剣でも魔法に勝てますか?

れる

第1話 魔術の才を持たない者

俺、ラタ・グラディウスには魔術の才能が無かった

別に魔術だけが戦闘の全てという訳じゃない。

剣を使う者、弓を使う者、拳で戦う者など、様々な戦闘スタイルの戦士がいるが、そんな戦士の最も多くを占めるのが魔術師である。

理由は単純「強い」からだ。

剣や拳は人間より遥かに大きく硬い、強靭な肉体を持ったモンスターに接近して戦闘しなければいけない、弓は遠距離からの攻撃が可能だが、魔術で強化された弓でなければ威力があまり出ない上、素早いモンスターに近付かれれば一瞬で攻撃を喰らってしまう。

だが魔術は違う。遠距離攻撃はもちろんのこと、近付いてきたモンスターとの近距離戦闘だって難なくこなせる。単純な攻撃魔術や治癒魔術に限らず、武器バフ、結界や壁を生成することによる防御等、ありとあらゆる戦闘に対応していると言える。

デメリットといえば、物によっては長めの詠唱が必要なことだが、中級〜上級の魔術師ともなれば詠唱を端折ったり、無詠唱で魔術を使える者だっている。

ここまで説明すれば分かるだろう、魔術こそ最強の戦闘手段であり、その他ははっきり言って「ゴミ」であると。

ああそうだ、この世界は魔術こそ至高であり、それ以外の戦闘スタイルを選んで戦っている者は、俺のように才能を持たない者か、強化系や防御系の魔術の扱いに長けており、剣や拳でも魔術師と同等レベルの戦闘の能力を持っているという理由から使っている者に分かれる。

当たり前だが、魔術の才能があるのにも関わらずにそれを捨て、ただの剣や弓で戦っている者など存在しないのだ。

だからこそ、俺のように魔術の才能を持たないものは弱い。

モンスターやダンジョンが数多く存在し、強い戦士が称えられ尊敬されるこの世界において、魔術が使えない人間がどんな目で見られ、どんな扱いを受けるかなんてのは、想像に容易いだろう。

魔術の才能が無く、剣で戦うしかない。それでも俺は、努力を重ねて強くなりたい。最強の戦士になりたい。いや、ならなきゃいけないんだ、大切な人を守るためには。

この世界には、モンスターの頂点、所謂「魔王」というものが存在する。

全てのモンスターの王であり、人語を話し、自分の要塞を持つ上、魔王に次ぐ最強のモンスター、過去に幾つもの国を滅ぼしたと言われている███████を従えている化け物だ。

もちろん、魔術の才を持たない俺がこんな化け物を倒してやる、なんて大層な目標を掲げるつもりは無い。

だがそれでも、そんな魔王や手強いモンスター達が数多く生息するこの世界で、自分や周りの人間と幸せに暮らすためには、最低限強くなくちゃいけない。魔術師に蹴散らされる側の人間である俺なら尚更、強くなって彼らにも負けない力を手に入れなければならない。

剣士である以上、魔術師の何百何千倍もの努力をしなければならない、そんなことは分かっている。この先待っている未来がそう易しいものではなく、辛く苦しいことの方が多く、険しい道のりだってことも重々理解してる。

それでも俺は、 この世界を守りたい。魔術師達と肩を並べて戦いたい。剣士だってやればできるということを証明したい。


―――――それから、さっきの言葉を訂正しよう。

俺は、魔王を倒したい。


少し前置きが長くなりすぎたかな、つまるところこれは、魔術の才能を持たない少年、ラタ・グラディウスが、皆を守るという目標からどんどん大きくなっていき、いずれ魔王と戦うことになるような、そういうありきたりな話だ。



「ラタ、早く起きなさい!!」


「....おはよう、母さん」


「おはよう、遅かったといえど、今日はちゃんと1回で起きたわね、偉いわ」


「もう12歳だよ?それぐらい普通だよ」


「あらあら、まだ子供のくせに偉そうなこと言っちゃって」


そんなやり取りから始まった今日は、というより今日''も''、3ヶ月後に控えたカルテリア魔術学園の試験に向けて1日鍛錬をする事になっている。

何故剣士の俺が「魔術学園」を受験するのかって?

答えは簡単、この世界に剣士の為の学校なんてものは存在しないからだ。

昔、このカルテリア魔術学園はカルテリア戦士育成学園という名前だった。

だが、先程も説明したようにこの世界の戦士はほとんど魔術師である為、戦士ではなく魔術学園とした方が良いだろうとの声が幾つか上がり、今の名前になったという訳だ。

名前が変わっただけなのと、魔術で剣や肉体を強化して戦うタイプの戦士は魔術師として扱うことも可能なため、俺のような剣士でも色々頑張ればどうにか受験できる...という訳だ。合格出来るかどうかは別として。


そんなこんなで、今日も僕の鍛錬漬けの一日が始まる。

あ、一人称が「僕」であることに疑問を持った?

ごめんね、実は僕、〇〇である。とか、〇〇だが、みたいな語り口調に憧れてて、普段使わない「俺」とか色々使ってみてたんだけど、やっぱりどうも慣れなくて...ってことで、ここからは素の僕でいかせてもらうことにするね。


ということで気を取り直して、今日も僕の1日が始まった。


まずは朝ごはんだ。

レタス、トマト、鶏肉が入ったチキンサンドイッチに野菜ジュース。

もしかして、モンスターの肉が食卓に並ぶんじゃ...って思った人もいるかな?

確かに豚や牛を模したモンスターは存在するけど、そういうモンスターは革、骨なんかを武器や装備を作るのに使うってだけで、お肉を食べることはほとんどないんだよね、だってモンスターじゃない普通の鳥や牛、豚の方が美味しいし...


さて、朝ごはんが終わったら筆記試験の勉強だよ。鍛錬漬けの一日、なんて言ったものの、ご飯を食べてすぐ激しい運動をするのは良くないからね。


魔力や詠唱、魔術の種類や仕組みに関する基本的な知識を頭に詰め込んでいくんだ。詳細な説明はまた今度するね。

剣の勉強はしないのかって?

筆記試験に剣の科目は出ないし、そもそもその辺の知識はもう頭に入ってるから、必要ないんだよね。


魔術の勉強が一通り終わったら今度こそついに鍛錬の時間だ。外で父さんが待ってくれているから早く行かなきゃ。

ちなみに僕の父さんは剣や肉体を魔術で強化して戦うタイプの剣士で、国が認める精鋭戦士であるエリートの称号を貰ったこともある、凄い人だったりする。

そんな父さんに憧れて強くなりたいって思ってる所もあるんだ。


「お、ラタ、やっと来たか!今日も始めるぞ」


鍛錬するために整備された広めの庭に出ると、すぐ父さんに声を掛けられた。


「ごめん父さん、少し遅くなった」


「今日は剣の強化に関する鍛錬をする」


――――は?

何言ってるの?この人


「えっ!?無理だよ、僕は魔術なんて使えな――」


「ああ、確かにラタには魔術の才能がない」


「...」


「でも、魔力は少なかれど持っているし、魔術が全く使えないわけじゃない」


「そうだけど、でも...」


確かに僕は、魔術の才能がないだけで、全く使えないという訳じゃない。だが使える魔法は風属性の下級魔法である、ウィンドボールだけ。


これは簡単に説明すると、魔術で起こした風に魔力をぶつけ、飛ばすというもはや物理技みたいな魔法で、風属性の適性を持たない者ですら無詠唱で使用することが出来る。

上級魔術師になればこれだけで中級以下のモンスターに穴を開ける程の威力が出せるとか何とか聞くけど、僕のは地面に落ちてる葉っぱを散らす程度。ダメージなんて与えられたものじゃない。それに詠唱だって必要なんだ。そんな僕に剣の強化魔術なんて...


「ラタは魔法を使うことに慣れていない」


そりゃそうだ、才能がなくてほとんど使えないに等しいんだから。


「別に俺は魔術を使いこなせるようになれと言っているわけじゃない。どれだけ弱く、発動に時間が掛かったとしても、ウィンドボールを使えるお前なら、剣の強化魔術だって使えると言ってるんだ」


「慣れるって言ったってどうやって?」


「とにかくまずはウィンドボールを使え。魔力が無くなるまで打ち続けろ。風を起こし、魔力をコントロールする感覚を掴め」


「威力が出なくたっていい、無詠唱じゃなくたっていい、魔法を撃つことに慣れるんだ」


「...分かった」


そう言ったものの、正直剣の強化魔術なんて使えるようになる気がしない。だけど、ここまで言われてしまってはやるしかない。


「風よ、球となって飛べ、ウィンドボール」


その瞬間、辺りに小さな風が舞い、弱々しい球となって前に飛ばされては、直ぐに消えていく。


「そうだ、それでいい。必ずお前が強化魔術を使えるようにしてやるから、今は俺の指示に従え。それに、そもそも強化魔術無しのただの剣術となれば門前払いされる可能性が高いからな」


そうだ。いくら剣士を受け入れてるとはいえ、それは皆魔術で剣を強化して戦う剣士であって、僕のような剣士のことじゃないし、元が戦士育成学園であれど今は魔術学園なんだ。父さんが言うように、そもそも試験を受けさせてもらえない可能性の方が高い。

だから頑張ろう。何としても試験までの3ヶ月間で使えるようになろう。


そう決意したラタは、魔力が尽きて失神寸前になるまで鍛錬を続けるのだった。






お読み頂きありがとうございます!

設定やら名前やら考えるのが苦手なのに小説書いてて、色々ガバガバではありますがぼちぼち投稿していくので良ければこれからも読んで頂けると幸いです。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る