第13話 無敵アイドルは陰日向者に近づきたい

「はい。少年~! 笑顔笑顔よぉ~、サングラスの間からその綺麗な眼を覗かせる様に目線を頂戴」


「は、はい……分かりました」


 陰キャになんて高等テクニックをやらせる気なんだ。出来なくはないが顔の頬がつるんだよな。


 だがしかし。小さい頃両親に色々な習い事をしてきた俺ならなんとか出来るだろう。


「しゃあ~////……(光君が近い近い。それに光君の水着姿が近い。綺麗だよ~)」


「良いっ! 今、凄く良い顔をしてるわよ~、可憐ちゃん。流石トップアイドル。カメラマンのニーズを良く分かっているわね~」


パシャッ!パシャッ!


 カメラの連写の音が撮影所に響き渡っている。そして、あのカメラマン俺と有栖川さんとでの撮影時の扱いが変わりすぎていないだろうか? 


 抗議してやろうかとも考えたが。筋骨隆々のオカマに逆らって何をされるかも分からない為、大人しくしておく事にしよう。



「この格好。さすがに恥ずかしくなってきたな……」


 現在の俺の格好海パン一丁にサングラス。そして、有栖川さんはというとトップアイドルが素肌美しい水着姿………ではなかった。


 水着の上には紫外線防止の為のラッシュガードという衣服を羽織り。下は膝の丈まであるショートパンツを履いている。


 なぜ俺が知っているのかというと。撮影前に雑誌で宣伝する為のグッズの一覧を撮影資料として見せてもらったからだ。


 それらグッズを有栖川さんが身に付け。撮影し今年の目玉夏商品として雑誌、ネット広告、動画配信等で広く宣伝し販売していくらしい。


 かくいう俺が柊さんから貰ったサングラスも宣伝するグッズの中の1つに載っていた。


 流石が日本が海外に誇るトップアイドル。そう簡単には素肌など見せてくれるわけがない。


 ATフィールドも顔負けの防御で固めていればカオル君もビックリする事だろう。


 ……だが何故か俺だけ海パンに着替えて来いと言われ。スタジオの近くにあったトイレで着替えてきた。


 アスカもビックリ。海パン一丁の光君が今の俺である。碇君がいたらどんな顔をして心の壁を作るのだろうか? 


 ………駄目だ俺。昨日の夜エ○ァの映画を見て夜更かしたせいで頭が可笑しくなってるな。


 いや。今のこの海パン一丁の姿で写真を撮られてれば可笑しくもなるだろう。普通。


 サングラスをかけてのファッションモデルの撮影だよな? なんで海パン一丁とサングラスでトップアイドルに向かってこうべれるんだ?


 ……そして、有栖川さんは俺を見詰めてよだれらしているんだろうか?


「しゅああ~////(光君。顔相変わらず綺麗だよ~、腹筋割れてるよ~、肌綺麗だよ……役得過ぎるよ~)」


「は~い! それじゃあポーズ変えて撮ろうか。それとそろそろ切り替えてね。可憐ちゃん」


「へぁ?! あっ! はい。分かりました…………いけます」


 よだれらしてて大丈夫か? この日本のトップアイドル。なんて一瞬思ったがカメラマンの指示があると直ぐにポーズを取り。まばゆい笑顔で撮影の仕事をこなし始めた。


「輝いてるな……(眼力が本当に凄いな。それに弾ける笑顔ってこういうのを言うんだろうか?さっきの存在感が無かったのが嘘みたいだな)」


 有栖川ありすがわ 可憐かれん。産まれた時から子役として舞台、映画、ドラマで活躍し。芸能界でその名を知らない子役とまで言われる様になる。


 幼少期に入ると音楽活動も始め。関東圏でも有数の名家である有栖川家の英才教育も受け、有栖川家の歌姫と世間では認知される様になる。


 さらにその後は女優、アイドル、バラエティーあらゆる分野で成功を収め今では日本が誇るトップアイドルの1人になり海外のファンも獲得している。


 そして、驚いた事に今までスキャンダルは一度も起こしておらず芸能界からは無敵のアイドルと称されている。


 なんて事がウィキを検索したら載っていたが……そんな凄いスターが目の前で息をもだえさせながら俺をチラチラ見ているんだろうか?


「緊張するよ~、光君。私の手を握ってくれますか?」


「手を?……何で俺の」


「そ、そうしてくれると私落ち着くんです。お願いします」


 うおっ! その透き通った綺麗な瞳で見詰められたら断れるわけないっ! そして動作一つ一つが可愛いぞ。この無敵のアイドル。



 カレンちゃんと光が一緒に撮影を始めるって聞いた時はどうなるかと思ったけど杞憂きゆだったわ。


 あのカレンちゃんの光を見るあの眼。私と同族よ。間違いないわ。だって私と同じであの娘も多分───


「へ~可憐ちゃんの眼力に普通に耐えれるんだ。流石同じ様な眼をしてるだけはあるわね。それに汐崎君の身体……筋肉のヤバいわね。ねえ? 織姫さん。汐崎君って普段何をしているのかしら? なんであんなに身体が引き締まって……」


「しゃあ~//// 光の身体。2年振りにいてしまったわ~、進化してる? 進化してるわ。明らかに進化しちゃってるじゃない。昔から武芸とかスポーツとかやってるのは知ってたけど。なによその綺麗な身体は?……いいえ。身体だけじゃないわ。顔も瞳も素敵なのよ。全くもうっ! 本当に光はどこまで私を喜ばせるきなのよ?」


「………(なにこの娘? 口からよだれ)を垂《たらしながら汐崎君に向かって凄いこと言ってるんだけど。可憐ちゃんと同じ反応なんだけど? この娘も病んでるのかしら?………織姫さん。口からよだれれてるわよ。はい。ティッシュ」


「へあぅ? す、すみません。ありがとうございます」


 ま、不味いは光のあんな姿を見れたせいで情緒じょうちょが不安定になっていたわね。反省しなくちゃ。


 この撮影が終われば光と都内をゆっくり遊びに行って。夜はスカイツリーから夜景を見る予定なんだから。


「お疲れ様~! 良い写真がいっぱい撮れたわ~、出来たら柊ちゃん経由でお家に配送してあげるから楽しみにしていてね~」


「「ありがとうございました」」


 そんな事を考えているうちに写真撮影も無事に終わったようね。後はここを直ぐに立ち去って光と都内観光の始まりね。


「葵……お待たせ」


「光。さかすがね。撮影もバッチリだったわ。そ、それとね。今回の撮影で撮った写真。私に分けて欲しいな~とか思ってるの。駄目?」


「有栖川さ……有栖川からナイトプールに誘われた。このビルの屋上にあるんだと。葵の水着は有栖川さ……有栖川が用意してくるってさ。そして、俺達に拒否権は無い」


「……はい? カレンちゃんからナイトプールに……誘われた? な、何を言ってるのよ? 光」


「だよな? なに言ってんだろうな。俺……でも有栖川のお願いだからな。断ったら何されるかわからないからな。頼むお願いだ葵。一緒に有栖川の家に付いて来てくれ。頼む」


 光は私の両手を掴むと怯える表情で私にお願いしてきたわ……光のこの怯え方ただ事じゃないわね。撮影の間にいったい何があったのよ? もうーっ!

 

 

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