第14話 陰日向者。今後の関係に色々戸惑う

 無事にモデルの撮影も終わり帰れるかと思ったが有栖川さ…有栖川にあの写真を見せられては帰るわけにもいかなくなってしまった。


「……やっと終わったか。なんかお土産に海パン貰ったが。いつ履くんだよ。陰キャに海パン着てプールか海に行けってか?」


「光君。お疲れ様でした。(ど、どうしよう。どうしよう。光君が帰っちゃう。帰っちゃうっ! ど、どうにか引き留めてないと。私の部屋で昏睡こんすいさせたいのにどうしよう)」


 有栖川さんが俺を見て焦っているがどうしたのだろうか?


「あ、ああ。有栖川さん。今日はありがとうまさかトップアイドルと撮影出来るなんて夢にも思わなかったから良い思い出になったよ」


 いちを彼女にお礼を言うのが筋というものだろう。そのお陰でサングラスと海パンを手に入れ。結構なバイト代出してくれたしな。


「い、良い思い出ですか?……つっ……そ、そうですね。今日はありがとうございま……た」


 有栖川さんはしょんぼりしながら俺にお礼を告げて来た。なんだ? 何か悪い事でもしたかな俺?


「まぁっ! 可憐ちゃんっ! 何泣いてるのよっ!……ちょっとちょっとっ! 汐崎ちゃん~! 私達の可憐ちゃんを泣かしたの? 東京の海に沈めるわよ」


「はい? いや。俺じゃない。俺は何もしていないって。霞鬼かきさん。有栖川さんがいきなり泣き始めたんだ」


 筋骨隆々のオネエ事。霞鬼かき五里ごりさんが俺の目の前で両手をゴキゴキさせて迫って来た。


「いきなり泣き始めた?……可憐ちゃん。どうしたのよ。いったいお姉さんに聞かせてみなさい」

「はい。霞鬼さん。実はこのままだとお別れになっちゃうんです……」


 お姉さん?……何言ってんだ? そのガタイでそう名乗るは無理があるだろう。


 つうか。有栖川さんと霞鬼かきさんは何を話し合っているんだろうか?


「まぁっ! そうなの? それならなんで先に言ってくれなかったの? 汐崎ちゃん。ちょっと来なさいよ(ボキッボキッッ!)」


 ……両手をゴキゴキさせながら呼ばないでくれよ。何されるの俺?


「は、はい? なんでしょうか? 霞鬼さん」


「私。可憐ちゃんが赤ちゃんの頃からの専属のカメラマン兼化粧係なのよ。それで千葉とかの収録スタジオとかにも一緒に付いていくのよね」


「はぁ……そうなんですか。(こんな人が専属のカメラマン《ボディーガード)なら確かに誰も寄り付けんし声もかけんだろうな。そりゃあスキャンダルも起きるわけがないな》」


「貴方の住んでる所って千葉辺りよね?」


 なんでこの人俺の住んでる地域特定し始めてるんだ? 怖いんだが。


「は、はぁ。そうですね。そこら辺です」


「なら。貴方、今度から可憐ちゃん専属のモデルなりなさいよ。ちょうど千葉にも有栖川系列のスタジオがあるから直ぐ来れると思うし。バイト代もたんまり出してあげるわよ」


「はぁ? モデル? 有栖川さんのですか? 何でです……か?」


 パキンッ……パンッ!……俺が抗議しようとした瞬間。霞鬼さんが手に力を入れ持っていたカメラが粉々に粉砕された。どんな握力してんだ? この人。つうか怖いだが。


「拒否権はないわよ。それに何でですって? 全ては可憐ちゃんの為よ。この娘の為なら私いえ、私達は何でもするのよ……ほら。可憐ちゃん。お膳立てしてあげたんだから。後は自分でなんとかしなさい」


「は、はい。ありがとうございます。霞鬼さん」


「うんうん。良い顔してるわね。私は後片づけがあるからまた後で来るからね。汐崎君。それじゃあまた会いましょう。可憐ちゃんと一緒にね。これから長い付き合いになりそうで楽しみだわ。ウフフ」


 霞鬼さんは有栖川さんに目配せすると現場の片付けをし始めた。


「有栖川さん。ちょっと話に付いていけなかったんだが。俺が有栖川さんの専属モデルってどういう事……」


「さんはいらないです。有栖川かもしくは可憐って呼んで下さい。光君。これはお願いです」


「あ、ああ。じゃあ有栖川って呼ばせてもらう…いや。そうじゃなくてだな」


 ……なんか。さっきより強気に喋って来るんだが。なにかあったのか? この娘。


「そ、それと……光君。私の専属モデルになってくれありがとうございました」


「ん? いや。それは強制的にさせられたんだが。まぁ、暇な時はやらせてもらうよ(まぁ、高いバイト代出してくれるなら良いか。それにさっきの話だと都心まで出向く事もなさそうだしな)」


「そ、そうですか。嬉しいですっ! それと今から私の家に来ませんか? 家。お部屋にプールがあってナイトプールが出来るんです」


 ……このトップアイドルは何を言っているんだろうか? 仕事のし過ぎで疲れてるんだろうな。可哀想に。


「い、いや。遠慮しとくよ。俺はこのまま家に帰って寝る……」


「き、来てくれなかったら。この写真を光君の幼馴染みさんの葵さんに見せちゃいますっ!……良いんですか?」


 有栖川は首元にかけていたブック型のロケットペンダントを開けるとその中に入っていた写真を俺へと見せて来た。


「は? 写真?……ちょっ! おいっ! それって昔、あの娘と撮った写真?! なんで有栖川が持ってんだ?」


「今はまだ内緒です。それよりもこれからは私と定期的に撮影とかで会って下さい。それとこれから私の部屋でナイトプールしましょう。織姫葵さんもご一緒に……です。ちょっと強引なお願いですがお願いします。このチャンスを逃したくないんです」


 有栖川の綺麗な瞳からハイライトが消え。撮影前に見せていたちょっと闇を抱えた人の目をしている……ああ、これ逆らったら駄目なタイプの娘だ。


 そして、あの写真を葵に見せられたら俺が葵に何をされるかも分かったもんじゃない。ここは素直に従うしかないか。


「ああ。分かった。有栖川の家に行くよ。葵も一緒にな。(葵がいれば変な事は起こらんだろう。どうせ少し遊ぶだけでなんにも起きるわけないもんな)」


「……本当ですか? あ、ありがとうございます。光君」


 有栖川は俺の両手を掴むとその場でピョンピョン跳ねながらめちゃくちゃ喜んでいた。


《有栖川ビル別棟 マンション側》


「スゲーな。最近の都心のビルってマンションとショッピングモールとかと直結して移動できるのか」


「は、はい。それに有栖川ビルには撮影スタジオのほかにも音楽や収録のスタジオをあってですね。わざわざ別の場所に移動しなくても良いんです。最近はテレビに出演する機会を減らして独自に動画配信やライブなんかもやるので移動する為の時間やコストも抑えられるんで効率的なお仕事ができてですね……」


 マシンガントークで近年の芸能界の事を俺に話してくれているが。仕事への熱量がハンパじゃないのが伝わってくる。


 流石、無敵のアイドルと称される娘だ。面構えが違う。


「凄いセキュリティね。私達とは住む世界が違うわ。流石、名家の娘ね。カレンちゃんって……」


 普段。テンションが高いギャルな葵もマンションの設備を見て驚きを隠せないでいる。


 それはそうだよな。都心のビルとマンションが直結して中のセキュリティや内装も洋楽の映画でしか見たことない世界が広がっているんだからそんな反応になるのも頷ける。


「光君。葵さん……着きました。どうぞ。ここが私のお家です」


 有栖川に案内されるままエレベーターに乗り最上階へと辿り付き。とある部屋へと案内されその中へ入ると……そこは都心をまるっと一望できる景色が広がる部屋へと繋がっていた。


「「凄い景色……」」


 思わず俺と葵は同じ台詞を漏らした。


「これがトップアイドルの財力ですよ……なんちゃって。夕食は何かラウンジで頼みますね。その後は外のプールで遊びましょう。光君……あっ! もしもしお食事をお願いしたいんですけど。はい。3人分です」


 有栖川は電話の子機を取るとどこかに連絡し始めた。ラウンジとか言っていたがまさか頼めば食事まで用意して持ってきてくれるのか? どんな世界だよ?


「凄いわね。カレンちゃんって。私達とは住んでいる世界が違うわ」


「だな……しかしどんだけ稼いだら。こんな生活が出来る様になるんだろうな? 凄すぎるな無敵のアイドル」


「ん~? 産まれて来てからずっと芸能界の最前線で戦い続ければじゃない?」


 俺は葵とそんな話をしながら有栖川の電話が終わるのを待っていた。そして、それから数時間後事は起きた────



「光君。私と葵さん。結局どっちが良いんですか? 答えて下さい……」


「そ、そうよ。さっさと選んではっきりさせなさい。光っ!」


 都心のビル一棟の中にあるナイトプール内で俺は金髪ギャル幼馴染みと日本のトップアイドルの2人から究極の選択を迫られていた。


「……どっちも可愛いと思うぞ」


「どっちもは駄目よ。1人だけを選びなさいっ!」

「どっちもでは駄目です。1人だけを選んで下さい」


 どうしてこんな状況になっているのかというと。有栖川からとある過去について聞かされたことがこんな状況に陥る発端だった。


 くそ~、まさかこの2人が短時間で仲良くなり結託するとは思いもしなかった……


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