第4話雑用係、追放される

 目が覚めたのは、見慣れた天井だった。


「……え?」


 確かに、私は紅茶に毒を盛られたはずだ。体中が痺れて、言葉も出せなくなって、意識が暗闇に飲まれた。そのはずなのに——なぜ、またこの部屋に?

死ぬような毒ではなかったようだ。


 起き上がろうとして、頭がぐらりと揺れる。体に力が入らない。まるで長い夢から無理やり起こされたような感覚だった。


 壁に掛かった小さなカレンダーに目を向けて、私は固まった。


「……嘘。もう、三日も経ってる……?」


 黒竜討伐の期限まで、あと三日。そう言い渡された日から、三日が経っていた。


 頭が真っ白になった。なんで私はここにいるの? どうして誰も助けてくれなかったの?


 ——いや、考えている暇なんてない。


「行かないと……!」


 私はベッドから跳ね起きるように立ち上がった。ぐらつく足を無理やり前に出して、魔力の感知に集中する。まだ近くに黒竜がいれば、その魔力の波を感じ取れるはず——


 でも。


 感じられなかった。


 何も。どこにも。黒竜の気配が、消えていた。


 焦りと混乱と、嫌な予感が胸を締めつける。


「……まさか、そんな……!」


 私は駆けるように城の一角、神域メンバー専用の討伐記録室へと向かった。扉を開け、項目を探し、震える手で目当ての記録を見つけ出す。


 そこには、はっきりと書かれていた。


《討伐対象:黒竜。討伐者:アルペリカ団長。日付:三日前》


 文字が滲んで見えた。目の前の記録が偽物であってほしいと、心の底から願った。


 けれど——それは、紛れもない現実だった。


 団長は、私が毒で倒れている間に、黒竜を討伐した。


 そして、私には何の成果も残らなかった。


 手が震え、書類を落としかけた。目の奥が熱くなる。悔しさと怒りと、やりきれなさが心の中でごちゃ混ぜになって暴れている。


 でも、叫ぶこともできなかった。


 私には、叫ぶ自由すら、なかった。


 *


 その日、謁見の間には王と、神域の幹部たちが静かに並んでいた。


「フラン。そなたに下す勅命は、ただ一つ」


 王の声は、冷たく響いた。


「そなたを神域より除名する。そして、今後一切の王城への立ち入りを禁ず。身の潔白が証明されるその日まで——そなたは、追放者として扱う」


 言葉の一つひとつが、私の心を抉った。


 反論は許されなかった。弁明も、赦されなかった。


 膝をついたまま、私はただ「はい」とだけ返事をした。


 言葉を飲み込むしか、できなかった。


 目を閉じると、団長の冷たい笑みが頭に浮かんだ。あの毒入りの紅茶と、「せいぜい足掻くんだな」という嘲りの声が、耳の奥で響いている。


 私がここにいる意味は、もうないのだ。


 *


 荷物はほとんどなかった。


 もともと、自分の部屋に私物はあまり置いていない。数冊の魔術書と筆記具、そして着替えが少し。布の鞄に詰め込んでも、軽すぎるくらいだった。


 部屋を出るとき、誰も見送りには来なかった。


 階段を下り、石畳の廊下を歩く。すれ違う兵士たちは、私を見て小さく何かを囁いた。でも、声は耳に入ってこなかった。何を言われても、もう私には関係がなかった。


 城の門を抜け、王都を見渡す丘の上に立った。


 ここから見える景色が、私は昔から好きだった。


 けれど、今の私はこの街から追い出される存在なのだ。


 風が髪を撫でた。重たい空気が心を包み込んだ。


「……バカみたい」


 ぽつりと、そう呟いた。


 でも、その声に誰が答えることもなかった。


 フランの旅は、ここから始まる。


 何も持たず、すべてを失って。


 けれど、彼女の中には確かに——まだ消えていない魔力があった。


 あとがき


 ついにフランが神域メンバーから追放されちゃいましたね……アルペリカ団長許せぬ。

これからは、タイトルのように冒険者としてのフランの物語が始まっていきます。

どんな仲間に出会いどんな出来事があるのか楽しみにしていてください。


また、次回会いましょう by天使の羽衣

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