第25話:将軍の心

皇宮の中庭で、ついにガルバス将軍と対峙することになった。


「皇帝の手先どもが!」


将軍は巨大な大剣を構えていた。その剣は両手で持ってもなお重そうで、普通の人間では扱えないほどの代物だ。


「新しい秩序の邪魔はさせん!」


将軍の目は血走り、完全に正気を失っているようだった。


「将軍!」


僕は必死に呼びかけた。


「あなたは皇帝陛下の忠実な部下だったはずです!」


「黙れ!」


ヒュンッ!


将軍の大剣が空気を切り裂いて僕に向かってきた。


「危ない!」


カイルが前に出て、自分の剣で将軍の攻撃を受け止めた。


ガキィィン!


金属同士がぶつかり合う激しい音が響く。


「うぐっ!」


カイルの足が地面に食い込んだ。将軍の力は想像以上に強い。


「カイル!」


「大丈夫だ!でも、長くは持たない!」


カイルが歯を食いしばりながら答えた。


「エレーナ、お願いします!」


「はい!『ウィンド・バインド』!」


エレーナが魔法を唱えると、風の糸が将軍の動きを拘束しようとした。


「ぐぬぬ...」


将軍の動きが一瞬鈍った。


「今です!」


僕はメンタルリーフを取り出した。


「『キュア・メンタル』!」


さらに、エーテルフラワーも同時に使用する。


「『エーテル・ブースト』!」


パァッ!


緑色と青色の光が混じり合って、将軍を包み込んだ。


「うっ...私は...」


将軍の表情が一瞬苦痛に歪み、その目に正気の光が戻った。


「なぜ私は皇帝陛下に刃を向けて...」


「そうです!あなたは操られていたんです!」


僕は希望を感じた。


「私は...皇帝陛下に忠誠を...」


将軍の声が震えていた。本来の人格が必死に表に出ようとしているのが分かる。


「そうです!思い出してください!」


僕は懸命に呼びかけた。


「あなたは皇帝陛下の忠実な部下です!」


「そうだ...私は...」


将軍の目に涙が浮かんだ。


しかし、その瞬間だった。


「グッ...頭が...」


将軍が頭を抱えて苦しみ始めた。


「うわああああ!」


まるで何かに再び支配されるかのように、将軍の表情が一変した。


先ほどの優しさは消え去り、狂気の光が再び目に宿る。


「皇帝は無能だ!新しい秩序が必要だ!」


将軍が再び大剣を振り回し、さらに激しく暴れ始めた。


「駄目だ!また精神操作状態に戻ってしまった!」


「やはり、イグナスの精神操作薬は強力になっているようですね」


エレーナが冷静に分析した。


「通常の薬草魔法では、完全に解くことはできません」


「分かりました」


僕は決意を固めた。


「浄化の力を使います」


「ルリィ、でも君の体力は...」


カイルが心配そうに言った。


「大丈夫です。将軍を救うためなら」


「私たちがサポートします」


リリアが前に出てきた。


「『ヒーリング・ライト』!」


温かい光が僕を包み込み、体力が少し回復した。


「ありがとう、リリア」


「カイル、もう少し持ちこたえてください」


「任せろ!」


カイルが再び将軍の攻撃を受け止める。


「『フレイム・ガード』!」


炎の盾で大剣を弾き返した。


「エレーナ、拘束をお願いします」


「『アイス・チェーン』!」


今度は氷の鎖が将軍の足を縛った。


「今です!」


僕は全身の力を込めて『浄化の力』を発動した。


キイイイン...!


虹色の光が中庭全体を包み込む。


「うわああああああ!」


将軍が苦しそうに叫んだ。でも、その声は苦痛ではなく、解放の叫びのようだった。


光が収まると、将軍は膝をついていた。


「私は...私は何をしていたんだ」


将軍の目には、完全に正気が戻っていた。


「なぜ私は皇帝陛下に刃を向けていたんだ」


「将軍!」


皇帝が駆け寄ってきた。


「ガルバス、君は操られていたのだ」


「陛下...申し訳ございません」


将軍は深く頭を下げた。


「いや、君は悪くない」


皇帝が将軍の肩に手を置いた。


「君を利用した者こそが悪いのだ」


その時、中庭に他の指揮官たちも現れた。彼らの目にも、まだ異常な光が宿っている。


「あの者たちも...」


「でも、将軍より軽い症状のようです」


僕は他の指揮官たちに向かって『キュア・メンタル』を使った。


「『キュア・メンタル』!」


パァッ!


今度は、その薬草魔法だけで精神操作を解くことができた。


「我々は...何をしていたんだ」


「皇帝陛下、申し訳ございません」


指揮官たちが次々と正気を取り戻していく。


「終わりました」


僕は安堵のため息をついた。


「クーデター騒動は終息です」


「ありがとう、ルリィ」


皇帝が感謝の言葉をかけてくれた。


「君たちは帝国の救世主だ」


「そんな...」


僕は謙遜しようとしたが、その時、足がふらついた。


「ルリィ!」


カイルが慌てて僕を支えた。


「大丈夫か?」


「はい...少し疲れただけです」


でも、実際は相当な体力を消耗していた。短期間で何度も浄化の力を使ったため、体が重い。


「無理をしすぎです」


リリアが心配そうに言った。


「顔色が悪いです」


「これから気をつけなければなりませんね」


エレーナも冷静に指摘した。


「あなたの体力には限界があります」


「分かりました」


僕は頷いた。


「ところで、将軍」


僕はガルバス将軍に向き直った。


「何か覚えていることはありませんか?」


「そうですね...」


将軍は考え込んだ。


「宮廷の晩餐会で、黒いローブの薬草師と話をしました」


「その後の記憶は?」


「それが...その後の記憶がないのです」


将軍は困惑した表情を見せた。


「気がついたら、皇帝陛下に刃を向けていました」


「やはり同じパターンですね」


僕は仲間たちと顔を見合わせた。


「でも、今回は成功しました」


「そうですね」


カイルが頷いた。


「一人でも多くの人を救えた」


「しかし、根本的な解決にはまだ遠いです」


エレーナが現実的な指摘をした。


「イグナス本人を止めない限り、同じことが繰り返されます」


「そうですね」


僕は決意を新たにした。


「でも、少しずつ前進しています」


「次は海洋連合ですね」


「はい。必ず手がかりを掴みます」


僕たちは帝国の秩序回復を確認してから、次の目的地に向かう準備を始めた。


戦いはまだ続く。でも、一人一人を救っていくことで、必ずイグナスの野望を止めることができるはずだ。


ただ、僕の体力消耗が気になる。このペースで戦い続けて大丈夫だろうか。


不安を抱えながらも、僕は前に進み続けた。

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