第17話「かるた部の合宿、はじまる」

 蝉の鳴き声が、本格的な夏の訪れを告げていた。


 終業式を終えた帰り道。制服の袖をまくりながら、心菜は汗を拭う。


「夏休み、かぁ……」


 校門を出ると、部室棟へと向かう足が自然と動いていた。


 今日は、かるた部の最後の活動日。伏見先生が「夏の計画があるから」と言っていたのを思い出し、少しだけ胸が騒ぐ。


 部室の扉を開けると、すでにほとんどのメンバーが集まっていた。


「お、心菜ちゃん! 夏だよ! 合宿だよーっ!」


 勢いよく飛び込んできたのは、案の定、愛花だった。うちわ片手ににこにこ笑いながら、隣にいた実結とハイタッチしている。


「えっ、合宿……ですか?」


「そうよ。先生と美沙希が企画してくれて。市の文化センターに一泊二日。明後日から!」


 実結がホワイトボードを指さすと、そこには大きく『合宿スケジュール』の文字。


 ・1日目

 午前:練習試合

 午後:団体戦形式

 夜:かるた講義&交流会


 ・2日目

 午前:自由対戦

 午後:ミニ大会→解散


「た、たったの二日間で、ここまで……?」


「むしろ詰め込んでこそ、合宿でしょ!」


 愛花が鼻息を荒くする。その目はまっすぐに心菜を見つめていた。


「もちろん、私は初日から心菜ちゃんにリベンジするからねっ!」


「……が、頑張ります」


 気圧されながらも、心菜は小さくうなずく。胸の奥にほんの少し、期待と不安が同居していた。


 合宿当日。


 文化センターに到着したかるた部の面々は、それぞれ荷物を持って、受付に並んでいた。


「ちょっと、実結。そんなに大荷物、必要?」


「だって、トランプとかお菓子とか、夜のおしゃべりタイムにいるでしょー?」


「君たちは修学旅行のノリか!」


 伏見先生が苦笑しながらチェックリストを確認していると、美沙希先輩がやってきて全体に声をかけた。


「夜の部屋割りは、トランプで決めます!」


 「えーっ!」と上がる声の中、愛花はにんまりと笑った。


「じゃあ、同じ部屋になったら……夜まで勝負続行だね、心菜ちゃん♪」


「え、ええっ!?」


 まるで試合のように、笑顔で迫ってくる愛花に、心菜は思わず一歩あとずさる。けれど、そのまなざしにはどこか嬉しそうな色もあって――。


 この合宿、きっと何かが変わる。

 心菜は、そんな予感を抱きながら、トランプのカードを手に取った。

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