第40話「潮風と、これからと」
午後の風が、カーテンをやさしく揺らす。
いつもの喫茶店。いつもの席。けれど、ほんの少しだけ景色が違って見えた。
沙良は制服のリボンを指先で軽く撫でると、向かいに座る優佳に、そっと笑いかけた。
「ねえ、わたし……、最近、少しだけ自分のこと、好きになれてきたかも」
優佳はその言葉に目を細め、ミルクティーのカップを揺らす。
「それは、すごく素敵なことね。沙良ちゃんが、沙良ちゃんでいること。それが、いちばんの特別だと思うよ」
店の外では、潮風が優しく吹いていた。
季節がまたひとつ巡る。
春の出会い、夏のひだまり、そして秋の風へ。
この喫茶店で過ごした日々は、沙良にとってかけがえのない宝物だった。
迷って、戸惑って、泣きそうになって、それでも――伝えたい想いがあったから、彼女は言葉を探した。
いつか、もっと強くなれたなら。
もっと素直になれたなら。
そのとき、きっと。
「わたし、これからも……この場所が好きです」
「うん。わたしも」
二人のカップが、軽く鳴った。
それは、静かで、あたたかな未来のはじまりを告げる音だった。
潮風ティータイム -海辺の喫茶店で出会った私たち- 天音おとは @otonohanenoshizuku
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