SS3「強さと中身は別問題です」
「──スキルも強くて、戦闘力も十分。ですが……」
私はタブレットを見下ろしながら、静かに告げる。
「……正直、中身がアップデートされてませんね」
そう、彼の中には──どれだけスキルを積もうと、装備を揃えようと、未だ“はじめの勇者”のままの魂が座っていた。
「ふむ。力はある。だが、貴様らはそれ以上を求めるのか?」
彼は少し眉をひそめ、真面目なトーンで問い返してくる。
なんだろう、この“こっちが悪者にされた感”。
いや、強さに人格が追いついてないだけなんですけど?
「“選ばれし者”である前に、転生する方は“人間”であるべきなんです」
私は、なるべく丁寧に言った。
彼の目がわずかに揺れる。
きっと、過去の転生では誰も言ってくれなかったんだろう。
何をしても褒められた。
何を選んでも正解だった。
だからきっと、疑う理由もなかった。
──自分が“正しい”という前提を。
「異世界って、別にあなた専用の舞台じゃないんですよ。他にも生きてる人がいるんです」
「……」
彼は黙ったまま、少し俯いた。
MiNaが淡々と補足する。
「そもそも、ステータスとスキルだけで採用を判断するなら、AIで十分です。人格や判断力の更新が伴っていない場合、異世界での“英雄化バグ”が発生しやすく、世界の崩壊リスクが上がります」
「私が、破壊神だとでも言うのか?」
「そうは言っていません。じゃあ──あなたにとって“正しさ”って、なんですか?」
私はもう一度、彼に問いかける。
その問いに、彼は──
「……“みんなが幸せになること”。だと思っていた」
と、少しだけ、迷いを含んだ声で答えた。
うん。
たぶん、それは本気だった。
でも“幸せ”の定義が、“自分が強くてみんなを守ってる世界”しかなかった時点で、それはただの支配だよ。
「……でもそれ、他の人の意志、ちゃんと聞いたことあります?」
「……」
彼は黙った。
口を開かず、目だけがどこか遠くを見ていた。
──うん、たぶん今、初めて考えたんだろうな。
MiNaが静かにモニターを閉じながら言う。
「気づくのに、四度の転生はちょっと長かったですね」
私は、そっと溜息をついた。
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