第25話 神獣白虎、ウキウキする

「先ずは……我からいきましょうか」


「タカオ、ウッキウキやん」


「和代様」


「へいへい。お口チャックします。ぴー」


 ガシャガシャと装備の中から小さなリングを取り出すエリディセラルナ。


「とりあえずはこれじゃ。アルターリング。姿を変える指輪じゃ。サイズ調節出来るから腕輪にも出来るぞ」


「……何故これを我に?」


「……タカオ殿……その姿で人の里に行ってみなされ。タカオ殿を求める貴族やら何やらに狙われますぞ?」


「……我を?」


「うむ。タカオ殿は虎じゃ。しかも白くて目立つ上に可愛い」


「可愛いは余計です!」


「ふふふ。うむ。じゃから、希少なのじゃ」


「それはそうでしょう。我は神獣ですよ」


「その姿が厄介ごとを呼び寄せる。と、言えば分かりやすいかの?」


「う……。だから、アルターリング……ですか」


「うむ。お主らはいささか目立つからの。少しでも厄介ごとを避けられるようにの」


「なるほど。ありがとうございます」


「それと、これじゃ」


「これは……リボン……ですか?」


 白いリボンを差し出すエリディセラルナ。


「うむ。どこに着けても可愛いリボンじゃ!これには体力と魔力の継続回復がついておる!更に金糸で刺繍が入っておる力作じゃ!!」


「おおおー!」

「凄いです!」

「ピィィィィ!」


「可愛い…リボン……。いえ、それは素晴らしい付与ですね。ありがとうございます」


「ちなみにこれは全員分あるぞ!」


「やったー!!」

「ふぇえええ?!」

「ピィィィィッ?!」


「和代ちゃんはタカオ殿とお揃いの白、ミラとピッケは緑でお揃いじゃ!」


「ありがとう!!」

「あ、あ、あ、ありがとうございますっ!!」

「ピィィィィッ!!」


「とりあえずタカオ殿はアルターリングとリボンがあれば大丈夫じゃろ。良かったら使ってみてはくれんか?」


「ええ。それでは……」


 左腕にアルターリングを付けたタカオが目を瞑る。

 するとリングが薄い緑色の光を僅かに放ち、タカオのもふもふとした小さな白虎の身体を包んでいく。

 そして光が収まるとそこには、滑らかな毛皮を持ち、瞳を緑色に輝かせた白猫が居た。


「猫やー!!!」

「可愛いですー!!!」

「ピッ!」

「うむ。成功じゃな」


「我は猫ではありません!!」


「猫やん!」

「猫です!」

「ピッ!」

「猫じゃな」


 全員から猫と言われ項垂れるタカオ。トボトボと歩いたと思うと、ひょいと背の高いタンスの上に飛び乗り、姿を隠してしまった。


「行動も猫やな」

「猫ですね」

「ピッ」

「猫じゃな」


「に゛ゃーーー」


 姿が見えないのに聞こえて来た猫の鳴き声に皆は思わず顔を見合わせて笑う。


「さて、次は……」


「ピッ!!」


「お、ピッケ、お主の装備じゃな」


「ピ!」


「ピッケの装備はこれじゃ!リンクチャーム!これは二つで一つの装備じゃ。これをピッケと……例えばミラに付けるとじゃな、ミラの方にピッケの想いが伝わる。まぁ、大雑把にじゃがな」


「ピッピッピッ!」


「早速付けてみるか?」


 エリディセラルナは持っていた五芒星のような形のチャームネックレスのうちの一つ、金色の方をピッケのキノコの傘の下部分に付ける。

 ネックレスはシュルシュルとピッケの大きさに合わせて縮んでいく。


「もう一つは……」


「ピィッ!」


 ピッケがミラのスカートをクイクイッと引っ張る。


「やはりミラじゃな」


 エリディセラルナは残ったチャームネックレスの銀色の方をミラに渡す。受け取ったミラはネックレスを付け、途端に花が咲いたように微笑んだ。


「その笑顔……修行の日々で荒んだうちの心を浄化してくる……」


 胸を押さえてうずくまる和代、そんな和代をペチンとはたくエリディセラルナ。


「ピッケ、一緒にいられて嬉しいって、想ってくれてます。……ふふ。嬉しい」


「その笑顔が見られただけで、リンクチャームを作った甲斐があったわい……」


 何故か涙ぐむエリディセラルナ。「エリちゃんも大概やな」などと和代に突っ込まれている。

 エリディセラルナはハンカチで鼻をブンっとかむと続ける。


「それとな、歩いて鳴く大きめのキノコも珍しいからの」


「合ってるけど何か雑ぅぅぅ」


 和代を無視して続けるエリディセラルナ。


「持ってる者に対しては何の効果もない普通のカバンじゃがな、ピッケが入って隠れられるようになっておる。どんな環境でも大丈夫なように防水、防火、それと一定の温度を保つように出来ておる。あとは頑丈じゃな。単純に壊れにくい」


「凄い!」

「素晴らしいです!」

「ピィッ!」


「そうじゃろうそうじゃろう。それとな、和代ちゃん」


「何?」


「お主、マジックバッグを持っていたじゃろ?」


「持ってんで。これやろ」


 ショルダーバッグから折り畳まれたエコバッグを取り出す和代。エコバッグはもちろんEveryday is special.と書かれた蛍光色の物だ。


「うむ。……これ、派手じゃろ?」


「ええやろ?」


「……うむ。しかしこの世界ではいささか目立ち過ぎる。じゃからの、これを、こうじゃ!」


 ピッケが入れる斜めがけのカバンの中に、和代のエコバッグをセットするエリディセラルナ。ピッケが入る場所とは別れたポケット部分に、エコバッグが口を開けたまま、綺麗に設置される。


「どうじゃ!」


「こ、これは……!!」

「めちゃくちゃ便利そうやな!!!」

「ピィィィィッ!!!」


「これで買い物も格段に便利になるじゃろ!」


「ええな!ほなこれミラちゃん持っててぇな!」


「え、え、でもそんな!マジックバッグなんて……!!」


「ええねんええねん。うちがこのエコバッグ持っててもちょっと使いにくいし……。せっかくエリちゃんが使いやすくしてくれてんし、ミラちゃんが持っててぇな。うちには知恵子が作ったショルダーバッグもあるし!」


「えぇ……良いんですか?」


「不安なのじゃったらお主らにしか使えんように設定してやろうか?」


「お願いします!」

「ええな!頼むわ!」

「ピィ!」


「わかった。じゃが、他の装備もそう思う物があるかもしれんしの。後でまとめてやろうかの」


「はーい!」

「はい!」

「ピ!」


「ふふふ。……では次じゃな。次は……これじゃ」


 何かがひとまとめになっている袋を手に取るエリディセラルナ。


「それ何なん?」


「ふっふっふ。これはの……」


 袋の中身を次々と取り出す。


「じゃーん!!ミラの防具一式じゃ!」


「おおー!!」

「わ、私のですか?!」

「ピィ!」


 袋の中から出て来たのは緑を基調としたブーツや革の胸当て、ローブやショートパンツなど。


「早速着替えてみるが良い!」


 エリディセラルナはミラを奥の部屋へ引っ張って行く。しばらくして着替え終わったミラが出てくると、和代は感嘆の声を上げた。


「よぉ似合ってるやん!ミラちゃん!エリちゃんセンスえぇわー!!!」


「そうじゃろそうじゃろ!」と満足そうに頷くエリディセラルナの横で「えへへ……」と恥ずかしそうにしているミラ。


「それも何や色々効果あったりするん?」


「まぁ、あったりなかったりじゃな。ミラは早く動いて相手の懐に入るスタイルじゃから出来るだけ軽めの装備にしておる。斥候も出来る装備じゃぞ」


「そ、それは、凄いですね」


「まずは認識阻害のローブじゃな。フードを被って魔力を少し流すと相手から認識されにくくなる。ま、強力なもんではないからの。今使っても意味はないじゃろ。人混みに紛れる時などは有効じゃ」


「ひゃー!何や凄いな!ミラちゃんかくれんぼしたら優勝すんで!」


「それと遮音のブーツ。単純に足音が無くなるブーツじゃ」


「凄過ぎる……!こんだけ隠れられたら、かくれんぼの時、見つからへんすぎて友達帰ってもた!みたいになってまうな?!」


「あとはスパイダーシルクの下着とタイツ。これは単純に頑丈じゃ。それと革の胸当て。ブラックリザードの革じゃから防御力もかなり高いぞ?」


「そ、そ、そ、そ、そんな、高級そうな素材だなんて……」


 説明を受けて目を回し始めるミラ。


「気にするな。全てお主らが修行の時に狩ったものじゃ」


「そ、そうかも、しれませんが……」


 ミラが顔を赤くしたり青くしたりしている。


「ミラちゃん!考えてもしゃあないわ!せっかくエリちゃんが作ってくれたのに、使わへんかったら勿体無いし、エリちゃんに悪いわ!」


「……そ、そう、です……ね」


「そうじゃぞ!使ってなんぼじゃ!」


「ええ事言う!」


「は、はい!ありがとうございます!大切に使わせて貰います!!」


 声を震わせながらも覚悟を決めるミラ。


「よっ!ミラちゃん!」

「よう言うた!ワシは嬉しいぞ!」

「ピィィィィ!」


「ちなみに、ジャケットは温度調節機能付きじゃ!」


「ふぇっ?!……はっ?!……きゅうぅぅぅ……ん……」


「ミラちゃん?ミラちゃぁぁぁん!!!」


「気絶してますね」


「こんな時だけ出てこんといて!タカオ!!」


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