第51話 超埼玉新聞
翌日のフリースクールで、弱竹から「昨日はどしたん?」と心配そうに尋ねられた時、しおりは「美香に会えた」と言い、事の顛末も語った――弱竹は「よかったねぇ。大会で当たったら勝とうな」と言う。
卓球の時間に、弱竹は「目で見ても、手ぇの感覚に頼っても、練習はたいして変わらん。どんなサーブ相手でも、レシーブでちぃと上に打ち上げる練習しときゃええ。ウチもそがいにして、ストップ気味のバックハンドレシーブを身につけたんよ」と説明した。
鬼里火は「奥井さんも言っていたけれど、ラケットを握りすぎないように」と付け足した。
――その次の土曜日。
珍しく来客があり、奥井卓球教室のチャイムが鳴った。
奥井が「あれあれ」と言いながら玄関まで行き、扉を開けた。
「こんにちは。本日午後三時からの取材で参りました……超埼玉新聞の小暮と申します」
しおりは特訓の最中だった。
奥井は「そうだった! 忘れていた! 一旦休憩!」と言って休憩になった。
しおりはハッとして、やって来た男性の顔を見た。
――超埼玉新聞は悪いヤツ!
しおりは、超埼玉新聞は銀河健蔵の息のかかった悪の組織だと思っていた。
しおりは「奥井さん! なんで超埼玉新聞の人が取材に来るの?」と慌てた。
奥井は「……それは……その」と曖昧な反応をする。
「奥井さんは私達の味方じゃないの?」
すると察したのか「私は小暮雄大です」と人の好さそうな笑顔をして、小暮はしおりを見た。
――?
小暮は「銀河健蔵の悪事を追っている者です」と深い声で言う。
奥井は「味方のほう!」と言って、笑う。
――なんだそりゃ!
「日々の仕事とは別に、銀河健蔵について少しづつ調査しているのです」
しおりは「悪事って? 白石さんがメディアにもてはやされていることですか?」と尋ねた。
小暮は答えた――
「ゴリ押しを知っているのですね。銀河健蔵は、何か彼にしかわからない理由で特定の選手をPRするようにメディアに働きかけます。その際、裏社会マネーがばら撒かれます。超埼玉新聞も、大きな声では言えませんが上層部が賄賂を受け取っています。そうやってPRされた選手は、選手として短命で終わることがほとんどです。……それともう一つ。九年前の剣山夫妻の事故です。銀河が関与した疑いがある、と捜査関係者から情報を得ました。車体部分に銃撃されたと見られる弾痕が一カ所だけ残っていて、殺人の捜査がまだ続いているのです。ただ、娘さん――神道静香。彼女の養親の口座に、定期的に大きな資金の動きがある。出どころは銀河と見られる。彼は親権にまで食い込もうとしているのではないか。私はそう見ています。養親はグルです。お金を受け取って、警察は頼らない。時間の問題で神道静香は銀河の養子になるでしょう。ここからは憶測です。極道であるが故に日の当たる道を歩めなかった銀河は剣山に嫉妬していた。だから生まれながらに自分と同じ宿命にある娘・きらりと、剣山の娘・神道静香を同じ将来に縛り付けたい」
しおりは驚いて言葉を失った。
小暮は「さて、今日は取材に来ました。村木さん、私と卓球をしよう」と言うと、スーツの上着を脱いだ。
「ええ? 取材ですか?」
「そうです。『天下の道場破り娘』という見出しで小さな記事を書きますよ。大会前のいずれかの日に朝刊に載せます」
「ゴリ押しですか?」
「銀河のゴリ押し依頼ではないですよ。私が企画したのですよ」
小暮はシェイクハンドのラケットを鞄から取り出すと、「ラリーをしましょう」と言ってワイシャツにネクタイ姿で卓球台に向かった。
しおりは小暮とラリーをして、その後で友達と一緒に写真撮影をした。インタビューは大会に向けての抱負や練習で一番頑張った事など当たり障りのない内容だった。
小暮は「それじゃあ、これを記事にします」と言って荷物をまとめ、「今は、こういう取材を地道に積み上げていく事しかできないです。卓球の人気沸騰で、読者は増え続けています。銀河のゴリ押しは、十中八九、脚光を浴びなかった現役時代を思い起こしての嫉妬心です。裏社会マネーでメディアを制御する側に回ることが愉悦なのでしょう」と言う。
しおりは「でも銀河健蔵の地下闘技場で立会人になるオジサンも超埼玉新聞の人ですよね?」と尋ねた。
「銀河健蔵と直接やり取りをしているのは取締役の大熊だね。地下闘技場の件は散々だったね」
「あ、思い出した! そうです、大熊って呼ばれていました!」
「あれは熊谷ベアーズの依頼ですよ。SNSアカウントのフォロワー数、千人ってそこまで多くないと思うかもしれないですけど、埼玉県内のカブ女子って狭い世界ですからね。界隈人にはうんと有名なのですよ。『ウチの白石瑠花をPRしているのに、あんなふうに有名になろうとする子がいるのは困る』と言って、超埼玉新聞経由で銀河に依頼が入ったのですよ。潰しです。途中で引分けになってよかったですね。ここからは憶測です。銀河としても、完全に熊谷ベアーズの言いなりになるのが不本意だったのでしょうね」
弱竹は「ちょい待ち。今川めいぷるって何者なん? 見ようによっちゃ、あいつが特別扱いされて終わったんじゃ」と言う。
小暮は「目敏いですね。今川は銀河の愛人……今川めいぷるは愛人の子で、銀河きらりの異母姉ですよ」と答えた。
弱竹は「詳しいなあ! なんでも知っとる!」と感心した。
小暮は「それでは、健闘を祈ります」と言う。
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