第1話 勇気
「はぁーどうしよう」
初恋相手がどっちかわかんないなんてそんなことある?
正直俺のこの恋愛感情も本物なのだろうか。
一目ぼれってよく考えたら相手のことも知らずに好きになるってことだもんな…
だめだまたネガティブになってしまう。
せっかく同じクラスなんだししゃべらなきゃ…
しかしHRが終わり、皆が転校生の彼女たちに群がっている中俺はそれを遠目から見ていた。
「北海道ってマジ?」「てか二人とも超美人!」などとキラキラな会話をしていた。
俺があそこに入れと?無理でしょ!
俺は失笑しながら思った。
生徒たちは彼女に対して死ぬほど質問をしていた。
「あははは…そうですね…」
ちょっと彼女たちも困った表情してんじゃねぇか。
さっき確か先生に「後で職員室に来て」と言われていた気がする。
彼女たちも優しいからなかなか言い出せないんだろう。
どっちかはわからねぇが好きな人が困っているのにやめないのはなんか腹が立ってくる。
「初日なんだし静かにやらしてやれよ…」
俺はつい言葉に出してしまった。
その瞬間、真ん中で話していたやつらと彼女たちが一斉にこちらを見る。
やばい、やってしまったかも。
俺は一気に顔が青ざめ、つかの間の沈黙の後、話していたやつらの一人の男がしゃべりだす。
「なに?白石、文句あんの?」
「別に仲良くなろうと思って話しかけてるだけなんだけど?」
明らかに怒ったような口調で言うこいつの名前は三浦藤戸(みうらふじと)。
クラスの中心的存在で、ザ・陽キャのみんなから好かれるタイプの人間。
ま、俺は嫌いだけど。
一回でいいから河川敷で歩いてるこいつをけり落としたい。
危機的状況に俺は場にあわないようなことを考えて現実逃避をしていた。
「いや、なにも…」
「じゃあ謝れよ」
三浦が謝罪を求めてきた。
俺は呼吸が荒くなる。
クラス中から視線を集めているというこの状態がもう耐えられなかった。
ただ「彼女が職員室に呼ばれてる」といえばいいだけなのに俺にはできない。
俺は下を向きながら
「す、す、す…」
おれが「すいませんでした」と言おうとした瞬間。
俺が目を上げると。
彼女たちの片方と目が合った。
彼女は俺を心配そうにこちらを見る。
その視線に俺は恋心を思い出す。
なぜだろうかいま目が合ったの方は確実に俺の恋した方だと感じた。
俺のせいで彼女を心配させてんじゃねえか。
俺は自分に問いかける
そうじゃねか
好きなんだろ?彼女のこと。
『一目ぼれ?今日初めて知ったんだろ?別にいいだろ。』
しかし周りの視線が俺にそのように聞こえてくる。
やっぱ俺なんか…
正直しんどい。
早く謝ってこの状況から抜け出したい。
でも
俺は顔を上げた
彼女を今日、好きになった。この気持ちは変えられない。
「か、彼女たちが…困ってんだろ…!」
俺は震えながらも言う。
「はっ何こいつ。彼女たちが困ってる?さっすが陰キャ。妄想がはかどりますねー」
「いやっだからほんとに…」
俺が三島にもう一度言おうとした瞬間。
「あ、あの…」
彼女たちがしゃべりだす。
「実は…先生に呼ばれてて…」
「あっそうなの?わりぃわりぃてっきり何もないかと思ってたよ。」
三島が彼女たちに対して明るくふるまう。
その後俺との会話はなかったのかのように向こうの方だけでしゃべりだした。
俺はずっと握っていたこぶしを緩めてどさっと自分の席に座り込んだ。
いったん冷静になって考える。
はぁ…柄にもねえことした…
そう思いながらも三島言いかえした俺はちょっと勇気を持てていた。
その後特に何もなく一日が過ぎた。
どこからか「今日の白石めっちゃきもくなかった?」「まじそれー」といった陰口が聞こえたが俺は聞かないふりをした。
*
放課後、一人教室で特に意味もなく座っていた。
すると
がラララ
誰かがドアを開け、俺が顔を上げるとドアのところに彼女が立っていた。
今回は一人だけのようだ。
でも相変わらずどっちかはわからない。
「ど、どうしたの?」
俺がそういうとくすっと笑ってから彼女は答えた。
「今日の件ちょっと困ってからさ、君がああいってくれて助かったよ。」
彼女は微笑んで言った。
「ありがとう。ちょっとカッコよかったよ、白石君。」
「え、」
俺は呆然とする。
今、かっこいいって…
「じゃ!また明日。」
彼女はそう言って帰ろうとする。
そこで俺は立ち上がって
「まって!!」
彼女は振り返る。
「どうしたの?」
「あの、柚さんか柊さんどっちですか?」
「んー」
彼女ははいったん考えてからこういった。
「内緒、だよ。」
彼女は意地悪に笑った。
「じゃ、今度こそばいばーい」
彼女が歩いていく姿を、
俺は見えなくなってもしばらく目で追っていた。
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