第3話  登校

  



俺は昨日結局一睡もできなかった。




俺はいつもより一時間近く早い段階で制服の袖に腕を通した。




妹がちょうどトイレから出てきて、「お兄、壊れた?」と未確認生物を見るかのような顔でそう言われた。




俺はそのまま家を出ることにした。




外はまだ薄暗く、少しひんやりとした空気が体を包む。




まるでまだ夢の中にいるような朝特有の空気を感じながらも俺はあくびをしながら歩いていた。




俺は昨日ずっと考えていた。




彼女を好きになった気持ちは絶対に変わらない。




一目ぼれだってかまわない。好きは好きだからだ。




俺はそう自分の中で決意した。




しかし俺は、そう都合よく理解していただけなのかもしれない。




俺はあくまで彼女の顔を好きになっただけ。別に中身は何も知りやしない。




そのことから目を背けるために言い訳を使ったに過ぎない。




昨日あの教室での一件で覚悟したはずなのに。




やっぱ俺はしょせん暗い人間だ。




一晩過ぎれば元通りだ。また世界がちょっと暗いし。




あ、これは早朝だから暗いだけか。




「白石君?」




あ、そういえば昨日教室で彼女が俺の名前言ってくれたっけ。




「白石君だよね?」




しっかり覚えてくれたんだな…うれしい。




あれ、ちょっと気持ちが晴れてきたかも。




「白石君」




あれ?でももしかしてクラス全員の名前覚えてただけじゃね?




やっぱ昨日の「かっこよかった」も社交辞令?




しょせん俺なんて…




「白石君!」




「ひゃい!!」




俺はポンと肩をたたかれようやく誰かに喋リかけられていたのだと気づいて振り返る。





そこには彼女がいた。




「もう、やっと気づいてくれた…おはよう、白石君」




「あ、おはよう…」





「なんでいるの…?」





俺はついそう言ってしまう。





だってその通りだもん。





彼女はくすくすと笑いながら





「なんでって…朝起きたから?いつもこの時間に起きるからさ」





そういうことじゃないんだけどな…案外天然なところもあるのかな





なんだか薄暗い朝なのに彼女の周りだけ光っているように見えた。





なかなか気づかない俺に対してほっぺたをぷくぅと膨らませている。




かわいい。




彼女はほっぺたを元に戻して言う。




「白石君って朝早いんだね」




「いや、きょうはたまたま…」




「遅刻ばかりの人だと思ってたよ」




ちょっと傷つく。




「すごいね、頑張って起きてるの?」




「い、いやそんなことは…あります」




彼女に「すごい」と言われて俺はつい口走ってしまう。




彼女はふふっと笑った




「そっかー私もいつも早起きだからさ」




「そうなんですね」




俺が相槌を打つとまたぷくぅと彼女がほっぺたを膨らませた。




それかわいくてにやけるからやめて。




「な、なんですか…」




俺がそう聞くと彼女がはぁとためいきをわざとらしくつく。





「白石君さ、その敬語やめてよね」




「え、あ、すいません」




「ほらまた敬語」




「す…あ、ご、ごめん…」




やべ、ため口って緊張する。




すると彼女はにまーと嬉しそうに笑う。




「うれしい」




「・・・」




俺は照れて顔を背ける。




「ん?白石君どうしたの?照れちゃった?」




彼女がニコニコと聞いてくる。




「いや、車が通ったから見ただけだし…だまっとけ」




俺は苦しい言い訳をする。




すると彼女はくすくす笑いながら




「やっぱ、白石君っていい人だね。一緒に居るとちょっと楽しいかも。」




彼女の急な発言に俺は驚いた。




「え、いやどこ見て思ったのそれ」




俺がそういうと彼女が先に進みだす。




いつのまにか学校についていたようだ。





すると彼女は俺の目の間に立ち、




「今度から登校中に会ったら一緒に登校しない?」




彼女はあっさりとした笑顔をしながら密かにリュックをぎゅっと握っていたが、直人は気付いていなかった。




「い、いいよ…」




俺がそう答えると彼女はまたニコッと笑う。




彼女は「じゃ」っと言って先に走り出す




俺はその姿を見ながら昨日もこんな感じだったなとを思い出す。




教室から出ていく姿を。




「あ、名前どっちか聞いてねぇ」




そう言うとまた彼女が振り返る。




彼女は一瞬キョトンとした顔をした。




「あ、名前まだだったね。……まあいっか、また明日」




「え?」




彼女はその後何も言わず、そのまま振り返らずに靴箱へと走っていった。




俺は大きくため息をつく。




「…っどっちなんだよ…」




結局昨日の教室での彼女はあの子だったのか?





まあ今日は彼女の内面も少し知れたしいいか。





俺はもやもやする気持ちをそう思い込んで抑えた。

















次の日




ピピピピピピ




かちっ





俺は目覚ましを止める。





「六時…」




俺は重たい瞼を頑張ってあげながら準備をする。




朝食を食べて家を出ようとすると起きてきた妹と目が合う。




「お兄、やっぱ壊れた?」




今度は心配そうな目で見てきた。




俺はいつもの交差点で彼女が来たタイミングを見計らって今来ましたよって感じで合流する。




「お、今日も同じだね」



彼女がそういうと




俺は彼女と隣り合って一緒に歩き出す。




歩きながらいろんなことを話した。




しかし今日も名前は教えてくれなかった。

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