第6話 涙を流す幼いノア

 周囲を見渡したが、ノアちゃんの母親らしき姿は見えず、ひとまず中で話を聞く事にした。


「ノアちゃん。ホットミルクで良いかな?」


 ずっと外で誰かが出て来るのを待っていたようだし、身体が温まるものが良いだろう。

 ノアちゃんが小さく頷いたので、昨日購入したミルクを火にかけ、人肌まで温めたら、ハチミツをほんの少しだけ入れる。


「あったかい……おいしー!」


 ノアちゃんが美味しそうに飲むのを見て、マリーも欲しそうに見つめてくるので、同じものをコップに入れてあげた。


「えっと、ノアちゃんは何て言われて、ここにやって来たのかな?」

「あのね、きょうからノアは、パパといっしょにくらしなさいって」

「そのパパはどこに?」


 そう言うと、ノアちゃんが不思議そうに小首を傾げる。


「しんぷさんが、ノアのパパだって、ママがいってた」

「えぇっ!? ますたー! そうなのっ!?」


 いやいやいや、そんな訳ないから。

 この世界へ来たのは数日前だし、そもそもそんな関係になった相手もいないしさ。

 一応、フローラが妻候補ではあるけど……と、それより今はノアちゃんの事だ。

 幼い子供だし、慎重に対応しなければ。


「えっと、ノアちゃんはこの村に住んでいるのかな?」

「ううん。きょう、ばしゃにのって、きたのー」

「どこから?」

「おうちからー」


 うーん……四歳児から、どこに住んでいたかを聞きだすのは無理か。

 とりあえず、この村の住人ではないという事はわかった。

 だけど、どうして村の者ではない女性が、子供を置いていったのだろうか。


「ノアちゃん。マリーと一緒に、少しだけ待っていてくれるかな? ちょっと出掛けて……」

「やだっ! パパ、いかないでっ!」


 俺は君のパパじゃない! と、言ってしまうのは簡単だが……困ったな。


「フローラ。村の人たちから、ノアちゃんに関する情報収集を頼む」

「承知しました」


 いつものように、フローラが無表情のまま頷き、走って行った。

 素材集めの間、数日間村で過ごしていた俺に対して、フローラは昨日村に姿を見せたばかりだけど、一日一緒に村の中を歩いているし、変に思われない事を祈ろう。


「ノアちゃん。じゃあ、俺とマリーの三人で一緒に遊ぼうか」

「うんっ!」

「わーい! ますたーと遊ぶのー!」


 フローラが情報収集を終えて戻って来るまでの間、鬼ごっこ……は、マリーが無双し過ぎて無理だった。

 かくれんぼは流石に危険なのでやらず、だるまさんが転んだは、ルールを教えたものの、ノアちゃんには難しかったようだ。

 他に俺が知っている子供の遊びは……と考え、錬金魔法で紙とクレヨンを作って、自由に絵を描いてもらう。

 これが一番平和だな……と思って二人を見ていたのだが、突然マリーが泣き出してしまった。


「ますたー! ごめんなさーい!」

「ど、どうしたんだ?」

「お洋服、汚しちゃったの」

「あぁ、そんな事か。気にしなくて良い……よっ!?」


 クレヨンで服が汚れたマリーの頭を撫でていたのだが、ノアちゃんはそれどころではなかった。

 どうやったら、顔にクレヨンが付くのだろうか。

 という訳で、マリーとノアちゃんをお風呂に入れる。

 特にノアちゃんは水浴びもあまりしていなかったのか、そもそも身体が汚れていたので、綺麗に洗っておいた。


「わぁ! かぁいいー!」

「マリーの服だから少し大きいけど、我慢してね」

「ううん。ありがとー!」


 ノアちゃんとマリーの着替えを済ませ、お昼ご飯を作る事に。

 サンドイッチにしようと思い、カットしたパンと具材を用意し、ノアちゃんとマリーに自分で好きな物を挟んでもらっていると、フローラが戻ってきた。


「マスター。村の人たちに聞いたところ、マスターが孤児院を運営しているという話が、近隣の村まで伝わているそうです」

「は? どうして、そんな事に?」

「おそらく、昨日のマリーと買い物へ行った時の事が、広まったのかと。マスターが、育てられない子供の面倒をみてくれると……」


 マリーと買い物へ行った時の事?

 一体何の事だと考え……あった。服屋の店主にマリーの事を娘かと聞かれ、預かってる子だと答えてしまった事だ!

 あの後、女性店員とコソコソ話していたが……あれは、孤児院の話をしていたのか!?

 とはいえ、昨日の今日だぞ!? 近隣の村までって、おそらく話題などが何もないからだろうけど、田舎の噂……広まるのが早過ぎるだろっ!

 思わず頭を抱えそうになったところで……


「……パパ。ノアは……ママがそだてられない、こどもなの? パパはパパじゃないの……? ノアはどうしたらいいの!?」


 ノアちゃんが俺の脚にぎゅっと抱きつき、大きな瞳からポロポロと涙を零していた。


 俺は……この世界を救う事を拒んだ。

 三度目の魔王討伐となり、正直言って心が疲れていたからだ。

 それに、あの国王の話しぶりからして、俺が何もしていないと分かれば、また次の異世界召喚を行うだろうから、問題ないと思っていた。

 だけど、世界を救うという大きな話の裏で、こうして泣いている子供がいる。

 俺はもう、魔王と戦える程の心の余裕はないけれど、俺の目の届く範囲で困っている子供くらいは助けても良い……よな?


「ノアちゃん、大丈夫だよ。俺たちとここで一緒に暮らそう」

「このおうちに……ノアはパパのそばにいても、いいの?」

「あぁ、もちろんだ。俺だけじゃなくて、マリーやフローラもいる。だからもう、泣かなくて良いよ。ノアちゃんはもう、独りじゃないからさ」


 泣きじゃくるノアちゃんと、走り寄ってきたマリーを強く抱きしめる。

 俺はここを、ノアちゃんの居場所にする事にした。

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