第5話:征夷大将軍、文部科学省に赴く

「殿ッ! 本当に、行かれるのですか……?」


「うむ。政の本丸、霞ヶ関――そこにて拙者、令和幕府の正統性を示して参る所存!」


 朝7時。通学バッグの代わりに風呂敷包みを背負い、下駄に白足袋で駅に向かう少年の姿があった。

 田所将宗、14歳。中学2年、自称・令和初代征夷大将軍。


 目的地はただひとつ。

 文部科学省 本庁舎。


 学校の道徳の授業で見たパンフレットに「若者の声を政策に生かす“こども政策意見箱”」という文言があったのをきっかけに、彼の脳内で鐘が鳴った。


「これは、使者を送れという天啓……!」

「否、使者では足りぬ。自ら赴くが筋!」


 思考時間5秒。行動まで3秒。

 すでに「意見書(全36ページ)」と「幕府開府の構想図(巻物仕様)」を完成させ、切符を買っていた。


 ――JR東京駅 八重洲口前

「……着いたでござる。いざ、政の中心へ」


 その姿、完全に不審者である。


 観光客の中で浮きまくる陣羽織姿の中学生。

 背中には「征夷大将軍」の文字。

 警備員に3回止められ、記念撮影を2回求められたあと、彼はついに文部科学省の建物前へと辿り着く。


 ――文科省受付

「はい、どのようなご用件でしょうか?」


「拙者、令和幕府の開府を此度上申すため、政の長との謁見を所望する」


「……はい?」


「大臣、あるいは次官でもよい。三条大臣殿とは直接の面識はないが、志は通ずると信じておる」


「ご、誤解を恐れず申し上げますが……お子様単独では面会は難しく……」


「む、ならばこの意見書を。かくなる上は文書による具申といたす!」


 田所は巻物(A3二枚重ね)を受付嬢に差し出す。

 さすがに混乱気味だったが、対応した係員は思わず笑いながらこう言った。


「……面白いですね。少しお時間いただければ、中で共有してみます」


「感謝仕る。拙者、玄関前の石垣にて待機いたす」


 ――1時間後

 巻物は、本当に庁内の共有フォルダに回覧された。たまたま田所のブログのことを知っていた職員がいたのである。


 部署内のチャットがざわつく。


「誰だこの子w」


「でも、意外と読みやすいww」


「“文武両道型教育幕藩体制”ってネーミング、ちょっと刺さる」


「むしろ広報で取り上げたらバズるかも?」


 午後になり、田所のメールに返信が届いた。


【文部科学省 教育政策課より】

 ご提案の件、ユニークな観点として資料共有させていただきました。

 将来的な教育施策の参考として検討させていただく可能性があります。

 今後もユニークな提案をお待ちしています。ご健闘をお祈りします。


「……これは」


 田所は震える手でスマホを握りしめ、呟いた。


「勅命、受けた……!」


 もはや、誰にも止められない。


 その夜のブログ更新:

【開府進捗】本日、文部科学省にて意見具申成功。

 幕府、国政進出の第一歩なり。

 なお、構想第19版のテーマは『義務教育の参勤交代制導入』。


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