第27話:要塞の秘密

要塞の奥深くで、僕たちは巨大な研究室を発見した。


「これは...」


机の上には、大量の研究資料が散らばっている。その中に、見覚えのある文字を見つけた。


「ルリィから得た実験記録」


その文字を見た瞬間、僕の血の気が引いた。


「私の実験記録...」


「どのような内容ですか?」


アルフィリアが資料を手に取って読み始めた。


「『両性の魂を持つ者は、変容の秘薬の効果により転性に至り、精神の境界が曖昧な存在となる』」


「精神の境界...」


「さらに、『この変容を秘薬をより高い次元に昇華することで、精神の境界を人為的に曖昧にすることができる』」


アルフィリアの声が震えていた。


「つまり、完全なる精神操作を行うことができる...」


「そんな...」


僕は愕然とした。


「私の体験が、こんな恐ろしい研究に使われていたなんて」


「ルリィさん、これは...」


エレーナが別の資料を見つけた。


「『完全なる精神操作薬』開発計画書です」


「どのような内容ですか?」


「第一段階:個人レベルの精神操作。第二段階:集団レベルの精神操作。そして第三段階...」


エレーナの顔が青ざめた。


「世界規模の精神操作です」


「世界規模...」


「しかも、後半には魔道装置についても書かれています」


カイルが驚いた声を上げた。


「『ヴィータ・デウス』という名前の装置です」


「それは何ですか?」


「詳しくは分かりませんが、精神操作の効果を飛躍的に高める装置のようです」


アルフィリアが説明してくれた。


「これがあれば、薬を使わなくても遠隔で精神操作ができるかもしれません」


「恐ろしい...」


その時、僕は机の奥にある重要そうな文書を発見した。


「これは...地図ですね」


「本拠地への地図のようです」


エレーナが座標を確認した。


「『古い地下遺跡』と書かれています」


「ついに見つけました」


カイルが興奮した。


「イグナスの本拠地です」


「これで最終決戦に向かうことができますね」


僕は希望を感じた。


でも、その時だった。


「見つけたぞ...侵入者ども」


背後から、聞き覚えのある声が響いた。


振り返ると、そこには見覚えのある人物が立っていた。


「ヴィクター・バーン...」


ハーバル・トーナメントで戦った薬草師だった。でも、その姿は以前とは全く違っていた。


目は血走り、髪は乱れ、まるで狂人のような様相を呈している。


「言ってる意味が...わから...なぃぃぃんぐぁ」


ヴィクターの言葉も怪しい。明らかに正常な状態ではない。


「ヴィクター、あなたは...」


「うるさい!全て...破壊する!」


ヴィクターが薬草を取り出した。


「『デストロイ・ポイズン』!」


ドゴォォォン!


以前より遥かに強力な毒の爆発が研究室を襲った。


「みんな、避けて!」


僕は咄嗟に『ピュリフィケーション・バリア』を展開した。


パシィッ!


なんとか防いだが、ヴィクターの攻撃は以前より格段に強力になっている。


「『カオス・ストーム』!」


ゴオオオォォ!


今度は毒の嵐が僕たちを襲った。


「『ホーリー・ウィンド』!」


僕の浄化の風でなんとか相殺したが、完全には防げない。


「ルリィ、君一人では無理だ!」


カイルが前に出た。


「『ライトニング・ソード』!」


バリバリッ!


雷を纏った剣がヴィクターに向かった。


「『アンティドート・ランス』!」


アルフィリアも解毒の槍を投げつけた。


「『フリーズ・ボルト』!」


エレーナの氷の矢も続いた。


三人の連続攻撃で、ヴィクターの動きが止まった。


「今です!」


僕は浄化の力を使おうとしたが、アルフィリアが止めた。


「ダメです、ルリィさん!」


「でも...」


「あなたの体力消耗を考えなければ危険です」


カイルも心配そうに言った。


「無理をしないでくれ」


「でも、このままではヴィクターが...」


僕は決心した表情で答えた。


「私にしかできないことがあります」


「ルリィ...」


「大丈夫。信じてください」


僕は『浄化の力』を発動した。


キイイイン...!


虹色の光がヴィクターを包み込む。


「うわああああああ!」


ヴィクターが苦しそうに叫んだ。精神操作と浄化の力が激しく拮抗している。


「頑張って、ヴィクター!」


僕は全力で浄化の力を送り続けた。


「君の本当の心を思い出して!」


「うう...ぐぐぐ...」


ヴィクターが激しく苦しんでいる。でも、だんだんと目に正気の光が戻ってきた。


「私は...私は何をしていたんだ」


ついに、ヴィクターの精神操作が解けた。


「ありがとう...やっと目が覚めた」


ヴィクターが涙を流した。


「君のおかげで、本当の自分を取り戻すことができた」


「ヴィクター...」


「でも、もう時間がない」


ヴィクターは力を振り絞って言った。


「イグナスの本拠地は...古い地下遺跡の最深部だ」


「古い地下遺跡?」


「そうだ...座標は...」


ヴィクターが最後の力で座標を教えてくれた。


「そこに...『ヴィータ・デウス』がある」


「ヴィータ・デウス...」


「それを破壊しなければ...世界が...」


そこまで言うと、ヴィクターは力尽きて倒れた。


「ヴィクター!」


僕は彼の傍に駆け寄ったが、もう息をしていなかった。


「精神操作の後遺症でしょうか」


アルフィリアが悲しそうに言った。


「長期間の精神操作は、心身に深刻なダメージを与えます」


「せっかく心を取り戻せたのに...」


僕は涙を流した。


「でも、彼の犠牲を無駄にしてはいけません」


カイルが僕の肩に手を置いた。


「最終決戦に向かいましょう」


「そうですね」


僕は涙を拭って立ち上がった。


「今度こそ、イグナスの野望を止めます」


「ヴィータ・デウスも破壊しなければ」


エレーナが重要な資料を整理した。


「これで、準備は整いました」


「でも、ルリィさん」


アルフィリアが心配そうに言った。


「浄化の力を使いすぎです。体力が限界に近づいています」


確かに、僕は相当疲れていた。短期間で何度も強力な浄化の力を使ったため、体が重い。


「でも、やらなければなりません」


「無理は禁物です」


「分かっています。でも、今度こそ全てを終わらせます」


僕は決意を固めた。


「イグナスとの最終決戦です」


僕たちは重要な資料を持って、海上要塞を後にした。


ヴィクターの犠牲を無駄にしないためにも、必ずイグナスを止めなければならない。


そして、世界を脅かすヴィータ・デウスを破壊しなければならない。


最後の戦いが、いよいよ始まろうとしていた。

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