狂世界・オーバーナイトガール -4-

「……キミコ……?」

 リリカが目を覚ましたのは、それからすぐのことだった。

 号泣する声が、ようやく脳に届いたのだ。

 ゆっくりと目を開けて、声の主の方を見る。前の方の座席に、キミコが突っ伏して泣いているのが見えた。

 すぐに体を起こそうとするも、鉛のように重い。まるで、「まだ眠っていろ」と抑えつけられているようだった。

 だが、泣いている者がいる以上、そのまま力尽きるリリカではなかった。全身に力を入れて、その足を踏ん張って、何とか起き上がった。すると、体が嘘のように軽くなった。

 リリカは弱っているキミコに駆け寄り、すぐ背中に手を当てた。

 直後、キミコは飛び上がり、勢いのまま。リリカに頭突きを食らわせた。

「おごふっ」

 悶絶するような痛みが襲い掛かるも、リリカは必死に意識を留めた。

「……リリカ!」

 キミコはすぐに気が付き、リリカに土下座した。

「マジでマジでマジでマジでごめんんんん!」

 あまり勢いにリリカは若干引きつつも、「大丈夫だよ、もう」と優しく言う。


「──それで、みんな死んだんだっけ……?」

 リリカが気味悪そうな顔で聞く。

「そうだよ、多分……」

 キミコも同様だったが、少しホッとした気持ちも混じっていた。この心細いバス車内で、やっと友達と話せた。それだけで、彼女の精神はかなり癒えていた。

「……結局アイツ、なんだったの?」

 リリカは座席に座ると、素早く足を組んだ。

「急にトイレから出てきたけど、そもそもあのマーケットに私たち以外の人なんていなかったよね……?」

 キミコもその前方の席に座り、寄りかかろうとした。

「──寄りかかっちゃダメ!」

 直後、鋭い声が響き渡る。

 二人は反射的に立ち上がり、恐る恐る後方に目をやる。

 そこには、背の高い、茶髪で長髪の女が立っていた。身には、赤のワンピースをまとっている。

「……だれ……!?」

 リリカは身構えて、キミコを庇うように立った。

「……ふふ、知ってる癖に」

 女は不適な笑みを浮かべている。その手には、血に染まった出刃包丁があった。

 リリカはギョッとして後ずさり、すぐにキミコの方に振り返る。

「逃げるよキミコ! ……キミコ?」

 キミコは尋常じゃないほどに冷や汗をかき、顎をガタガタと震わせていた。

「キミコ! どうしたの!? 早く──」

「”アイツ”だ!!!」

 キミコは絶叫し、リリカを置いて車内前方に走った。

「どうしたの……!?」

 リリカが慌てて追いつき、尋ねる。

「赤いワンピースだよ! あの廃墟で私たちを殺した! アイツが!」

 キミコは運転席に座ってうずくまり、刻一刻と近づく”死”に震えていた。

 リリカもようやく理解すると、後方を見る。

「……さ、もう一回殺すよ」

 ゆっくり、ゆっくりと歩いてくる女。

 リリカは恐怖で気が狂いそうになりながらも、必死に辺りを見回す。

 フロントガラスを蹴っても、案の定割れない。

「ダメだよ……。閉じ込められてるの……。私たち、また……。あの時と同じ……」

 キミコは廃人のように淡々と言葉を並べ、そっと顔を上げる。

「むりだ……。また、死ぬ……」

 諦めたように笑うキミコ。リリカはその両肩を掴んで、運転席に押さえつけた。

「何言ってんの!? 最後まで諦めちゃ……! 諦めちゃ……」

 そう言いつつ、彼女も疲れ切っていた。

「……もう、ダメか……」

 そして、女が運転席に辿り着いた。

「死ね偽物ォォォォォォォ!!!」

 出刃包丁がリリカの喉元を、今まさに突き刺す──。

「なむさん……!」

 その直前、リリカは運転席に座り、寄り掛かった。

 それは、眠りに落ちたキミコと同じように。

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