第10話 逃げる

 え?急がないと、早く会社辞めないと…。

これは流石に耐えられない。

早く早く辞めないと…。私の勘が心臓がそう告げている。2人に何かあった…。入籍?妊娠?兎に角私はココに居ることは出来ない。逃げよう。間に合うか?

 

 2人が計画休暇一緒に取ったその日に私は退職願を書き上げ取締役に出すことが出来た。

これは本当に偶然でまるで何かの導きがあったのでは?と感じる程の出来事だった。

 私はいつも通り2時間の残業を終え残業日報を書きに事務に行った。そこにはいつもは退勤しているはずの取締役が居た。少し躊躇して私は取締役に、


「少しお時間よろしいですか?」


そう言って封筒を出した。


「えー受け取らないよ。ダメ。何で?」


一度取締役には退職したいと話はしていた。


「コレ受け取るって事は理由はどうしても聞かないと受け取れないよ。」


「…。えー。今は言えないです。」


「では、受け取れません。って事は出来ないけど…。教えてよ。助ける事出来るかもしれないよ。」


「言えないです。」


「言葉に出せないなら紙に書いて。」


取締役から紙を受け取り私は彼の名前を震える手で書いた。


「あー。やっぱりかー。だよね。精神的にダメになるよね。少し詳しく話して貰える?」


 私は彼と1年前まで付き合っていた事。音信不通になった事。それでも〝もしかしてまた付き合えるかも〟と彼の為に1年間頑張った事。縫製指導の時彼はわざとなのか偶然なのか付き合ってた時そうしていたからなのか私の指に触れてくる事。彼が頑張る人が好きと言ってたから仕事も頑張り彼が〝頑張って〟と声をかけてくれるたびに私は彼に好かれようと頑張った事。コミュ症の彼の為に心理カウンセラーの資格も取った事。辛くても仕事を休まなかった事。私と付き合っていた時今の彼女から彼へあざといラインが何度もあった事。それに彼は断りの返信をしてない事。涙と共に言葉が溢れた。


「今日2人が休んだのは入籍ですか?両家の顔合わせですか?」


「それは立場上答える事は出来ないけど…。で、どうしたい?」


「私は続けられないです。会社的にいつ2人の発表?公表しますか?」


「何もまだ会社としては決まって無いし、内密にって本人から言われてるから…。」


「だって、きっと妊娠してますよね?あーどうしよう?間に合わなかった…。今私が辞めたら私と彼が関係あった事他の従業員に気付かれますかね?」


「どうだろう?2人が付き合ってた噂は私も知っているけど確証みたいのは無いからなー?もしかしたら今ならまだ間に合うかもしれないけど…。本当に仕事続けられない?」


「耐えられません。こんな事で辞めるなんて馬鹿みたいだけど…。私には無理です。」


「だよね。今、話聞いた限りオレもあの2人には怒湧いてるし…。個人的には色々言ってやりたいもん。」


「あーでも、どうしようかな?いつまで仕事出来る?」


「もう、直ぐにでも辞めたいです。月曜日来て終わりで良いです。」


「皆に挨拶とか?どうします?」


「そんなの出来ません。毎日会社に来るだけで心臓バクバクして息が出来ないのに…。早く消えたい。私を消して下さい。」


 

 コレは異例の待遇だと思う。私は月曜日午前中話し合いをしてそのまま退職の手続きを終える事が出来た。

 金曜日の夜、私の精神状態を心配して取締役は自分の奥さんとご飯に行くよう勧めてくれて私はもう1人味方を付けることが出来た。

 私の気持ちを分かってくれる人が増えた事に私は気持ちが楽になった。何かあればラインして欲しいと奥さんは私とライン交換をした。本当にありがたく涙が溢れた。

 何度もコレは〝逃げ〟じゃないよ。自分を守るための事だから。と言ってくれる優しい言葉に救われた。

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