<第1〜3話を読んでのレビューです>
団塊世代のミチたちが過去の人生経験を活かし、異世界で商いを続ける展開は、妙なリアリティと安心感を伴っている。戦闘や魔法ではなく、試食販売や訪問販売、溶接や建設業まで、手際よく描かれる日常の積み重ねが、異世界の荒れた環境に説得力を持たせている。
特に第1話の冒頭、ダンジョンの入り口で「えぇ、じゃろうぅ? お願いじゃけぇ~」と声を張り上げながら試食販売をする場面は、文章のリズムが軽快で、登場人物たちの性格や過去の経験が自然に伝わる。ここが素晴らしいのは、ただの説明ではなく、語り手のミチの人柄や団塊世代らしい逞しさまで、読者に感じさせることに成功している点だ。
また、第2話以降の過去描写や、倒産や借金といったリアルな失敗体験も、異世界転生後の商いに意味を持たせており、物語に厚みを与えている。昭和から平成、令和までの経験が異世界で活きるという構造は、単なる転生ファンタジーではなく、人生の知恵や苦労を持ち込むユニークな視点になっている。
全体として、異世界ファンタジーの枠組みを活かしつつ、リアルな人生経験と商才を活かすキャラクター描写が非常に心地よく、ユーモアと温かみが同居した世界観を楽しめる作品である。