3

「――それで、私に『潜入捜査』の依頼を?」


 翌日。あたしは詠美ちゃんに例の件を伝えた。当然だけど、彼女は困惑した表情を見せていた。


 それでも、あたしは諦めない。


「そうなのよ。薬物汚染の震源地が2年C組である以上、2年C組の知り合いであるあなたに頼むしかないと思って」


 あたしがそう言ったところで、詠美ちゃんはようやく折れてくれた。


「仕方ないですね。――今回だけですよ?」

「そう言ってくれるだけでもありがたいわ。――それで、『サバト』について詠美さんが知ってることって何かないのかしら?」

「そうね……『サバト』は放課後に体育館裏で行われるらしくて、主に2年C組の生徒が中心となっているんです。実際に薬物を使用しているかどうかはさておき、『サバト』に参加している生徒の大半は意識が混濁としていて、何というか……恍惚とした表情を見せているんです。まるで性的な快楽を感じているような……」

「なるほど。詠美さんが言いたいことは分かったわ。――とにかく、今日の放課後、潜入捜査の方をよろしく頼んだわ」

「志穂里さんの依頼なら、喜んで受けないとね」


 そうやって、詠美ちゃんとの交渉は成立した。――後は、潜入捜査が無事に成功するかどうかに懸かっている。


***


 これは、詠美ちゃんから聞いた話である。

 実際に「サバト」が行われている体育館裏に向かうと、無数の生徒が虚ろな表情でボーッとしていた。生徒たちは明らかに薬物を使用した形跡があったけど、その薬物がどういうモノかは分からずじまいだった。ただ、100パーセント言えることは「イメージしているほど汚らわしい儀式ではなく、ただ単に『薬物で別世界に行っている様な感じ』だった」とのことである。


 ――うーん、これだけじゃ何も分からない。あたしは詠美ちゃんからの報告を聞いて頭を抱えた。


 とはいえ、貴重な手がかりを手に入れられたことだけでもまだ前向きになれるかもしれない。あとは……「サバト」で使われていた薬物がどういうモノなのかを調べるだけである。あたしはそんなに化学に関して詳しい訳じゃないから、どういう薬物が使われたかなんて分かるはずが――。


「佐波さん、少しよろしいでしょうか?」


 あたしに声をかけてきたのは、あたしのクラスの担任である浅間先生だった。


「あの……浅間先生、私にどんな用でしょうか?」

「実は……言いにくい話で申し訳ないんだけど、理科実験室の薬品庫から薬品が多数消えていてね。探偵である浅間さんに『消えた薬品の謎』を解決して欲しいんだ」

「浅間先生、そういうのは私じゃなくて岡野くんに言ってください。私は探偵じゃありませんよ」

「それが……今日に限って岡野さんが風邪を引いて休んでしまったんだ。だから、探偵の助手である佐波さんに依頼したんだ」


 言われてみれば、今日の授業で遥斗くんの姿を見かけてなかったな。どうせ技術準備室にこもってると思ってたけど、普通に考えてそれはあり得ない。だから、彼は本当に風邪を引いて休んでいるのか。――まあ、この時期は風邪を引きやすいし、多少の欠席者が出ても仕方がないのだろう。あたしはそう思った。


「それじゃあ、あたしが『消えた薬品』を調べるしかないわね。――とりあえず、今から理科実験室に向かうわ」


「ありがとう。佐波さんがいてくれて助かったよ」


 そう言うわけで、あたしは理科実験室で消えた薬品を調べることにした。

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