第二十一話 商人 信三郎がもどってきた
「
日が沈みそうになっている
馬好きの九郎はそばによって、
「
「何て、九郎に売ろうと思って
バシバシと馬の背中を叩きます。茶色の毛並みにツヤもあって、とても立派な馬に見えます。
「
「そもそも、
ごまかすように大笑いをしながら、
大広間には
「で、話とは何だ?
九郎が水を向けると、
「わかっとるやろ、九郎。ジブンに言われてたものは、だいたい
「……実は、ない」
「ほな、
すっくとその場に立った
「三日や。三日たって、ワイに納得できる理由があれへんときは、
そう言うと、わいは寝ると宣言して
「ねえ、九郎。
「多くは食べ物だね。麦、
ん? お金なんてどうして必要なの。
「うん。
でも、物々交換だっていいんじゃない?
私が首をひねっているのを見て、
「
ほうほう。少し分かってきたかも。
私は身を乗り出して、
「
野菜はお腹の中ね。
「
そっか。お金って凄いね。さすが
「
「ん? 何か言った?」
九郎も苦笑いですが、
「でも、九郎。そのお金はどうやって手に入れるの?」
お金が凄いのは分かったけど、
「倉にはお米が二
「他にはないの?」
誰も何も発言しないところをみると、ないんだね……。
「金がないときは、米を売っていたからのう」
明日、
§
ご飯を食べ、自分の部屋に戻った私は、
(母様からもらった袋、今開くべきよね)
早速、奥にしまっていた一つの袋を取り出して、部屋の真ん中にそっと置き、目をつぶって考えるのです。
ただ、
私にできることって何かしら。どうせ死ぬんだから、自分がやりたいことをするべきよね。
生け
「
不思議なことを話す母様だったなあ。思い出すと自然に涙がこぼれてしまいます。いけない、いけない。
涙を
何か石が入っているらしく、暗い部屋の中では見えません。手元に
慌てて全てを拾い集めました。胸に喜びが浮かんできます。
(これで、みんなの食べ物や服、
こうしてはいられない。
私は
もどかしくて、いきなりバンと障子を開けてしまいました。
「九郎! いいものを見つけたの! 一緒に見てくれる?」
「のあああ!」
「く、くせ者?」
そこには
くせ者ではないと安心した
「
九郎は、怒りながらも
「そんなこと言っていいのかな~、
そう言うと、二人の近くにとすんと座り、二人が見ていた地図の上にさらさらと砂金をまいたのです。
「ふふん、どうよ」
「ま、まさか」
「
ニヤニヤしながら二人を眺めます。九郎、喜んでくれるかな。ちらっと視線を九郎に向けます。
でも、九郎は難しい顔をして黙ったままです。逆に
「
「そうよう。九郎にあげるのよ。いっつもお世話になってるし」
でも、九郎は難しい顔のままなのです。
「く、九郎?」
私は不安になって、思わず姿勢を正しました。やっぱり、夜の訪問は失礼だったかしら。
しばらく沈黙が部屋の中を支配します。
やがて沈黙を破るように、九郎が口を開きます。
「
「えっ、どうして?」
「これはお母さまの
いやいやいや。それじゃ意味ないよ。肌は、かなりよくなってきたから気にしないで。
相変わらず真っ直ぐだし、私を
「九郎! 私ね、もう
生け
「それに九郎。あんたにお礼、してないじゃない。自分を預かってくれた恩人に何もしてあげないなら、母さまが
私を優しい目で見ていた九郎は深々と頭を下げるのです。
「分かった……。ありがたくいただくよ」
「い、いいのよ。頭なんか下げないで」
逆にこっちが下げなくちゃいけないくらいなんだもの。
とりあえず夜も遅いので、
ふう、満足!
そうして部屋に戻ろうとすると、九郎が少し話があるからと私を引き留めるのです。
私が九郎の前に座ると、九郎が私の方に手を伸ばしてきます。もしかして、生意気言ったから叩かれる?
私が首をすくめた瞬間、九郎は私の頭を
「
「そ、そう?」
自分では分からないな。でも、今、私ができることは何でもしておきたいの。でも、頭を撫でられるのって気持ちいいわねえ。って、あ! あそこに置いてあるのは……そうだ!
私はその『置いてあるもの』を取りに行って戻ると、自分の膝をポンポンと叩きます。
「九郎! ほらここに頭をのっけて。耳掃除してあげる」
「いいよ。照れくさい」
確かに……。でもね、私がしてあげられることなんてこれくらいだしね。
「昔は気持ちいいって言ってくれたのになあ。ほら、遠慮しない!」
「ま、まあ。そこまで言うなら」
九郎はそっと私の膝に頭を載せます。この前も思ったけど、何だか懐かしいかも。耳かきの棒をそっと耳の穴に入れようとするんだけど、見えないわねえ。
私は九郎に
「九郎、どう? 気持ちいいでしょ」
クリクリと棒を動かしながら、私は九郎に尋ねます。
「い、いや。何だか、怖いんだけど……って痛!」
「あら、ごめんね。でも、少しくらい我慢する! こんな美人に
「自分で言う?」
九郎は腕を胸の前で組み、警戒の姿勢を崩しません。
「気持ちよくなるためには、肩の力が抜けるような安心が必要だと思うんだけど……。こんな、緊張する耳かきは初めてだよ」
そう言いながら九郎は目を瞑ります。私も少しずつなれてきて、優しく掃除を続けます。
「
あらあら。九郎、顔が赤いわね。でも、動いたせいで、ほらあ!
「痛!
「何よ、
「えっ? 耳掃除って、そんなに我慢が必要な行為だった?」
二人で顔を見合わせて、思わずふふっと笑ってしまいます。まるで、あの城下町で一緒に走り回っていた頃みたい。
結局、その日は昔の気持ちを思い出して、ずっと笑っていた私たちなのでした。
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