「別に今しなくてもいいんじゃ……」



 ……放っておいてくれ!!

 

 7本目を飲ませた時、彼女の鼻から真っ赤な血が垂れた。思わずポーションを飲ませる手が止まる―――が、俺は再び瓶を傾けた。


 シンデリカの鼻血は止まらない。

 肌には玉の汗が浮いていた。呼吸が荒い。糞、糞、糞っ! 


「―――――――見つけた」


 そして、シンデリカがその碧眼を見開いた。

 

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