第7話「聖女の崩壊~真実の収穫」

 王都での成功は、エレオノーラにとって最終決戦の狼煙だった。彼女は、満を持して、最大の切り札を切ることを決意する。それは、イザベルが入手したセシリアの不正会計の証拠の公表だった。


 エレオノーラは、エルネスト辺境伯の協力を得て、王都で最も信頼されている広報紙「王都日報」に、セシリアの寄付金横領に関する詳細な記事と証拠の写しを掲載させた。記事は、聖女セシリアの清廉潔白なイメージとはかけ離れた、金に汚く計算高い素顔を赤裸々に暴き立てた。


『聖女セシリア、信徒の浄財を私的流用か!? 衝撃の帳簿が明るみに!』


 センセーショナルな見出しと共に報じられたそのニュースは、王都に、いや王国全土に衝撃を与えた。人々は、自分たちが崇めていた聖女の裏切りに愕然とし、怒りの声を上げた。教会の前には、説明を求める信徒たちが殺到し、大混乱となった。


 セシリアは必死に弁明しようとしたが、エレオノーラが提示した証拠はあまりにも決定的だった。帳簿には、高級なドレスや宝飾品の購入記録、さらには愛人への送金らしき不審な支出まで記されていたのだ。聖女の仮面は剥がれ落ち、その下から現れたのは、強欲で自己中心的な一人の女の姿だった。


「そんな……嘘よ! これはエレオノーラの罠だわ!」


 セシリアは最後まで往生際悪く叫んだが、もはや彼女の言葉を信じる者は誰もいなかった。貴族連合も、このスキャンダルによって完全にセシリアを見限った。彼らにとって、もはやセシリアは利用価値のない、むしろ厄介なお荷物でしかなかった。


「我々は騙されていたのだ! あの女こそが悪だったのだ!」


 手のひらを返したようにセシリアを非難し始める貴族たち。彼らは自らの保身に走り、責任を全てセシリア一人に押し付けようとした。しかし、エレオノーラはそれも許さなかった。エルネスト辺境伯を通じて、貴族連合がセシリアの不正を知りながら黙認し、さらにはエレオノーラを陥れるために共謀していた証拠も次々と暴露していったのだ。


 貴族連合は内部から崩壊した。主だった者たちは爵位を剥奪されたり、領地を没収されたりする末路を辿った。そして、ヴィンセント王子もまた、この一連の騒動における判断ミスや、セシリアに加担していた事実が明るみになり、ついに王位継承権の放棄を宣言せざるを得ない状況に追い込まれた。彼の政治生命は完全に絶たれた。


「……まさか、こんなことになるなんて」


 ヴィンセントは、玉座への道を自らの愚かさで閉ざし、茫然自失となった。


 エレオノーラは、この「真実の収穫」を冷静に見届けた。彼女の目的は、私怨による復讐だけではなかった。腐敗した権力を正し、真に民のためになる政治を実現すること。そのための、これは必要な粛清だった。


 この混乱の中、エレオノーラはクラヴィス領で培った農業技術と経営ノウハウを活かし、新たな構想を打ち出す。それは、クラヴィス領を中心とした近隣の領地と共に「農業協同組合」を設立し、地域全体の農業を発展させ、経済圏を拡大するというものだった。多くの領主が、エレオノーラの先見性と実績を認め、この構想に賛同した。


 ルカとイザベルは、今やエレオノーラの右腕として、なくてはならない存在となっていた。ルカは農業技術の指導者として、イザベルは内政と外交の補佐役として、領地の運営と発展を力強く支えていた。彼らの目には、エレオノーラへの絶対的な信頼と尊敬の念が宿っていた。


 クライマックスの「ざまぁ」は、セシリアと貴族連合、そしてヴィンセントの完全な敗北という形で成就した。しかし、エレオノーラの物語はまだ終わらない。彼女は、復讐の先にある、新たな未来を見据えていた。

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