私たちはイミテーションジュエルの街を歩く

野々宮ののの

第一章

第1話:模造宝石の街

 裏通りの小さな雑貨屋がセールをしていたから、イミテーションジュエリーの詰め合わせを500円で買った。ガラスやアクリルで作られた模造宝石は見るからに安っぽいけれど、身につけてみたら少し気分が上がった。

 新宿駅を出て、表通りを進む。華やかな街を魚みたいにスイスイと泳いでいく。やがて裏通りに立ち入る。細く汚れた路地。角を曲がって、また曲がって、曲がって。

 街はいつでも、宝石箱をひっくり返したみたいにキラキラ、キラキラと輝いている。でも、本物の宝石みたいな高貴さはない。娯楽を散らかした、といった印象の街並みはガヤガヤと賑やかで品性に欠ける。まるでイミテーションジュエルの街だ。だからエナは模造宝石を付けて、ゴチャゴチャと散らかった街を歩く。そういうのも悪くない。


 この街は迷路みたいで、初めて踏み入った16歳の頃には何度も迷子になった。けれど、もう歩き慣れた。細い裏路地の隅々にまで詳しくなった今なら、迷子になる心配もない。治安が悪いことは重々承知だけど、危険そうな雰囲気を敏感に察知して回避することにも慣れてきた。


 汚れとサビと落書きばかりの雑居ビル。その裏手に回り、非常階段から2階へ。飾り気のない古ぼけた扉にはスプレーで落書きのように『G&X』と書いてある。この扉を開けて店に滑り込む。

 この店には看板がない。一見して、店だと判断することは不可能だろう。それでも『G&X』には、表に出ない情報を辿って客がやってくる。店を案内する媒体があるらしいけれど、エナはよく知らない。


 店長が用意したコスチュームは少し屈めばパンツが見えてしまうような馬鹿げた代物だ。キャミソールの胸元もガバッと大きく開いている。品性のない衣装だからこそ、チープな模造宝石ネックレスとの相性がいいのだ。

 布面積の少ない衣服をまとい、髪を無造作に結い上げ、アクリル宝石のネックレスを付け、ヒールの高いミュールを履いて薄暗い客席へ。

 夕方の店は色欲にまみれた客たちでまずまず混み合っている。ホールの天井からはヒラヒラとした布のシェードが無数に垂れ下がっている。これは、隣の客のことを気にせず過ごすための工夫だと、店長が得意げに言っていた。

 この店で、エナを格別に気に入っている客は少なくない。指名が被るときには、チップを多く積んだ客の隣へ行くことになっている。今日、より多くの金を払ったのは常連の中年男。あいつは、芋虫のように太い指でエナの体を撫で回すことに至高の喜びを感じるタチだ。触られたからといって拒否するなんてことはない。むしろ、触らせるだけで客が集まるなら安いものだ。適当に体をくねらせて耳元で「もう、いやらしいんだから」なんてささやけば、それで金になる。


 一般的な夜の店は法律や法令、そして紳士協定のようなものをベースに営業しているはずだ。でも、体を触らせずに会話をするだけで金を稼げる店があるなんて、エナには到底信じられない。

 国力が落ち治安が悪化したこの時代に、大人しい商売をしていたら淘汰とうたされる。まして夜の街なんてのは無法地帯だ。体を触られるくらいならマシで、もっと際どいこと、あくどいことをしている店もわんさかあるだろう。

 自分が在籍する店は違法。エナにそういう認識はある。違法でなければ堂々と看板を出せばいい。それができない時点でお察しだ。それでも店の営業は成り立っている。違法と分かっていても働きたがる女の子がいて、違法と分かっていても来る客がいるから。

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