第17話 深まる絆と未来への予感-5
就職の内定を得て、悠斗の心には大きな安堵と達成感が広がっていた。だが、それ以上に彼の心を占めていたのは、葵との未来、そして結婚という具体的な展望だった。プロポーズの計画を練り始めてからも、悠斗の頭の中は、そのことでいっぱいだった。どこで、どんな言葉で伝えれば、葵は最高の笑顔を見せてくれるだろうか。そんな期待と緊張が入り混じる日々。そんな彼に、夜の夢は、さらに具体的な「未来」を見せ始めた。
夢の中の悠斗は、葵との結婚後の夫婦生活を、まるで現実のように体験していた。
それは、穏やかな休日の朝だった。温かい日差しが差し込む寝室で、悠斗は目を覚ます。隣には、柔らかな髪を枕に広げ、安らかな寝息を立てる葵がいた。その寝顔は、高校の図書室で眺めていた彼女と寸分違わないほど、悠斗の心を満たした。そっと腕を伸ばし、彼女を抱き寄せる。目覚めると、二人で他愛もない会話を交わしながら、簡単な朝食を準備し、食卓を囲む。トーストが焼ける香ばしい匂い、コーヒーの苦み、そして葵の淹れてくれる紅茶の甘い香り。そのすべてが、悠斗の五感を満たした。
休日は、二人で家事をしたり、共同で料理を作ったりする。一緒に洗濯物を畳んだり、掃除機をかけたりするささやかな共同生活の描写。葵が、料理中に彼の背中にそっと体重を預けてくる。その温もりが、悠斗の心を深く癒した。ソファで寄り添いながら映画を見たり、近くの公園を散歩したりする。手を繋ぎ、肩を並べて歩く。そのすべてが、幸福に満ちた日常だった。疲れて帰ってきた悠斗のネクタイを、葵が優しく緩めてくれる。仕事の愚痴を聞いてくれる彼女の存在は、何よりも悠斗の心を軽くした。時には、悠斗が葵の好きなデザートを買って帰ると、彼女は子供のように無邪気な笑顔を見せる。その笑顔を見るたびに、悠斗の心は温かいもので満たされた。
夢の片隅で、ふと、幼い笑い声が聞こえることがあった。あるいは、小さな足跡が床に残されているのを見つける。それは、決してはっきりとした像を結ばないけれど、将来への確かな希望を、悠斗の胸に深く抱かせた。この夢は、悠斗にとって「未来予知的な将来の関係の暗示」だった。現実での結婚への決意が、この夢によって、揺るぎない確固たるものになっていくのを感じた。
しかし、夢の中の幸福感が大きくなるにつれて、悠斗の胸には、拭い切れない不安が芽生え始めていた。「いつまでこの夢が共有できるのだろうか」。そんな漠然とした葛藤が、彼の心を支配し始めた。水晶のお守りの力は、いつか役目を終えてしまうのではないか。あるいは、この夢の共有が、ある日突然、終わってしまうのではないか。夢の中で葵と築き上げた完璧な幸福が大きければ大きいほど、現実でのまだ満たされない部分とのギャップが、この不安を増幅させた。夢の存在は、悠斗にとって、切なく、儚いものとして意識され始めた。この特別な時間が、いつまでも続くわけではないことを、悠斗は心の奥底で予感していた。もしこの夢がなくなったら、現実の自分たちはどうなるのだろうか。その根源的な問いが、悠斗の胸に重くのしかかった。
毎朝、目覚めると、枕は汗でじっとりと湿っていた。
肌にはいつも薄っすらと寝汗が滲み、時には股間が濡れて、下着が夢精による粘り気のある熱を帯びた液体で汚れている。心臓は朝から激しく脈打ち、しばらく動悸が治まらなかった。サッカー部で鍛えられたはずの自分の体は、かつてないほどの性的興奮によって体液が分泌されたような痕跡も残していた。
夢のリアリティと現実の乖離に戸惑いながらも、悠斗は、葵との未来を強く信じていた。夢の中の彼女の存在が、現実の彼の生活を、そして精神を、確かな形で支えている。それが、この不思議な夢の力なのだと、悠斗は確信していた。
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