第3話 8-3

「寝るな! ダメだ! 寝るんじゃない!」

 ここは雪山。

「俺はここまでだ。今までありがとう。おまえだけでも生きてくれ。」

 遭難者が2人。

「ダメだ! 目を閉じてはダメだ! うおおおおおー!」

 一人の遭難者の命が天に召されようとしていた。


「大丈夫ですか? アハッ!」

 

 そこに皇女様が現れて微笑みながら手を差し伸べる。

「ギャアアアアアアー! 化け物!」

 雪山にやってきた皇女様は雪塗れだったので動く雪の化け物に見えた。

「こらー! 誰が化け物よ! 誰が!」

 雪の中から皇女様が顔を出す。

「ギャアアアアアアー! 雪女!」

 皇女様は寒さで全身の血の気が引いて真っ白な顔をしていた。

「おお!? 死人が生き返ったぞ!?」

 皇女様の登場に驚いて凍死したはずの遭難者が息を吹き返した。

「よ、良かったですね。アハッ!」

 皇女様は笑うしかない。

「ありがとうございます! これも全て皇女様のおかげです! 救世主だ!」

「皇女様! 万歳! 万歳! バンバンジー!」

 遭難者たちは皇女様を称えて感謝した。

「ど、どういたしまして。無事に下山してくださいね。アハッ!」

 皇女様は支持率アップのために常に笑っていなければいけなかった。

「さようなら! 皇女様!」

「お達者で! バイバイ!」

 遭難者たちは笑顔で下山していった。


「ふざけるな! 遊び半分で無謀な姿で山に登りやがって! おまえたちは山岳救助隊が命がけで助けに来ているのが分かっているのか!? それに助けに来てやったのに何様だ!? 私は化け物でも、雪女でもないぞ! 私はこの国の皇女であるぞ! エッヘン。」


 これが皇女様の本音である。

「ちょっとムカついたので、少し懲らしめてやろう。私の聖拳と魔拳の威力を思い知らせてやる! アタタタタタター! アター!」

 皇女様は山を殴ってみた。


ゴゴゴゴゴゴー!


 雪崩が発生した。


「雪山なんて、余裕だな! ワッハッハー!」

「皇女様も暇だな! こんな所まで雪塗れになって助けに来るんだもんな! ワッハッハー!」

 さっきまでの弱気と違い遭難者たちは調子に乗りチャラく感謝を忘れていた。


「ガオー!」


 そこに雪山の大きな熊が現れ遭難者に襲いかかってくる。

「熊だ!? 殺される!? なんて俺たちは不幸なんだ!?」

「おまえが助けてくれた皇女様の悪口を言うからだろうが! ギャアアアアアアー!」

 遭難者たちは自らの不幸を反省した。

「ガオー!」

 大きな熊が前足を上げて振り下ろそうとする。当たれば人間など一撃で死んでしまう。


ゴゴゴゴゴゴー!


 その時、雪崩が熊を飲み込め流していった。

「た、助かった!?」

「あ、あれを見ろ!」

 遭難者は雪山の頂上の方を見た。

「皇女様だ! 皇女様が雪崩を起こして俺たちを熊から助けてくれたんだ!」

「ありがとう! ありがとうございます! 皇女様!」

 今度こそ遭難者たちは皇女様に心から感謝した。


「チッ! 少しズレたか!」


 皇女様の心の声が外に漏れるが誰にも聞こえない。

「それにしても困ったものだ。私が悪い事をしようとすると、全て良い行いになってしまう!? なんて恐ろしいんだ皇女スキル!? これでは悪い事ができないではないか!? 私にどうしろという!? うおおおおおー!」

 皇女様の断末魔の叫びが雪山に木霊する。


「本当です! 皇女様が雪山で遭難していた俺たちを助けてくれたんです!」

「ボランティアします! 寄付します! 闇バイトなんかしません! 皇女教に入教します!」

 遭難者はニュース番組で皇女様の善行を話して、皇女教徒になっていた。

「さすが我らが皇女様ですね! 支持率も100パーセントをキープしています!」

 こうして皇女様の支持率は守られているのであった。 

「困っている人を助けます! なぜなら私は日本国の皇女なのだから! オッホッホー!」

 辛い時でも常に営業スマイルの皇女様であった。


「ああ~! 気持ちいい! 体の芯まで温まるわ!」

 温泉で凍傷の治療をする皇女様であった。

「ガオ。」

「アハッ!」

 雪崩に巻き込まれた熊も助けて一緒に仲良く温泉で温まっていたのであった。

「ガオガオ。」

「何々? ドラマに出たいだって。」

「ガオ。」

 雪山の熊の夢は俳優になることだった。

「やるか? 劇場版、皇女VSキング・ベアー。」

「ガオー!」

「まったく可愛い奴だ! ワッハッハー!」

 動物とも親睦を深める皇女様であった。



「ああ~暇だな。」

 物語の始まりは皇女様の暇つぶしから始まる。

「異世界ファンタジー部の大会はまだし、本当に暇だな。」

 ちなみに異世界ファンタジー部は皇女様が暇なので創部された。


ピキーン!


「そうだ! もう少しで英語のテストだ!」 

 学生なのでテストは避けて通れない。

「・・・・・・私の中の魔王が言っている。勉強よりお団子だと。」

 食い気が勝った皇女様。

「美味しい! アハッ!」

 皇女様はテスト勉強など絶対にしない。

「どうせ私のテストは毎回100点満点! なぜなら私は日本国の皇女なのだから! オッホッホー!」

 なぜか皇女様は勉強をしなくてもテストは100点だった。


「それでは英語のテストを始めます。」

 遂に英語のテストの時間がやってきた。

「先に言っておきますが、カンニングは死罪ですよ! 皇女様がお決めになったんですからね! みんなカンニングはしないように!」

「は~い!」

 皇女独裁体制の日本では、テストのカンニングは死罪であった。

「ちなみに教師、生徒の盗撮は死罪ですよ! そんな人が社会にいたら気持ち悪いでしょ! これも皇女様が決めたのよ!」

 スマホで裸を撮られた時点で脅されて、言いなりになるしかない今日この頃。いつになったら教師も含めて学校にスマホは禁止になるのだろうか?

「はじめ!」

 こうして注意事項が説明されてテストが始まった。

キーンコーンカーンコーン!

 チャイムが鳴った。

「終わりです。後ろの人から前に答案用紙を送ってください!」

 もちろんカンニングも盗撮も行われなかった。


「どう? サト。テストはできた?」

「まあ、70点くらいかな。」

 皇女様は従者のサトとテスト談義する。

「スズは?」

「もちろん100点満点よ! なぜなら私は日本国の皇女なのだから! オッホッホー!」

 どこから来るのか? この皇女様の自信。


「次の答案は鈴木か? どれどれ?」

 職員室では担任の中村ナカがテストの採点をしていた。

「問題。英語を日本語に直しなさい。第一問、オクトパス。」

 オクトパスはタコのことであった。

「鈴木には困ったものだな。オクトさんがバスケの試合でパスをしたの略だなんて。ワッハッハー!」

 皇女様はオクトパスがタコだとは知らなかった。


「オクトパス!?」

 ここはPSS本部。

「不味い! 不味いぞ! このままでは皇女様の連続100点の記録が途切れてしまう!?」

 監視カメラで様子を盗撮していたPSSの隊員たち。

「天変地異が起こるぞ!?」

「俺たちのボーナスも失くなってしまう!?」

「バカ野郎! その前に俺たちの命が消されるわい!」

 隊員たちは生命の危機に直面した。

「探せ! 探すんだ! PSSの全調査網を使ってでもオクトさんを探し出すんだ! FBIなど各国の調査機関にも応援を要請するんだ! 世界の危機だと!」

「はい!」

 皇女様のテストの回答を正解させるためといことは秘密にされたまま。

「こいつは何をやったんだ!?」

「きっとテロリストに違いない!? 助けを求めてきたのは日本のPSSだ。・・・・・・まさか!? 皇女様の命が狙われているのか!? 大変だ! 世界の象徴! 皇女様は人々の希望だ! なんとしても皇女様をお守りするんだ!」

「おお!」

 こうして全世界にオクトさんは指名手配される。


「焼きそばも美味しそうだな? お好み焼きも捨てがたい。 う~ん。どうしよう?」

 当の本人の皇女様はお昼ご飯を悩んでいた。


「発見です! マル秘を見つけました! ヨーロッパの秘密情報部からの情報提供です! 対象はギリシャにいるとのことです!」

「さすがジェームス・ポンド! 優秀だな!」

 遂にオクトさんの手がかりを掴んだPSS。

「直ぐにギリシャに行くぞ! 全ては魔王様のために!」

「おお!」

 PSSの隊員たちはギリシャに向けて飛び立った。

「いや。今の時代、普通にSNSで検索すればオクトさんを見つけられるし、連絡してバスケでパスしている写真や動画を送ってもらえばいいだけなんだけど。ポチっとな。」

 PSSの隊員の中には冷静な今時な隊員もいた。


「やって来ました! ギリシャ!」

 PSSの隊員たちはギリシャにパラシュートを使い華麗に舞い降りた。

「パルテノン神殿を見たいです!」

「ミコノス島で風車だろうが!」

 隊員たちは海外旅行に浮かれていた。

「バカ野郎! おまえたちは何しにギリシャに来たのか忘れたのか!」

「すいません。隊長。俺たちが間違っていました。」 

 隊長は隊員たちの緩み切った態度にキレた。

「分かればいい。分かればいいんだ。ギリシャといえば・・・・・・オリンピック古代遺跡だろうが!」

「イエーイ! さすが隊長だ!」

「いくぞ! 野郎ども! メロスを感じるんだ!」

「おお!」

 所詮は皇女様直属のシークレットサービスなので、レベルはこんなものである。


「まったく仕方がないな。鈴木は。」

 再び教室に戻り、正に教師の中村ナカが皇女様の答案にバツにする所であった。


ピキーン!


「はっ!? これは皇女様の答案!? もしもバツにしてしまったら、私は跡形もなく消されてしまう!? 嫌だ! 6時のニュースで東京湾に女教師の変死体なんて!?」

 防衛本能が働く担任教師。

「よし! 書き換えよう! まだ私は死にたくない! それに皇女様のテストを100点に改ざんしておけば、タワーマンション貰えるもんね! アハッ!」

 既に教師は買収済みであった。


「中村さん。何をやっているんですか?」


「こ、校長先生!?」

 そこに校長先生が現れる。

「まさか!? あなたはテストで不正行為をしようというんじゃないでしょうね?」

「ギャアアアアアアー! バレた!?」

「教育委員会にいって、あなたを懲戒解雇します!」

「ギャアアアアアアー! 無職だ!?」

 正義感の強い校長の前にナカ先は絶体絶命のピンチに陥る。


「ん? んん? んんん!? これは! 皇女様の答案ではないか!?」

 

 その時、校長は答案用紙の名前に気づいてしまった。

「中村さん! 何をやっているんですか! 早く! 早くマルにしなさい!」

「えっ?」

 答案用紙の主が皇女様と知って校長先生の態度が180度変わる。

「皇女様の答えが正しいんだよ! 他の生徒の答えをバツにすればいいんだ!」

「嘘~ん!?」

 ここでオクトパスの概念が変わる。

「私は既に皇女様からアタッシュケースで金塊を頂いているんだぞ! 私はまだ死にたくない! 次は教育委員会の委員長の座が待っているのだからな!」

 実は校長先生も買収済みであった。

「返せばいいのでは?」

「返せるか! 既に愛人にマンションを買い与えて使用済みだ!」

「最低。不倫してるとか女の敵だ。」

 ナカは校長に幻滅した。


「あ、メールだ。」


 その時、ナカのパソコンにメールが届く。

「これは!?」

 メールにはギリシャ在住のオクトさんがバスケでパスをしている映像が添付されていた。

「ここまでするのか!? 皇女様!?」

 ナカは震える手で皇女様の答案にマルを入れた。


「スズ、テストは何点だった?」

「もちろん100点満点よ! なぜなら私は日本国の皇女なのだから! オッホッホー!」

 こうやって皇女様のテストの連続100点満点の記録は保たれているのであった。

「広島焼きを食べに行こう! 広島焼きなら焼きそばとお好み焼きの両方を食べれるわ! アハッ!」

 裏で激しい戦いが起こっていることを皇女様は知らない。


「ギャアアアアアアー! なんで私がクビに!? 教育委員会の座は目の前なんだぞ!? 離せ! 離せ!」

 校長先生は愛人問題が発覚して懲戒免職になり、公金横領の罪で警察に逮捕された。

「私、これでも異世界ファンタジー部の顧問なので。皇女様の問題と愛人を囲っているのは別の問題だよね。アハッ!」

 もちろんチクったのはナカ先生であった。


 更に・・・・・・。

「これでバスケをやってくれませんか?」

 ギリシャのPSSの隊員たちは観光旅行を終えて、本来の目的を思い出した。

「えっ!? なに!?」

 金塊の詰まったアタッシュケースをオクトさんに差し出す。

「隊長! 大変です!」

「どうした!?」

「今年バスケのワールドカップは行われません!」

「なんだって!?」

 都合よくワールドカップは行われない。

「直ぐにバスケ協会に行くぞ! アタッシュケースをいくら使ってもいい! 何が何でも今年中に行わせるんだ! オクトさんの歴史的なパスで、アメリカを倒してギリシャが初優勝するんだ! そうすれば皇女様の回答に箔がつくというものだ!」

 PSSのモットは皇女様のためにである。

「ということで、あんたはパスの練習な。アハッ!」

「おまえたち、頭がおかしいんじゃないか?」

 こうして世界の平和は守られているのであった。

 つづく。

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