第5話 三日月

 今日の黒嶋くん、なんだか厳めしい感じ。

 眉をひそめると、もともと威圧感のある顔が、もっと近寄りがたい空気を醸すのだ。喋っているときの彼は笑顔を添えてくれるけど、真顔だと――それも、自分の作品へ向けられた顔だと思うと、ちょっぴりだけ緊張しちゃう。

 マスキングテープは剥がしやすいよう端を折り返してある。でも大きな手には細かすぎたみたいで、彼は写真をつまんで剥がしていた。ごめんね気が利かなくて。

 静かにしてるねと言ったから、わたしは手持ち無沙汰。黒嶋くんを鑑賞していよう。

 毛量のある髪をときどき鬱陶しげにかきあげる。オーバーサイズの黒いTシャツから覗く立派な腕。彼は筋トレが趣味なのだ。仲のいい男子たちによく「筋トレはいいぞー」と勧めているのを思い出して、ひっそりと笑う。スクワットと腕立て伏せは毎日欠かさないらしい。腹筋はたまにしかしないと言っていたけど、この前、暗室へ入っていく彼がTシャツの裾で汗を拭ったときに見えたお腹はしっかり割れていた。食事制限はしていないみたいなのに。秘訣でもあるのかしら。そういえば、あの日は袖をまくって肩まで見えてたのもよかったな。

 うん、とても、鑑賞に値する。

 スマホの標準カメラアプリを開いて白いボタンをタップする。カシャ、と安いシャッター音が響いて、でも彼はこっちを見もしなかった。


 少しして最後のページに辿り着いた黒嶋くんが、「ん?」と首をかしげる。

 贅沢にも三枚しか貼らなかったのだ。

 六月二十八日の夜に撮影した月。光がぶれて、丸っぽいように見える。本当はぜんぜん、丸くなんてない。

 六月三十日、お昼。サークル室でカップ麺を食べる黒嶋くん。同日夜、自室のパソコンに映したはてなマーク。

 その三枚を眺める黒嶋くんの目もとがわずかに緩んだ。これは、気づいちゃったかな。

「別にいいんすけど。僕、クロワッサンの美味い店なんて知らないっすよ」

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