第五十話 永子の独り言(四)
「何?
父上の
「
父上のお苦しみ、胸に迫ってくるようですわ。最近は
表御殿の壁に描かれた
「それは存じております。ただ、寄進するのは『
その瞬間、父の顔色が変わります。少しだけ背筋が伸び、前のめりの姿勢になっています。
「ふむ。
「御意。どうせ公家などに
父上が唇の端を上げて、その言葉を是としているのが分かります。さすが
「荘園を奪われることの多かった公家ですので、
「
「はっ。すぐに出立いたします」
急ぎ席を立とうとする
「
「ご心配なく。上首尾にございます」
互いにニヤリとしながら、今度こそ
それを引き留めて、私は気になっていたことを尋ねます。
「
「もちろん抜かりなく。今日にでも使者を出すことになっております」
私たちは顔を見合わせて、ふふっと互いに含み笑いをいたします。
「なんだ、なんだ? 二人で
久々に父上が笑顔を見せてくださいます。少しはよいお話を聞かせてあげないといけないですわね。
「そんな
「ほう
「
母上は
「最近は
「
「ええ、母上にも孝行になりそうですわ」
「まあ、
久々に表御殿に三人の笑い声が響きます。周囲の
「では、
そう言うと
私は上段の間から
庭のカエデの向こうには
(
しばらく景色を眺めながら、晴れ晴れとした気持ちになったのでございます。
§
和やかな家族の団らんから七日が過ぎました。今日は
護衛の
そこには平伏した使者と
「
上段の間の畳に座るのももどかしく、私は尋ねます。 すると
使者は顔を上げると、声を張り上げました。
「ご
もう、私は
その気配を察したのか、使者は姿勢を正して報告に入ります。
「まずは、一本ダタラを倒した
「それで?」
「けんもほろろに断られました。美女なら間に合ってる、と」
それほど
「まあ、いいわ。では、小笠原兄弟はどうなの?」
「はっ。兄の
なるほど、礼儀をわきまえた男なのね。それこそ私に
「弟の
まあ、やはり田舎者はしょうがないものね。このような良い話を断るなんて。
えっ?
「ということは、私の
「誰もおりませんでした」
これは
「下がりなさい! この無能者が!」
「
「はっ!」
「再度、
しばらく、胸に暗雲が広がったことを苦々しく思いましたが、今度の使者がきっと誰かを連れてくるだろうと楽しみに待つことにいたしました。
§
さらに七日が過ぎました。今日は朝から雨が降り、肌寒さが広がって参りました。奥御殿の
護衛の
平伏した使者は私と母が座るやいなや、成果を話し始めます。
「姫様の美しさと
そうでしょう。ようやく、この幸運に気付いたという訳ね。
「結果、全員……」
ほほ、三人全員を伴って戻ってきたという訳ね。なかなか弁が立ちますわね。いいえ、そうではなく、前の使者が無能というわけですわね。
「全員、お連れすることはかないませんでした」
? よく聞こえませんでしたわ。もう一度。
「全員に体よく断られましてございます」
「さ、
私は肩をふるわせながら、扇を握りしめてしまいました。扇からミリッという音が聞こえてきます。
「私に仕えられる幸運をうまく伝えられなかった使者は罪深いですわ。
使者は
「お待ちください。あまりにも
何が
奥御殿から引きずり出される使者は、
「このような姫に誰が仕えたいものか。
と、吐き捨てるように話したのです。ははん、分かりましたわ。
「
「はっ!」
騒ぐ使者を、
何と恐ろしいこと! まだ、
私は足音も荒く、
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