第1話 孫よ、ダンジョンに行かないか?
神々しい気配を放つ翁面を被った和装の男。
そう、世界最強のヲタクと名高い(自称) 夜月 刀命である。
「う〜〜〜ん......今日で1週間、ダンジョンをブラブラしているが誰一人として会わないなぁ」
何故俺が1週間もダンジョンをブラブラしているのかというと、こういう時は大抵ピンチに陥った有名配信者を救ってバズるというのが鉄板だからだ。
おっと、勘違いしないでくれよ?
別に、美少女配信者との出会いを求めている訳じゃあないんだ、俺は。
ただ―――――
『な、何者なんだッ、アイツは!?』
がやりたいだけなんだ。
だからこそ、男性の有名配信者でも全然構わない。
「高難易度ダンジョンなら、困ってる人もいると思ったんだけどなぁ」
そう呟きながら、刀命は数百頭の魔物の群れを剣指にて斬り伏せていく。
それはまるで、モーゼの海割りが如く。
魔物の津波と形容しても差支えの無い物量を、返り血の一滴も浴びずに捌き切っているのだ。
それだけでなく、彼の腰には日本刀が差されているが、それを抜く気は全く無い様だ。
というより、彼であれば手刀であれど魔物の軍勢を斬滅出来るので、刀を抜く抜かないは些末な事なのだ。
ちなみにだが、彼を襲っている魔物の群れを殲滅するともなれば、A級潜魔士がダースでは必要だ。
それも、その潜魔士達が死力を尽くしてようやくという注釈付きだ。
しばらく手刀を振るっていると、やがて魔物達は物言わぬ屍となり、周囲一帯は死屍累々と言っても過言ではない状態となっていた。
ブーーーー、ブーーーー
「ん?――はい、もしもし夜月です....
..えぇ、今は北海道の【試される迷宮】の方にいますよ......【雪林の
転移のために魔法陣を描きながら、【雪林の守鬼】で配信をしている人がいないかを探す。
「んーー、2人......いや、4人いるのか。よしよし、浅層故に超越種との接敵は見受けられない。人的被害が出る前に片付けたいな」
足元に描かれた魔法陣が光り輝き、転移の準備が整ったことを伝える。
「さて、行くとするか」
そう呟いて、その場から魔法陣と共に消えた刀命の瞳は、漆の様な美しい黒色から、神々しい
******
「なるほど......この手の超越種なら、人的被害が出る可能性も今暫くは低そうだな」
津々と雪が振る薄暗い林――【雪林の守鬼】の一角に魔法陣が現れ、そこから1人の男が現れた。
「再誕までに仕留めるか」
翁面を被った和装の男こと刀命は、口調は今まで通り軽いものだが、その声音は、抜き身の刀の様な鋭さと冷たさを含んだ声音で、簡潔に己の目的を設定する。
刀命がその場から掻き消え、一拍遅れて空間が爆ぜる。
彼は、純然たる己の身体能力のみで音速を軽々と凌駕し、足場の悪い林の中を駆ける。
その間、翁面から除く金色の瞳は、時折襲い来る魔物すら一瞥する事なく、ただ一点を視つめていた。
「ここか」
林の中にポツンと存在する神力と魔力によって造られた半径数メートル程の宙に浮かぶ球体――神域の目の前で足を止める。
「さてと、行きますか」
そうして、歩を進め神域の中へと突入する。
「アレだな、呪術〇戦に出てくる某火山頭の領域に似てるな」
このネタを言っても、同年代のやつらには通じないだろうなぁ。
70代前後の人達には通じると思うけど。
そんな事を考えながら、神域の中心へと目を向ける。
「へぇ......」
刀命の口角が僅かに吊り上がり、そのまま空に胡座をかいて座る。
「ククッ、気が変わった。面白そうだし、再誕が終わるまで待ってあげるよ」
先刻までの発言を無視した、見事なまでの手の平返し。
それは、圧倒的な強者故の余裕か。
はたまた、それ故の油断か。
そして、その発言を理解しているのか定かではないが、刀命の視線の先にいる真紅の鬼――いや、鬼人と呼ぶべき存在は、刀命の事を殺気立った目でジッと睨めつけている。
******
翁面が空中で高速スピンをしている。
髭がブオンブオンしている。
「あのさぁ、時間掛かり過ぎじゃない?」
魔力も使わずに、空中で寝転んで漂っている刀命が暇そうに苦言を呈する。
鬼人がその言葉に一切の反応を示さない様子を見て、刀命は肩を竦め――――鬼人の拳が、刀命の鼻先に触れるか触れないかの所まで迫っていた。
「おっと、危ない危ない」
が、その拳が刀命に触れる事は無かった。
「腰の入った拳打なんて、俺には基本当たらないよ」
刀命は、寝そべった状態から一瞬で丸太の様な腕にしがみつき、肘関節を逆方向に曲げる。
そして、そのまま体を高速で捻り、鬼人の右腕を千切り取る。
「......へぇ」
刀命が着地しようとした瞬間、業火を纏った鬼人の左拳が迫って来るが、フッと刀命の姿が掻き消え、その拳は空を切る。
「痛覚はあるみたいだけど、それをものともしない胆力。即座に思考を切り替えられる瞬発性。怒りを静かに
鬼人の背後で、刀命がぶつぶつと分析しながら、鬼人の右腕に炎が集い、腕を形成していく様子を見ていた。
鬼人は、刀命の声のする方向へと一瞬で距離を詰める。
「【権能】は神域からして恐らく、炎にまつわる概念系。優陽の劣化版といった所だろう......ま、十中八九何かしら隠し玉があるんだろうけど」
そう独りごちながら、暴風を彷彿とさせる鬼人のラッシュを体術のみで捌き続ける。
「よっ!」
一瞬の隙を付き、鬼人の両腕を跳ね上げ、刀命は右拳を鬼人の腎臓が存在するであろう部分に突き刺さす。
『グガッ――――!!』
「おぉ、中々渋くて良い声してんじゃん」
そのまま、右拳を引くのと連動させ、左拳を突き出し、くの字になっている鬼人の顎を打ち抜き脳を揺らす。
その後もひたすらにラッシュを続けていると、鬼人の魔力と神力が膨れ上がる。
「おっ?」
ドォォォオオンッッッ!!!!
富士の大噴火すら生温いとさえ思える程の爆発が、鬼人を起点に発生する。
『グギィ......!』
爆煙の中、鬼人が口の端を歪め、嗤う。
それも、確実な手応えがあった故だ。
チンッ――――
「あぁ、そういう系ね」
爆煙の中から刀命の声が響いた瞬間、鬼人はいつの間にか地面と接吻をしていた。
「俺に爆炎を斬らせるべきではなかったな」
そのまま鬼人の顔面に、発勁を応用して純粋な物理的な衝撃と魔力による衝撃を叩き込む。
「お前の【権能】は大方、『焼却』と『自身の状態に応じたバフの付与』って感じだろ」
俺の言葉を無視して、鬼人の筋肉が怒張し、ギリギリと軋み、少しずつ、俺の右腕が少しずつ押し返されていく。
グッと更に力を込めると、膠着状態に陥るが、鬼人の筋肉が赤熱し、額に生えている2本の角が禍々しく巨大化していく。
「ガァァアアアア!!」
バチンッと右腕が弾かれ、全身を突き抜ける強烈な衝撃の後に、全身を包む超高温。
神域の縁まで吹き飛んだ刀命に、鬼人は一瞬で追い付き、ラッシュを仕掛ける。
ギシギシと神域が軋み、破砕された擬似的な大地が粉塵となり、視界を奪う。
幾許かの時が経ち、視界明瞭となった神域では鬼人が肩で息をしながらも、刀命の気配が感じられないため口元を歪めていた。
『フゥ......フゥ......ガガッ!』
「どしたん?なんか良い事でもあったのか?」
『グッ――――ガ?』
背後からした刀命の声に、反射的に業火を纏わせた腕を薙ぐ鬼人だが、返って来たのは手応えではなく、浮遊感であった。
「お前のラッシュ、中々悪くなかったぞ。口の中が切れちまった」
肩越しにそう言って、引き伸ばされた時間の中で空を舞う鬼人を金色の瞳に写しながら翁面をズラしてペッと血の混ざった唾液を吐き捨てる。
右足を半歩下げそのまま軸とし時計回りに180°回転しながら、左脚にて鬼人を反対側の縁へと蹴り飛ばす。
一足にて鬼人に追い付き、分厚い胸に前蹴りを叩き込むとバキバキバキッと胸骨が砕ける音と共に神域の壁を蹴破った。
「ほう!」
あの若さ、この短時間で、この深さにまで潜って来れるのか。
それに、特定分野では俺を超えうる可能性を秘めている様に視える。
「ダンジョン配信について一度、座学をした方が良いかもしれんな」
降り積もる雪の上にさくっと着地し、掌印を結ぶ。
「神域結界――【闘神ノ祭壇】」
刀命がそう唱えると、雪の上に真紅の線が走り、半径5m程の円が描かれる。
「こいつは俺オリジナルの技術だ。ここから出るには、術者である俺を殺す必要がある」
俺はさくっさくっと雪の上を歩きながら、かなりの勢いで水蒸気の上がる場所へと歩を進める。
「さぁ、準備運動はもういいだろう?せっかく俺が直々にお前の適応を早めてやったんだ、楽しませてくれよ?」
『権能解放――【憤怒】』
鬼人――いや、鬼神の重い声が結界の内に響いた。
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