第8話 元雑用係、冒険者になるための試験を受ける

マリーを宿に任せて、私は冒険者ギルドへ向かっていた。

今までの人生で冒険者だけにはならないと決めていたが、なるしか今の私に選択肢はなかった。


世の中で冒険者はとても危険な職業として知られている。

周りに冒険者になった人はごく少数だ。

だが、冒険者という職業もなくては世の中は回らなかった。


ギルドの看板は色が剥げ、文字は半分ほどしか読めなかった。壁にはいくつものひびが走り、扉は近づいただけで今にも外れそうに揺れている。


「……これが、冒険者の拠点?」


思わずつぶやきながら、私は勇気を振り絞り扉を押した。油を差されていない蝶番が、不気味な悲鳴をあげる。


ドアを開けると、そこにはいまでは珍しい木製の椅子やテーブルが置かれていた。

そして、ギルドの中には誰もいなかった。

受付嬢も立っていなかった。

少しおかしいと思い、受付にあるベルを鳴らした。



が……



全く誰も出てこなかったのである。

今日は誰もいないのかと思い、カウンターに背を向けて帰ろうとしたとき奥の方からドタドタと音を立てながら近づいていた。


その音に少し不安を抱えながらも私はその場で立ち止まった。

奥から出てきたのは、まだ若い女性だった。

女性は息を切らしながら言った。


「……ようこそ!冒険者ギルドへ!ご依頼をお探しですか?」


受付嬢はわたしの顔を見て固まった。

なぜ固まったかはわからなかったが次の瞬間受付嬢は大きな声で言った。



「新規様ですね!!??」

目を丸くした受付嬢は、次の瞬間ぱっと笑顔を浮かべた。

その声が、がらんどうのギルドにやけに響いた。

私は胸の奥に重たいものを抱えたまま、曖昧にうなずいた。

……本当に、ここでやっていけるのだろうか。

「いやぁ〜ありがたい!ここ半年、誰も登録してくれなくて!もう私、机に話しかける癖がついちゃったんです!」


どうやら、冒険者不足は深刻らしい。

私は改めて、この世界で生きる選択肢がどれだけ限られているかを痛感した。

あたりを見渡すと、壁に貼られた依頼書は色あせ、文字が滲んでいる。依頼主の名前の横には、同じ顔ぶれの同じ冒険者たちの署名ばかり。

この場所に若さはほとんど残っていなかった。

「では、ここの登録書にサインいただけますか?」

「わかりました」

受付嬢はニヤニヤして私に渡してきた。

ちょっと気持ち悪いなと思いながら登録書にサインをした。

「ありがとうございます!!うへへ……」

不敵な笑みを浮かべながら再び裏へ消えてしまった。


ー待つかと思い、近くの椅子に腰をかけた。

ギルドの中に貼ってあるまだ解決していない依頼書を読み漁った。

遠くから見えづらいが、魔法を使って紙を自分のところへ持ってくればいいだけの話だった。


色褪せて、文字も消えかけていたがなんとか読めた。

『薬草を採取する』や『スライム討伐』などクエストの種類は様々だった。


すると、ギルドのドアが開き誰かが入ってきた。

誰だろうと顔を上げるとそこにいたのは筋肉ムキムキの貫禄のある人だった。

その人は私を一度見て、もう一度見たあとわたしの前まで歩いてきていった。

「見ない顔だな。新人か?」

私は貫禄の圧に負けてしまい、少し怖気付きながら言った。

「……あっ、はい。今日登録しに来た新人です」

そう言うと、受付嬢が陽気な声を出して戻ってきた。

「ふっふふ〜ん……お待たせしました……ってセナさん来てたんですか」

……セナさん?こんな怖いおじさんが?


セナさんは受付嬢の方を見ていった。

「お主、その名を言うでない!それは禁句じゃ!」

「あっ!そうでしたね。いつも私とセナさんしかいなかったからつい」

「……?」


私が不思議そうにして二人のやり取りを見ていると、セナさんは言った。

「新人の君!今の会話聞かなかったことにできるか?」

「……ハイ」

そう言うと、セナさんは胸を撫で下ろした。

受付嬢の人はからかうように言った。

「本当の姿見せてもいいと思いますよ。私は」

「本当の姿?」

「気になりますよね!セナさんの正体!私知ってるんですけどね」

受付嬢のマシンガントークは止まらなかった。

すると、セナさんが急に杖を出して受付嬢につき出した。

「お主、そろそろその口を閉じよ。口にぶち込むぞ」

「ひぃいいいい!!!すみません!何でもしますからぁぁあああ」


「おっと、何度聞いたかわからないお願いじゃな。今回はそのお願いを使うとしよう」


「何でしょうか」


受付嬢はセナさんに頭を足で押し付けられながら土下座しながら言った。

何だこの二人。仲がいいのか。良くないのか。全くわからなかった。


「新人の採用試験、妾に任せてもらおう」

「ちょ、ちょっと!今は人手不足なんですよ!? 落としたらどうするんですか!」

「ならば、落とさぬように導けばよい」

「……ずるい言い方しますね」


グキッ!


そんな生々しい音を立たせながらセナさんは言った。


「許可するだろう?」


「……は``い``」


受付嬢は泣きながら承諾していた。

そして、話の矛先が私に向いた。


セナさんはわたしの目の前まで来て言った。

「お主には、見せてやろう。妾の本当の姿を」

白い光が渦を巻き、空気が震えた。

次の瞬間、そこに立っていたのは――金髪の幼い少女。

その笑顔には先ほどの威圧感など欠片もなく、ただ人を惹きつける不思議な輝きが宿っていた。


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